詳述 · 20件の出来事
iPhone の歴史
2000年代
2007年1月の Macworld で Steve Jobs が発表した iPhone は、半年後の6月29日に米国で発売された。物理キーボードを排し、静電容量式マルチタッチと OS X 派生のソフトウェアを電話に据えたこの機械は、後に「スマートフォン」と呼ばれる製品カテゴリ全体の文法を書き換えることになる。
iPhone OS 2.0 と同時に開設された App Store は、約500本のアプリケーションとともに公開された。Apple が公式に承認する流通網を介して開発者がソフトウェアを配信し、収益を 7:3 で分け合う仕組みは、その後の十数年にわたるモバイル経済の根幹を作った。初代 iPhone 発表時に Steve Jobs が示したのは「Web アプリだけで充分」というものだったが、わずか一年半後には、その方針は静かに撤回されたことになる。
初代から1年で発表された2世代目。3G 通信に対応し、価格を 8GB 199ドルに下げて市場拡大を狙った。前日に開設された App Store とともに、iPhone を「電話+アプリの動くコンピュータ」というカテゴリへと押し上げた。同日に世界22カ国で同時発売され、iPhone は米国市場専用機械ではなくなった。
「S」は Speed の頭文字。CPU・GPU・メモリの強化により、初代から二倍以上の性能を得た。動画撮影、音声制御、コンパス、デジタル磁石、ボイスメモが加わり、iPhone OS 3.0 ではコピー&ペースト、MMS、横画面キーボードといった基本機能がようやく実装された。一年で完成度を上げる「S 世代」の文法が、ここから定着していく。
2010年代
326ppi の高解像度パネルを「Retina ディスプレイ」と名付け、人間の視力では個々のピクセルを判別できないとうたった。デザインは前面・背面ガラス、側面ステンレスへと一変し、現在まで続く iPhone の造形言語の原型となった。一方、その側面ステンレス枠がアンテナを兼ねていたため、握り方によって信号が落ちる「Antennagate」騒動を引き起こし、Apple 史上最も派手な PR 失敗の一つとなった。
デュアルコア A5、800万画素カメラ、そして音声アシスタント Siri。発表会の翌日、10月5日に Steve Jobs が他界し、iPhone 4S は事実上、彼の遺品となった。Siri は買収した SRI 発のスタートアップ技術をベースとし、自然言語によるスマートフォン操作という発想を主流に押し出した。
アスペクト比を 3:2 から 16:9 へ変更し、画面サイズを 4 インチへ拡大。本体はアルミ筐体で薄型化、初の LTE 対応となった。最大の物議は、9年間続いた 30 ピンの Dock コネクタを廃し、リバーシブルな 8 ピンの Lightning に置き換えたこと。サードパーティ製アクセサリ市場の互換性を一度に破壊する決断だった。
ホームボタンに指紋センサ Touch ID を内蔵し、生体認証によるロック解除と購入承認を一般化した。同時に世界初の 64bit スマートフォンプロセッサ A7 を搭載 ── 業界の予想より2年早い移行で、Qualcomm を含む競合各社を不意打ちにした。Touch ID は決済システム Apple Pay(2014年)の基盤にもなる。
4.7 インチと 5.5 インチの二機種展開で、Apple は遂に「ファブレット」市場へ参入した。Samsung Galaxy Note が切り拓いてきた領域に4年遅れで応じた格好になる。発売最初の週末に1000万台を売り、それまでの iPhone 売上記録を更新。同時に Apple Pay を発表し、NFC とトークン化技術によるモバイル決済を本格展開させた。
圧力を感知するディスプレイ「3D Touch」を搭載。プレスの深さで挙動を変える新しい入力次元を試みたが、開発者・ユーザー双方からの定着には恵まれず、2018年の iPhone XR を皮切りに段階的に廃止される。Apple が出して引っ込めた数少ない UI 機能の一つ。
4インチ筐体を維持したまま中身を iPhone 6s 相当にした小型機。大画面化の流れに馴染めない既存ユーザーと、新興市場向けの低価格機を狙った戦略製品で、それまで存在しなかった「廉価かつ最新世代」というポジションを Apple のラインナップに恒常的に組み込んだ。
Apple は、1世紀近く電子機器の標準だった 3.5mm のヘッドフォンジャックを iPhone から取り除いた。当時 Phil Schiller が用いた「Courage(勇気)」という言葉は、Apple の傲慢さの象徴として揶揄されたが、結果としてワイヤレスイヤホンを家電カテゴリの主流に押し上げ、同時発売の AirPods は数年で Apple 最大の周辺機器事業となった。
初代発表から十周年の節目に、Apple は iPhone 設計の二大要素 ── 物理ホームボタンと指紋認証 ── を同時に廃止した。代わりに、画面上端の「ノッチ」に深度センサと赤外線投光器を埋め込み、顔認証 Face ID で生体認証を継続。OLED の縁無しディスプレイと組み合わせ、iPhone の造形を再びゼロから書き直した世代となった。
iPhone X が提示した新しい筐体言語(ノッチ・Face ID・縁無し)を、価格帯を分けた XS / XS Max(OLED 上位機)と XR(LCD・カラフルな低価格機)の三機種展開で量産化した世代。一年前の「実験的高級機」を、Apple のラインナップ全体に拡張した区切りだった。
標準モデルの iPhone 11 と Pro / Pro Max 二機種で、背面に複数レンズを搭載した「カメラの塊」としての iPhone を確立。低照度撮影を一気に底上げする「ナイトモード」が導入され、夜景はもはや一眼レフの専売特許ではなくなった。
2020年代
5G 対応の初代 iPhone であり、iPhone 4 を思わせる平面側面のデザインへ回帰した世代。背面に磁石を配し、MacBook で消えていた「MagSafe」の名を、ワイヤレス充電とアクセサリ取り付けの規格として復活させた。コロナ禍中の発表となり、通例より一ヶ月遅れの10月発売。
iPhone X 以来の TrueDepth ノッチを 20% 縮小。Pro モデルは可変リフレッシュレート ProMotion ディスプレイ(10〜120Hz)を初搭載し、スクロールやアニメーションの滑らかさが感覚的にも明らかに変わった。電池寿命の改善も大きく、地味だが堅実な世代として評価される。
iPhone X から5年続いた「ノッチ」を、Pro モデルでは丸いパンチ穴二つに置き換え、その黒い領域を OS が動的に拡張・縮小する「Dynamic Island」というインタラクティブな UI 要素に転化させた。ハードウェアの制約(フロントカメラ・センサの配置)を、欠点として隠さず、UI として積極的に演出した。Always-On ディスプレイも同時に導入された。
11年続いた Lightning 端子を廃し、USB-C を採用。Apple 自身の選択というよりは、EU の共通充電器規則(2022年成立、2024年末発効)への対応として迫られた変更であり、規制によって端子規格が決まった象徴的な転換でもあった。Pro モデルは USB 3 のデータ転送速度(最大10Gbps)に対応。
Apple が独自に展開する生成AIスイート「Apple Intelligence」を全面に押し出した世代。要約・書き換え・画像生成・Siri 強化を、可能な限りオンデバイスで実行する設計が特徴で、必要な場合のみ Apple 専用のサーバ(Private Cloud Compute)に処理を委ねる。AIの主導権を OpenAI や Google に渡さないための、ハードウェアと OS の共設計だった。