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AI 研究にノーベル賞 ── 物理学・化学を同時受賞

ノーベル賞講演でストックホルムに立つ John Hopfield
出典Jay Dixit (Wikimedia Commons) · CC BY-SA 4.0 · Commons で見る

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2024年のノーベル賞は、 通算120年以上の歴史の中でも前例のない展開を見せた。

10月8日(火)に発表された ノーベル物理学賞 は、 機械学習を可能にした人工ニューラルネットワークの基礎研究に対して、 John Hopfield と Geoffrey Hinton に等分で授与された。

翌10月9日(水)に発表された ノーベル化学賞 は、 これとは別個の賞である。 賞金の半分がタンパク質設計に対して David Baker に、 残り半分が構造予測に対して Demis Hassabis と John Jumper に贈られた。 この2つを「AI がノーベル賞を2つ取った」と一括りにするのは正確ではない ── 発表日も委員会も受賞理由も別であり、 物理学賞と化学賞の受賞者に重複はない。

ノーベル賞の歴史で、 物理・化学の両基礎科学賞が同じ週に AI 関連の業績に与えられたのは、 これが初めてだった。

10月8日 ── 物理学賞

Hopfield(プリンストン大学、 当時91歳)の代表業績は、 1982年の論文で発表した「Hopfield ネットワーク」 ── 相互結合した二値ニューロンが、 エネルギー関数を最小化する方向に状態を更新することで、 連想記憶を実現する仕組み。 統計力学(イジングモデル)の発想を、 神経回路の数理モデルに持ち込んだ。

Hinton(トロント大学、 当時76歳。 2023年に Google を退社している)が授賞対象となったのは、 Hopfield ネットワークに隠れユニットと確率的更新を導入して拡張した「ボルツマンマシン」(1983〜85年)である。 ノーベル委員会の press release は、 彼が「データの中の特性を自律的に見つけ出す手法を発明した」と要約した。 バックプロパゲーション(1986年)や AlexNet(2012年)は授賞理由には挙げられていないが、 委員会は「Hinton はこの成果の上に積み上げ、 現在の機械学習の爆発的な発展を始動させるのを助けた」と書いている。

授賞理由の正式タイトルは "for foundational discoveries and inventions that enable machine learning with artificial neural networks"(人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明に対して)。 賞金は1100万スウェーデンクローナで、 二人が等分した。

「物理学賞なのに計算機科学者に?」という議論はすぐに起こった。 委員会の論拠は、 Hopfield ネットワークが原子スピン系のエネルギーと等価な形で記述されること、 Hinton が統計物理の道具立てを用いたこと ── つまり物理学の概念の応用である。 物理学委員会委員長 Ellen Moons は発表時にこう述べている ── 「受賞者たちの仕事はすでに最大の恩恵をもたらしている。 物理学では、 特定の性質を持つ新材料の開発など、 きわめて広い範囲で人工ニューラルネットワークを使っている」。

Hopfield 自身の説明はより端的だ ── 「脳は大きな物理系であり、 その動作原理は究極的には物理の言葉で記述できるはずだ」。

10月9日 ── 化学賞

化学賞は二分された。 賞金の半分は David Baker(ワシントン大学/ハワード・ヒューズ医学研究所)に、 授賞理由 "for computational protein design"(計算によるタンパク質設計)で。 残り半分は Demis Hassabis(Google DeepMind)と John Jumper(Google DeepMind)の二人に、 "for protein structure prediction"(タンパク質構造予測)で。

Baker が2003年に、 既知のどのタンパク質とも似ていない新規タンパク質の設計に成功したのが起点である。 Hassabis と Jumper は2020年に AlphaFold2 を発表し、 半世紀の生物学の難題 ── アミノ酸配列から3次元立体構造を予測する ── を実用的な精度で解いた。 ノーベル委員会によれば、 これにより研究者が同定していた約2億のほぼすべてのタンパク質の構造が予測され、 発表以降 190か国・200万人以上に使われている。

化学賞委員会委員長 Heiner Linke の言葉はこうだ ── 「今年評価された発見のひとつは、 目を見張るタンパク質の構築に関するものだ。 もうひとつは50年来の夢 ── アミノ酸配列からタンパク質構造を予測すること ── を実現したものだ。 このどちらも、 途方もない可能性を開く」。

