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Trump 政権の AI 政策転換 ── Biden 大統領令撤回と Stargate 5000億ドル計画

メタデータ
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- 2020s
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2025年1月20日、第二期 Donald Trump 政権が発足した。 就任初日のうちに、 米国の AI 政策は急展開した。
その後の三日間で、 Biden 政権が築いた AI 規制枠組みは撤回され、 史上最大規模の AI インフラ投資計画が発表され、 「米国の AI 優位」を国家戦略として位置づける新大統領令が署名された。
1月20日 ── Biden 大統領令 EO 14110 撤回
就任初日に署名された大統領令14148「Initial Rescissions of Harmful Executive Orders and Actions」は、 Biden 政権の大統領令67本と大統領覚書11本を一括で撤回するもので、 その一覧に Executive Order 14110(2023年10月の「安全で信頼できる AI」大統領令)が入っていた。
失効した主要な施策:
- 大型 AI モデルの政府報告義務(訓練に用いた計算量が 10²⁶ を超える整数演算または浮動小数点演算)
- NIST 主導の安全性ガイドライン策定の指示
- 連邦各省庁の AI リスクアセスメント義務
規制が AI 開発の障害になっている、 というのが公式の説明である。 3日後の大統領令14179 は前文でこう書いた ── この命令は「米国の AI イノベーションの障壁として作用する既存の AI 政策および指令を撤回する」。 業界の反応は分かれた。 大手は表向き歓迎し、 安全性を重視する研究者と規制支持派からは強い批判が出た。
1月21日 ── Stargate Project
翌21日、 ホワイトハウスで Trump 大統領、 Sam Altman(OpenAI)、 Larry Ellison(Oracle 共同創業者)、 Masayoshi Son(SoftBank)が並んで立ち、 「Stargate Project」を発表した。
OpenAI 自身の発表文が骨子である。
- 性質: Stargate Project は、 OpenAI 向けの AI インフラを米国内に建設することを目的とする新会社
- 規模: 「今後4年間で5000億ドルを投資する意向」、 うち「1000億ドルを即座に投入する」
- 出資者: SoftBank、 OpenAI、 Oracle、 そしてアブダビの国営系投資会社 MGX
- 役割分担: SoftBank と OpenAI が主導し、 財務責任は SoftBank、 運営責任は OpenAI。 会長は孫正義
- 技術パートナー: Arm、 Microsoft、 NVIDIA、 Oracle、 OpenAI
- 建設: 「テキサスから着手し、 追加のキャンパス候補地を全国で検討中」
- 雇用: 「数十万人(hundreds of thousands)の米国内雇用」を創出すると主張
数字の性格を取り違えないでおきたい。 これは投資の意向表明であって、 支出済みの金額でも、 拘束力のある契約でもない。 4年で5000億ドルという規模感は、 アポロ計画の総額(名目258億ドル、 Planetary Society による2025年ドル換算で約3090億ドル)のおよそ1.6倍にあたる。
技術コミュニティの反応は二分した。 中国に対抗する本気度の証明と見る向きもあれば、 規模でしか優位を保てなくなった証拠と読む向きもあった。 最も直截だったのは Elon Musk で、 翌1月22日に X で「彼らは実際には金を持っていない(They don't actually have the money)」「SoftBank が確保しているのは100億ドルをかなり下回る。 確かな筋から聞いている」と書いた。 Sam Altman は同日「間違いだ、 君も分かっているはずだ(Wrong, as you surely know)」と返し、 すでに着工している最初のサイトを見に来ないかと誘った。
1月23日 ── 新大統領令「米国の AI リーダーシップ」
23日、 Trump は「米国の AI リーダーシップ阻害要因の排除(Removing Barriers to American Leadership in Artificial Intelligence)」と題する新大統領令に署名した。
内容:
