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AI バブル論争 ── 巨額投資、循環取引、ドットコムとの比較

AI バブルとは、生成 AI への設備投資と AI 関連企業の株価が、将来の収益で正当化できる水準を超えているのではないか、という論争を指す言葉である。2022年末の ChatGPT 公開以来くすぶっていたこの問いは、2025年後半に中央銀行や国際機関の公式文書に載るまでになった。象徴的だったのが2025年10月8日、イングランド銀行(英国の中央銀行)の金融政策委員会が公表した記録である。
この記事は、AI がバブルかどうかを判定しない。2026年10月時点でも結論は出ておらず、ここでは誰が、いつ、どんな数字を根拠に何を言ったかを並べる。
2025年10月8日 ── 中央銀行の記録に載った「AI」
イングランド銀行の金融政策委員会は、10月2日の会合の記録をこの日に公表した。記録は "The risk of a sharp market correction has increased." と書き、株価は特に米国の過去の利益に基づく指標で割高に見えるとした。景気循環調整後の株価収益率(CAPE)から計算した益回りは過去25年で最も低い水準に近く、ドットコム・バブルの頂点に匹敵するという。S&P 500 の上位5社が占める比率は30%近くで、過去50年のどの時点よりも高かった。
記録は、AI の影響への期待がしぼめば株式市場は特に打撃を受けやすいとし、電力・データ・資源の供給網のボトルネックや、必要な AI インフラの見通しを変えるような技術上の突破も、評価額を損ないうると書いた。The Guardian は同じ日の記事で、OpenAI の評価額が1年前の1570億ドルから5000億ドルに上がったこと、そして生成 AI に投資した組織の95%が投資から全く利益を得ていないとするマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究が AI ブームへの信頼を揺るがしていたことを伝えている。
これより前、論争の口火を切っていたのは業界の当事者だった。2025年1月の DeepSeek-R1 ショック は、巨額の計算資源が本当に必要なのかという疑いを市場に植えつけた。8月には OpenAI の Sam Altman が記者との夕食の席で、ドットコム時代を引き合いに出した。Fortune が The Verge の報道として伝えたところでは、Altman は "Are we in a phase where investors as a whole are overexcited about AI? My opinion is yes," と述べ、AI はここしばらくで最も重要な出来事かという問いにも、同じく自分の意見はイエスだと答えた。
投資の規模 ── 各社の設備投資
論争の中心にあるのは、AI データセンターに注がれる金額である。各社の数字は時期によって変わり、定義もそろっていないので、発表日とあわせて示す。
| 企業 | 数字 | 時点と出典 |
|---|---|---|
| Meta | 2025年の設備投資(ファイナンス・リースの元本返済を含む)722億2000万ドル | 2026年1月28日の決算発表 |
| Meta | 2026年の見通し 1150億〜1350億ドル → 1300億〜1450億ドル | 2026年1月28日 → 7月29日の決算発表 |
| Amazon | 2026年に全社で約2000億ドル | 2026年2月5日、Andy Jassy CEO の声明(GeekWire) |
| Alphabet | 2026年の見通しを最大1900億ドルから1950億〜2050億ドルへ引き上げ | 2026年7月の決算(Outlook Business) |
| OpenAI | 今後8年で約1.4兆ドルのデータセンター関連の約束 | 2025年11月6日、Altman の投稿(TechCrunch) |
GeekWire は、Amazon の設備投資には物流網の建設も含まれ、他社とは単純に比べられないと注記している。Meta は2026年の増加の理由を、Meta Superintelligence Labs と中核事業への投資だと説明した。
循環取引 ── 出資者と顧客が同じ相手
2025年9月から10月にかけて、OpenAI をめぐる大型契約が相次いだ。
- Nvidia(9月22日)── OpenAI が少なくとも10ギガワット分の Nvidia のシステムを導入し、Nvidia は1ギガワットの導入ごとに段階的に最大1000億ドルを OpenAI に出資する意向を示した。署名したのは意向書(letter of intent)である
