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AlphaFold 2 ── アミノ酸配列からタンパク質の形を当てる

AlphaFold の Nature 論文の図1。CASP14 での他チームとの精度比較、予測構造と実験構造の重ね合わせ、Evoformer を含むモデル構成図
出典John Jumper et al., Nature (2021) (Wikimedia Commons) · CC BY 4.0 · Commons で見る ↗

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2020s
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AlphaFold は、DeepMind(現 Google DeepMind)が開発した、アミノ酸の配列からタンパク質の立体構造を予測する AI である。転機になったのは2020年11月30日で、この日、構造予測の国際的な盲検評価 CASP の第14回(CASP14)の結果が公表され、AlphaFold は全標的の中央値で GDT 92.4 を記録した。CASP の主催者は、AlphaFold2 が少なくとも3分の2の標的で実験に匹敵する精度のモデルを出したと総括している。手法を説明する査読付き論文は2021年7月15日に Nature に掲載され、同じ月に予測構造を無償で配るデータベースが始まった。

「AlphaFold とは何か」に一言で答えるなら、実験に何年もかかることがあった構造決定を、計算で実用的な精度まで近づけたソフトウェアである。ただし、2020年11月の時点で公表されたのは評価結果とブログでの説明であり、論文とコードが出るのは翌年7月だった。この順序は押さえておきたい。

タンパク質の形を当てるという問題

タンパク質はアミノ酸が鎖状につながった分子で、その働きの多くは、鎖が折りたたまれてできる3次元の形で決まる。DeepMind の発表は、1972年のノーベル化学賞の受賞講演で Christian Anfinsen が、アミノ酸配列が構造を完全に決めるはずだと唱えたことを、この問題の出発点として紹介している。

実験で形を調べる方法には X 線結晶構造解析、核磁気共鳴(NMR)、クライオ電子顕微鏡があるが、1つの構造に何年もかかることがあり、高価な装置を要する。DeepMind によれば、2020年時点で配列データベース UniProt には1億8000万件の配列があった一方、実験で決まった構造を集める Protein Data Bank(PDB)の登録は約17万件にとどまっていた。

CASP14 ── 2020年11月30日の結果公表

CASP(Critical Assessment of protein Structure Prediction)は、John Moult と Krzysztof Fidelis が1994年に始めた、2年ごとの盲検評価である。実験で決まったばかりの、まだ公開されていない構造を標的にし、参加チームは答えを知らないまま予測を提出する。精度の主な指標は GDT(Global Distance Test)で、0〜100の値をとり、おおむね「正しい位置から一定距離内に収まったアミノ酸残基の割合」と読める。

指標AlphaFold(CASP14)出典
GDT の中央値(全標的)92.4DeepMind、2020年11月30日
GDT の中央値(最難関の自由モデリング部門)87.0同上
平均誤差(RMSD)約1.6Å同上
主鎖精度の中央値(r.m.s.d.95)0.96Å(次点の手法は2.8Å)Nature 論文、2021年
実験に匹敵したモデル少なくとも標的の3分の2CASP 主催者の総括

DeepMind の発表によると、Moult は GDT 90前後を、実験で得られる結果と競合する水準と非公式にみなしてきたと説明した。Nature 論文は比較の目安として、炭素原子の幅が約1.4Åであることを挙げている。主催者の総括では、96標的の約3分の2が GDT_TS で約90を超えたが、この好成績は AlphaFold2(結果表のグループ427)が大半を占めており、ほかのチームも前回より大きく伸びたと記されている。

DeepMind の発表には、Moult の次の趣旨のコメントが載っている。「私たちは、タンパク質がどう折りたたまれるかというこの1つの問題に、50年近く行き詰まってきた」。

2018年の初版から何が変わったか

DeepMind が CASP に初めて参加したのは2018年の CASP13 で、このときの初版 AlphaFold も参加者中で最高の精度を出し、手法は Nature 論文とコードで公開された。CASP14 の版は、DeepMind 自身の説明で新しい深層学習アーキテクチャに作り替えたものである。

折りたたまれたタンパク質を、残基を頂点、近接する残基どうしを辺とする「空間グラフ」とみなし、アテンションを使ったニューラルネットワークをエンドツーエンドで学習させた。入力には、進化的に関連する配列を並べた多重配列アラインメント(MSA)と、残基の対の表現を使う。Nature 論文はこのネットワークの中心部を Evoformer と名づけ、MSA の表現と残基対の表現のあいだで情報を繰り返しやり取りする構成を示している。予測した構造のどの部分が信頼できるかを示す確信度も出力する。

学習に使ったのは PDB の約17万件の公開構造と、構造未知の配列の大規模データベースで、計算資源は TPUv3 約16基(128コア)を数週間と説明された。DeepMind は、最先端の機械学習モデルとしては控えめな量だとしている。

COVID-19 と、論文・データベースの公開

DeepMind は2020年のうちに、新型コロナウイルス SARS-CoV-2 のタンパク質のうち構造が未知だった ORF3a などの予測を公開し、CASP14 では別のタンパク質 ORF8 も予測した。その後、実験でこの2つの構造が決まり、予測が高い精度で一致していたことが確かめられている。

日付出来事
2018年初版 AlphaFold が CASP13 で参加者中最高の精度
2020年11月30日CASP14 の結果公表。中央値 GDT 92.4
2021年7月15日Nature に手法論文。同時期にソースコードを公開
2021年7月EMBL-EBI と AlphaFold タンパク質構造データベースを公開(35万件超)
2022年7月28日データベースを2億件超へ拡大
2024年5月8日AlphaFold 3 を発表
2024年11月AlphaFold 3 のコードと重みを学術用途向けに公開

2021年7月のデータベース公開時、Demis Hassabis は、ヒトのすべてのタンパク質と、研究によく使われる他の20生物のタンパク質の予測を出すと書いた。EMBL によると、公開時の件数はヒトの全プロテオームを含む35万件超で、2022年7月には、科学的に登録されたほぼすべてのタンパク質を覆う2億件超へ広げられた。

同じ2021年7月15日には、ワシントン大学の David Baker の研究室も、配列・残基間の関係・3次元構造の3つの情報を同時に扱う RoseTTAFold を Science に発表し、コードを公開している。構造予測は、AlphaFold 一社の手法にとどまらない分野になった。

AlphaFold 3 と、その後

2024年5月8日、Google DeepMind と創薬企業 Isomorphic Labs は AlphaFold 3 を発表した。タンパク質だけでなく DNA・RNA・リガンドなどとの相互作用まで予測するモデルで、開発元はタンパク質と他の種類の分子との相互作用で既存手法より少なくとも50%改善したとしている。これは開発元自身の評価である。モデルのコードと重みが学術用途向けに公開されたのは、半年後の2024年11月だった。

同じ2024年、AlphaFold2 による構造予測は ノーベル化学賞 の授賞理由になった。受賞の経緯と委員会の言葉はそちらのページにある。

Google DeepMind は2025年11月の振り返りで、データベースが190か国超の300万人超の研究者に使われたとしている。一方で、2020年の発表の時点から DeepMind 自身が、すべての予測が完璧ではないこと、複合体の形成や DNA・RNA・低分子との相互作用には未解決の問いが残ることを書いていた。AlphaFold 3 はその一部に答えようとしたモデルだと言える。2026年6月19日には、AlphaFold チームを率いた John Jumper が Google DeepMind を離れ Anthropic に移ると報じられた。

研究所そのものの歩みは DeepMind と Demis Hassabis のページに、同じ時代の AI の出来事は AI の年表 にある。ゲームで人間を破った先行例としては AlphaGo がある。

よくある質問

AlphaFold とは何ですか。
DeepMind(現 Google DeepMind)が開発した、アミノ酸配列からタンパク質の立体構造を予測する AI です。2018年の CASP13 に初版で参加し、2020年の CASP14 で大幅に改良した版(AlphaFold 2)が実験に匹敵する精度を示しました。
AlphaFold 2 はいつ発表されたのですか。
CASP14 の結果が公表された2020年11月30日です。この日に DeepMind がブログで成果を発表しました。査読付きの手法論文は2021年7月15日に Nature に掲載され、同時期にソースコードも公開されています。
AlphaFold データベースには何件の構造がありますか。
2021年7月の公開時はヒトの全プロテオームを含む35万件超でした。2022年7月に、科学的に登録されたほぼすべてのタンパク質を覆う2億件超へ拡大しています。運営は DeepMind と EMBL-EBI の共同で、無償で公開されています。
AlphaFold 3 は何が違うのですか。
2024年5月8日に Google DeepMind と Isomorphic Labs が発表したモデルで、タンパク質単体だけでなく DNA・RNA・リガンドなどとの相互作用まで予測します。開発元は、タンパク質と他の分子の相互作用で既存手法より少なくとも50%改善したとしています。モデルのコードと重みは2024年11月に学術用途向けに公開されました。

出典

  1. 一次資料AlphaFold: a solution to a 50-year-old grand challenge in biology — Google DeepMind, Nov 30, 2020

    CASP14 の結果公表、中央値 GDT 92.4・自由モデリング部門87.0・誤差約1.6Å、GDT 90 についての Moult の説明、約17万件の PDB 構造で学習、TPUv3 約16基で数週間、ORF3a と ORF8

    取得日: 2026-10-05

  2. 一次資料Highly accurate protein structure prediction with AlphaFold — Jumper et al., Nature 596, 583–589 (2021), published Jul 15, 2021

    CASP14 での主鎖精度の中央値0.96Å(次点2.8Å)、炭素原子の幅約1.4Å、Evoformer

    取得日: 2026-10-05

  3. 一次資料Critical assessment of methods of protein structure prediction (CASP) — Round XIV — Kryshtafovych et al., Proteins (2021)

    主催者による総括。AlphaFold2(グループ427)が少なくとも3分の2の標的で実験に匹敵、96標的の約3分の2が GDT_TS 約90を超えた

    取得日: 2026-10-05

  4. 一次資料Putting the power of AlphaFold into the world's hands — Demis Hassabis, Google DeepMind, Jul 22, 2021

    データベース公開。前週に論文とソースコードを公開、ヒトの全タンパク質と他の20生物

    取得日: 2026-10-05

  5. 一次資料AlphaFold predicts structure of almost every catalogued protein known to science — EMBL, Jul 28, 2022

    2021年7月の35万件超から2億件超への拡大

    取得日: 2026-10-05

  6. 一次資料AlphaFold 3 predicts the structure and interactions of all of life's molecules — Google, May 8, 2024

    AlphaFold 3 の発表、少なくとも50%改善という開発元の主張、2024年11月の学術用途向けコードと重みの公開

    取得日: 2026-10-05

  7. 一次資料AlphaFold: Five years of impact — Google DeepMind, Nov 25, 2025

    190か国超・300万人超の研究者が利用(Google DeepMind の発表)

    取得日: 2026-10-05

  8. 三次資料AlphaFold — Wikipedia

    取得日: 2026-10-05

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