同じ週に二つ

二つの賞には系譜としての連続性がある。 Hopfield と Hinton が持ち込んだ「エネルギー関数を最小化する形でネットワークを学習させる」という考え方は、 その後の深層学習全体の土台になり、 AlphaFold2 もその上に立つ。

ただし、 ノーベル委員会が「物理学賞が土壌で化学賞が果実だ」と説明したわけではない。 両者を結ぶ公式の言明も、 受賞者どうしの相互言及も、 発表資料には見当たらない。 連続性は後から読み取れる構図であって、 賞の趣旨ではない。 それでも、 同じ週に発表されたという事実によって、 機械学習が 独立した科学分野 として扱われたことは動かない。

Hinton の受賞講演と晩餐会スピーチ

Hinton のノーベル講演は10月ではなく 12月8日、 ストックホルム大学 Aula Magna で行われた。 演題は "Boltzmann Machines" ── 数式を使わずに一般聴衆にボルツマンマシンを説明するという、 本人いわく「非常に愚かなこと」に挑んだ、 ほぼ全編が技術的な講演である。

AI のリスクを正面から語ったのは、 12月10日の晩餐会スピーチのほうだった。 短期のリスク(分断を煽るエコーチェンバー、 権威主義政権による大規模監視、 サイバー犯罪のフィッシング)を列挙したうえで、 彼はこう続けた。

近い将来、 AI は恐るべき新種のウイルスや、 誰を殺し誰を傷つけるかを自分で決める恐ろしい殺傷兵器を作るために使われるかもしれない。

より長期には、 我々自身より知能の高いデジタル存在を作り出したときに生じる、 実存的な脅威もある。 我々がその制御を保てるかどうか、 まったく分からない。 だが我々は今や、 それらが短期的利益に動機づけられた企業によって作られるなら、 我々の安全が最優先にはならないという証拠を持っている。

12月6日の受賞者インタビューでは、 AI が人間の知能を超える時期について「今から5年から20年のあいだに50%の確率」 ── そして「実のところそれは1年前の私の見立てで、 今なら4年から19年だろう」と述べている。 「すべて上手くいくと言う人は正気ではない。 必ず乗っ取られると言う人も正気ではない。 我々には本当に分からないのだ」とも語った。

Nobel 賞受賞者の発言には、 政治家や報道機関への影響力という独特の重みがある。 Hinton はそれを十分に承知の上で、 ノーベル週間を警鐘の機会として使った。

文化的影響

2024年に、 AI は抽象的な「最新技術」ではなく、 人類の知識を根本的に拡張する手段 として広く認知された。 ノーベル賞という人類最高の科学的承認が、 そのことを公式に印したことの意味は、 業界の内側だけにとどまらない。

ただし、 2024年が転換点だったのか一度きりの出来事だったのかは、 まだ決着していない。 2025年の科学3賞は巨視的量子トンネル効果、 金属有機構造体、 制御性 T 細胞に贈られ、 AI 関連の受賞はなかった。 それでも物理学賞・化学賞がすでに与えられた以上、 数年以内に医学・生理学賞が AI 創薬で出ても、 経済学賞が AI 経済モデルで出ても、 もはや誰も驚かないだろう。

よくある質問

2024年のノーベル賞を受賞した AI 研究者は誰か
10月8日の物理学賞が John Hopfield と Geoffrey Hinton に等分で贈られ、翌9日の化学賞は半分が David Baker、残り半分が Google DeepMind の Demis Hassabis と John Jumper に贈られた。
Hinton は何によって物理学賞を受けたのか
授賞理由は「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明」である。Hinton の側の業績は Boltzmann マシン、Hopfield の側は Hopfield ネットワークにあたる。
物理学賞と化学賞は同じ賞なのか
別個の賞である。基礎科学の2賞が同じ週にいずれも AI 関連の業績へ与えられたことが前例のない出来事だった。化学賞の対象はタンパク質設計と AlphaFold2 によるタンパク質構造予測である。

出典

  1. 一次資料The Nobel Prize in Physics 2024 — press release, NobelPrize.org

    取得日: 2026-08-03

  2. 一次資料The Nobel Prize in Chemistry 2024 — press release, NobelPrize.org

    取得日: 2026-08-03

  3. 一次資料Geoffrey Hinton — Banquet speech, 10 December 2024, NobelPrize.org

    取得日: 2026-08-03

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