- Oracle(9月の報道)── DCD によれば、The Wall Street Journal は OpenAI が Oracle から5年間で3000億ドル分の計算能力を買う契約を結んだと報じた。Oracle はこの決算で受注残高(RPO)が4550億ドルに達したと述べ、株価は43%上がった。ただし受注残にこの契約が含まれるかは明らかでないと DCD は書いている
- AMD(10月6日)── OpenAI が6ギガワット分の AMD の GPU を導入し、AMD は OpenAI に最大1億6000万株の新株予約権を与えた。権利は導入量と AMD の株価目標の達成に応じて確定する
半導体を売る側が買う側に出資し、その資金が半導体の購入に戻る ── この構図は循環取引(circular deals)と呼ばれ、需要が実態以上に膨らんで見えるのではないかという批判を招いた。
約束のその後は一様ではない。Fortune によれば、Nvidia の Jensen Huang は2026年2月、1000億ドルの出資について記者団に "It was never a commitment," と述べた。OpenAI は3月31日、評価額8520億ドルで総額1220億ドルの資金調達を終えたと発表した。CNBC によれば、その内訳として Amazon が最大500億ドル、Nvidia と SoftBank が各300億ドルを約束していた。
反論 ── 「今回は利益がある」
バブル論には、立場の重い反論もある。FRB の Jerome Powell 議長は2025年10月29日の記者会見で、"This is different in the sense that these companies, the companies that are so highly valued, actually have earnings and stuff like that," と述べ、データセンターと半導体への AI 投資は経済成長の大きな源泉だとした。CNBC は同じ記事で、OpenAI や Anthropic は巨額の支出に比べて収入がまだ小さいとも付け加えている。
Nvidia の Huang は11月19日の決算説明で、"There's been a lot of talk about an AI bubble," "From our vantage point, we see something very different." と語った。この四半期の同社の売上高は570億ドルで、うちデータセンター部門が512億ドルだった。Wedbush のアナリスト Dan Ives は2025年8月の時点で、いまは1999年ではなく1996年の局面だと Fortune に書き送っている。
2026年 ── 揺れと持ち直し
2026年に入っても、警戒と楽観は交互に入れ替わった。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年7月29日 | 韓国の KOSPI 指数が前日の11%近い下落に続いて6%下げ、ひと月あまり前の高値から約4割を失った。時価総額の減少は約2.18兆ドル(Reuters) |
| 2026年9月24日 | Oracle がニューメキシコ州の Project Jupiter をめぐり、開発会社に不可抗力の通知を送ったと報じられ、株価が3%超下落。Oracle は計画どおりだと説明した(CNBC) |
| 2026年10月13日 | IMF が国際金融安定性報告書で、AI 関連資産の調整を、国債利回りの急上昇やサイバー攻撃と並ぶ主要リスクに挙げた |
IMF の報告書は、AI への投資と収益性が期待より弱いか長続きしなければ AI 関連資産の価格が調整し、レバレッジの上昇と集中したエクスポージャーがそれを増幅しうると書いた。TNW によれば、IMF は2023年以降に公表された14件の取引を調べ、主にハイパースケーラーが財務の弱い AI 企業に約3000億ドルの株式と6500億ドルの債務を投じ、見返りに約1.4兆ドルの将来の収益の約束を得ていたと分析した。一方で同じ報告書は、堅調な成長と企業収益に支えられて金融市場は底堅さを保ってきたとも書いている。