- 第2条が国家政策を定義する ── 「人類の繁栄、 経済的競争力、 国家安全保障を促進するため、 米国の世界的な AI ドミナンスを維持し強化することが合衆国の政策である」
- 第5条(a)。 EO 14110 に基づいて取られたあらゆる政策・指令・規則を直ちに洗い出し、 上記政策と矛盾するものは停止・改訂・撤回する
- 第5条(b)。 60日以内に、 行政管理予算局(OMB)が連邦政府の AI 利用に関する覚書 M-24-10 と M-24-18 を改訂する
- 第4条(a)。 180日以内に、 大統領科学技術補佐官(APST)・AI/暗号資産担当特別顧問・国家安全保障担当大統領補佐官(APNSA)が「AI Action Plan」を策定し大統領に提出する
なお「AI Action Plan」は2025年7月23日に Winning the Race: America's AI Action Plan として公表され、 同日にデータセンター許認可(14318)・連邦調達(14319)・AI 輸出(14320)の3本の大統領令が併せて署名された。
これにより、 米国の AI 政策の主軸が 「安全性中心」から「優位性中心」 へと公式に転換した。
6日後 ── DeepSeek ショック
DeepSeek-R1 が公開されたのは Stargate 発表の前日、 1月20日である。 市場が反応したのはその1週間後 ── 1月27日、 NVIDIA 株は約17%下落し時価総額約5890億ドルを失った(deepseek-r1-2025)。 Stargate 発表から6日後だった。
対比は残酷だった。 米国が4年で5000億ドルを投じると宣言した直後に、 中国のチームが ── その土台となった DeepSeek-V3 の技術報告によれば、 H800 GPU 時間あたり2ドルという自前の仮定のもとで557.6万ドルの最終訓練ジョブから ── 同等クラスのモデルをオープン重みで出した。 巨額のインフラ投資は本当に必要なのか、 規制撤廃で優位を取り戻せるという前提は正しいのか。 疑問は議会にもメディアにも広がった。
宣言と建設のあいだ
それでも Stargate は進んだ。 2025年9月23日、 OpenAI・Oracle・SoftBank は米国内5サイトの追加を発表する ── テキサス州 Shackelford 郡、 ニューメキシコ州 Doña Ana 郡、 中西部の1ヶ所(後にウィスコンシン州 Port Washington)、 オハイオ州 Lordstown、 テキサス州 Milam 郡。 発表文は「計画容量で7ギガワット近く、 今後3年間で4000億ドル超の投資」に達し、 「1月に発表した5000億ドル・10ギガワットの完全なコミットメントを2025年内に確保する明確な道筋」に乗ったと述べた。 300件超の提案を30州以上から審査したという。
だが宣言と稼働は別である。 Epoch AI が2026年4月に集計したところ、 米国内7サイトの計画容量は9ギガワット超に達する一方、 実際に稼働していたのは旗艦の Abilene(8棟中4棟)だけで、 0.3ギガワットだった。 残りは基礎工事か造成の段階にある。 2026年3月には、 OpenAI と Oracle に紐づく拡張の一部が資金調達の複雑さと需要見通しの見直しを理由に縮小されたと報じられ(Oracle は後退を否定)、 Abilene では通電後に悪天候起因の停止も起きた。
5000億ドルという数字は、 2025年1月の時点でも2026年8月の時点でも、 建てられたものの総額ではなく、 建てるという意向の総額である。
規制から開発へ ── 米国の AI ドクトリン
Trump 政権の AI 政策は、 一連の文書と発表によって明確な方向性を示した:
- 国内 AI 開発の 規制緩和
- 国家戦略インフラとしての AI への巨額投資
- 輸出規制は単純な強化ではなく組み替え。 商務省は2025年5月13日、 発効直前だった Biden 政権の AI Diffusion Rule を撤回する一方、 対中規制は維持し、 2026年半ばには中国に本社を置く企業へは所在地を問わずライセンスを要求する方向へ再び締めた
- 軍事・国家安全保障領域での AI 利用の加速
これは、 EU AI Act が代表する欧州型の「リスク階層・規範重視」アプローチとは明確に異なる、 「開発・優位性重視」のドクトリンだった。 米欧の AI 規制パラダイム分岐は、 2025年初頭から本格化することになる。
中国・米国・EU の三極が、 異なる規範のもとで AI 開発を進める時代 ── 2020年代後半の AI 史は、 その三極の動きを抜きに語れなくなった。
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最終更新: