2024年10月8–9日T1
AI 研究にノーベル賞 ── 物理学・化学を同時受賞
10月8日、ノーベル物理学賞が John Hopfield(Hopfield ネットワーク)と Geoffrey Hinton(Boltzmann マシン、深層学習)に授与される。翌9日、ノーベル化学賞は David Baker(タンパク質設計)と Demis Hassabis・John Jumper(DeepMind の AlphaFold2 によるタンパク質構造予測)に。同じ週に物理・化学の両基礎科学賞が AI 研究に与えられた前例のない出来事で、機械学習が独立した科学分野として認知された節目となった。Hinton 自身が「AlphaFold は私の研究の延長線上にある」と言及。
メタデータ
- 日付
- 2024年10月8–9日
- 年代
- 2020s
- Tier
- T1
- 参照年表
- IT全史 ── 計算機が世界を編み変える · AIの歴史
- 出典数
- 03
- 関連項目
- 02
AI 研究にノーベル賞 ── 物理学・化学を同時受賞
2024年のノーベル賞は、 通算120年以上の歴史の中でも前例のない展開を見せた。
10月8日(火)に発表された ノーベル物理学賞 は、 機械学習を可能にした人工ニューラルネットワークの基礎研究に対して、 John Hopfield と Geoffrey Hinton に授与された。
翌10月9日(水)に発表された ノーベル化学賞 は、 タンパク質設計と構造予測のための AI に対して、 David Baker、 Demis Hassabis、 John Jumper に授与された。
ノーベル賞の歴史で、 物理・化学の両基礎科学賞が同じ週に AI 関連の業績に与えられたのは、 これが初めてだった。
10月8日 ── 物理学賞
Hopfield(プリンストン大学、 当時91歳)の代表業績は、 1982年の論文で発表した「Hopfield ネットワーク」 ── 相互結合した二値ニューロンが、 エネルギー関数を最小化する方向に状態を更新することで、 連想記憶を実現する仕組み。 統計力学(イジングモデル)の発想を、 神経回路の数理モデルに持ち込んだ。
Hinton(トロント大学/元 Google、 当時76歳)の代表業績は、 Hopfield ネットワークを確率的に拡張した「ボルツマンマシン」(1985年)と、 後の深層学習の基礎となる多層ニューラルネットの訓練手法(バックプロパゲーション、 1986年)、 そして2012年の AlexNet。
授賞理由の正式タイトルは "for foundational discoveries and inventions that enable machine learning with artificial neural networks"(人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明に対して)。
「物理学賞なのに計算機科学者に?」という議論はすぐに起こった。 ノーベル財団は、 ニューラルネットの基礎が統計力学とエネルギー関数最適化に立脚していること ── つまり物理学の概念の応用 ── を根拠とした。
10月9日 ── 化学賞
化学賞は二分された。 賞金の半分は David Baker(ワシントン大学)に、 「計算機による新規タンパク質設計」の業績に対して。 残り半分は Demis Hassabis(DeepMind 共同創業者・CEO)と John Jumper(DeepMind)の二人に、 AlphaFold2 の業績に対して。
AlphaFold は、 半世紀の生物学の難題 ── アミノ酸配列からタンパク質の3次元立体構造を予測する ── を、 ほぼ実験と同等の精度で解いた。 2020年の AlphaFold2 公開以降、 2億以上のタンパク質構造が予測され、 データベース化され、 全世界の生命科学研究者に公開された。
「化学者が長年作ろうとしてきた計算手法を、 DeepMind が3年で超えた」 ── 化学賞委員会の評価は率直だった。
同じ週に二つ
二つの賞には連続性があった。
Hopfield と Hinton が築いた「ニューラルネットがエネルギー関数を最小化する」という原理は、 AlphaFold2 にも応用されている。 Hinton 自身が受賞インタビューで「AlphaFold は私の研究の延長線上にある」と述べた。
つまり、 2024年の物理学賞は「土壌」を、 化学賞は「果実」を表彰したと言える。 同じ週に発表されることで、 ノーベル委員会は機械学習を 独立した科学分野 として認知したことになる。
Hinton の受賞講演
10月10日のノーベル賞講演で、 Hinton は技術的内容よりも、 AI の存在的リスク について時間を割いた。
「私が30〜50年先と思っていたものは、 もう先ではない」「自律兵器の禁止条約が必要だ」「強力な AI が人類を超えるとき、 我々が彼らに対して持つ影響力を保てるかは、 まだ分からない」。
Nobel 賞受賞者の発言には、 政治家や報道機関への影響力という独特の重みがある。 Hinton はそれを十分に承知の上で、 警鐘を鳴らす機会として講演を使った。
文化的影響
2024年は、 AI が抽象的な「最新技術」ではなく、 人類の知識を根本的に拡張する手段 として広く認知された年として記録されるだろう。 ノーベル賞という人類最高の科学的承認が、 そのことを公式に印したことの意味は、 業界の内側だけにとどまらない。
そして、 これは 始まり に過ぎない。 物理学賞・化学賞が AI 関連業績に与えられたなら、 数年以内に医学・生理学賞が AI 創薬で出ても、 経済学賞が AI 経済モデルで出ても、 もはや誰も驚かないだろう。