Fortune は10月17日、こうした警告が何度も出ては株価が最高値を更新してきた経緯をまとめた。同誌によれば、イランでの戦争と原油高で債券利回りが20年超ぶりの水準に上がり、FRB も利上げに戻るなかで、債務に頼るクラウド事業者 CoreWeave の株価が下がり信用リスクの指標も急上昇した。一方で Solus の Dan Greenhaus は、炭鉱のカナリアになぞらえた警告はこの3年で何度も外れてきたと述べた。同じ記事は、データセンターの所有者が2030年までに投資と金利と利益を賄うには累計8.5兆ドルの収入が要るという Gartner の試算と、AI 投資は典型的な資本循環をたどっているという Bank of America の見方も伝えている。
電力という制約
イングランド銀行が挙げた電力のボトルネックは、投資の回収を左右する現実の制約になっている。データセンターの電力需要の規模は、国際エネルギー機関(IEA)の報告 が推計を示している。2026年9月の Oracle の件で CNBC は、2.4ギガワット超の Project Jupiter が、施設に燃料を送る天然ガスのパイプライン建設の遅れや、中間選挙を前にした地元の反対に直面していたと報じた。この施設は Stargate 計画の一部である。
ドットコム・バブルとの比較
AI バブル論は、ほぼ必ず ドットコム・バブル と比べられる。ただし比べ方は論者によって正反対である。イングランド銀行は株価の割高さがドットコムの頂点に匹敵するという指標を示し、Altman はインターネットという本物の技術の上に過剰な熱狂が乗ったという点で似ていると語った。Powell は、いま高く評価されている企業には実際に利益があるという点で違うと述べた。Bank of America は、技術が期待に応えても過剰投資と競争で投資の循環は失望に終わることが多いと指摘し、"This monetization disappointment in the face of intense competition is precisely the failure mode seen in past capital cycles," と書いた。
AI が重要な技術であることと、いまの投資と株価が報われることとは別の問いである ── 2026年10月の時点で、論者の多くが一致しているのはそこまでである。
よくある質問
- AI バブルとは何ですか。
- 生成 AI への設備投資と AI 関連企業の株価が、将来の収益で正当化できる水準を超えているのではないか、という論争を指す言葉です。2025年10月8日にはイングランド銀行が AI 関連のテック企業の株価は割高に見えると公表し、2026年10月13日には IMF も AI 関連資産の調整を金融の安定への主要なリスクの一つに挙げました。一方で FRB の Powell 議長や Nvidia の Jensen Huang は、ドットコム・バブルとは違うと反論しています。
- AI の「循環取引」とは何ですか。
- AI 企業どうしが互いに出資者・貸し手・顧客を兼ねる取引のことです。例えば Nvidia は2025年9月、OpenAI が Nvidia のシステムを1ギガワット導入するごとに段階的に最大1000億ドルを出資する意向を示し、AMD は10月、OpenAI に GPU を供給する見返りに最大1億6000万株の新株予約権を与えました。IMF は2026年10月、こうした取引は一社の不振を他社に波及させうると指摘しています。
- AI バブルはドットコム・バブルと同じですか。
- 見方が分かれています。イングランド銀行は2025年10月、景気循環調整後の株価収益率で見た益回りがドットコム・バブルの頂点に匹敵すると記しました。一方、FRB の Powell 議長は同月、今回高く評価されている企業には実際に利益があると述べています。Bank of America は2026年10月、技術そのものが期待に応えても投資の循環は失望に終わることが多いと指摘しました。
- AI データセンターの電力はバブル論とどう関係しますか。
- 電力は投資が回収できるかを左右する制約の一つとされています。イングランド銀行は2025年10月、電力・データ・資源の供給網のボトルネックが AI 関連企業の評価額を損ないうると指摘しました。2026年9月には、天然ガスのパイプラインの遅れや地元の反対に直面していた Oracle のニューメキシコ州のデータセンター計画をめぐり、同社が不可抗力の通知を送ったと報じられています。
出典
The Verge が報じた Altman の発言、Wedbush の Dan Ives と Ray Dalio の見方
二次資料IMF warns $1.4tn in circular AI deals could deepen a market correction — TNW, 13 October 2026
IMF が調べた14件の取引(株式約3000億ドル、債務6500億ドル、将来の収益の約束1.4兆ドル)
最終更新: