人物 :: PERSON
ジェフリー・ヒントン
深層学習の中心人物。バックプロパゲーションを実用的な形で広めた1986年の Nature 論文(Rumelhart・Williams と共著)、Boltzmann マシン(1983-85年、Ackley・Sejnowski と共同)、Deep Belief Networks(2006年)、そして2012年の AlexNet を指導した実績で知られる。2014年に IEEE Frank Rosenblatt Award、2018年に Yann LeCun・Yoshua Bengio と共に ACM チューリング賞、2024年には John Hopfield と共にノーベル物理学賞を受賞した。2023年5月に Google を退社して以降、AI のリスクについて公に発言し続けている。

プロフィール
- 生年
- 1947
- 存命
- 存命
- 在世
- 1947–
- 関連事象
- 03
- 名称
- ENGeoffrey HintonJAジェフリー・ヒントン
ジェフリー・ヒントン(Geoffrey Everest Hinton、 1947年12月6日 ── )は、 ニューラルネットワーク研究を Minsky と Papert の『Perceptrons』(1969年) 以降の低調な時期から引き出し、 AlexNet(2012年) を経て現代の深層学習を成立させた中心人物である。 2018年に Yann LeCun、 Yoshua Bengio と共に ACM チューリング賞、 2024年には John Hopfield と共にノーベル物理学賞 を受賞した。 なお「計算機科学者のノーベル賞受賞」自体は前例がある ── Herbert Simon が1978年にノーベル経済学賞を受けている ── が、 物理学賞が機械学習の仕事に与えられたのは2024年が初めてである。
経歴
ロンドン Wimbledon 生まれ。 父 Howard Hinton は昆虫学者、 高祖父母は数学教育者 Mary Everest Boole と論理学者 George Boole。 ミドルネームの Everest は、 インド測量長官でエベレスト山に名を残した George Everest に由来する。 家系には Manhattan 計画に参加した物理学者 Joan Hinton(またいとこ)もいる。
1967年に Cambridge の King's College へ進み、 自然科学・美術史・哲学のあいだを行き来した末、 1970年に実験心理学で学士。 1年ほど大工の修業をしてから学界に戻り、 1972年から Edinburgh 大学で Christopher Longuet-Higgins のもと研究し、 1978年に人工知能で博士号を得た。 指導教官はニューラルネットより記号処理を支持する立場であり、 当時のこの分野は資金面でも苦しかったが、 ヒントンはコネクショニズムの線を離れなかった。
Sussex 大学と MRC Applied Psychology Unit を経て、 英国で資金が得られず渡米。 カリフォルニア大学サンディエゴ校(ここで David Rumelhart のもと、 バックプロパゲーションの仕事が行われた)と Carnegie Mellon を経て、 1987年に Toronto 大学へ移った。 同年 CIFAR のフェローとなり、 2004年に自ら提案した研究プログラム「Neural Computation and Adaptive Perception」を10年間率いている。 1998年から2001年までは London に戻り、 UCL の Gatsby Computational Neuroscience Unit の初代所長を務めた。 2017年には Toronto の Vector Institute を共同設立し、 チーフサイエンティフィックアドバイザーに就いている。
主な業績
1986年 バックプロパゲーション論文
David Rumelhart、 Ronald Williams との共著「Learning representations by back-propagating errors」(Nature 323巻 533–536頁、 1986年10月)。 多層ネットワークの重みを誤差の逆伝播で学習させる手法を、 認知科学コミュニティが使える形で提示した。 アルゴリズム自体の優先権には争いがあり、 逆モード自動微分は Seppo Linnainmaa(1970年)、 それをニューラルネットの訓練に使う提案は Paul Werbos(1974年)が先行する。 ヒントンら自身も発明者を主張してはおらず、 決定的だったのは「動く形で広めた」ことである。
1983-85年 ボルツマンマシン
David Ackley、 Terry Sejnowski との共同研究で、 統計力学の Boltzmann 分布を学習に持ち込んだ確率的ニューラルネットワーク ── ボルツマンマシン ── を作った。 隠れユニットを持つ生成モデルの最初期の枠組みであり、 のちの Restricted Boltzmann Machine と Deep Belief Network に直結する。 2024年のノーベル物理学賞の授賞理由で明示的に挙げられたのもこの仕事である。
2006年 Deep Belief Networks
Simon Osindero、 Yee-Whye Teh との「A Fast Learning Algorithm for Deep Belief Nets」(Neural Computation 18巻 1527–1554頁)で、 RBM を積層して層ごとに事前学習すれば深いネットワークが訓練可能になることを示した。 サポートベクターマシンとブースティングに押されていた分野を「深層学習」という名で立て直した論文で、 この事前学習手順は2010年頃まで標準だった。
2012年 AlexNet
ヒントン研究室の学生 Alex Krizhevsky と Ilya Sutskever が、 ヒントンの指導のもとで畳み込みネットワークを構築し、 ILSVRC 2012 を圧勝した。 三人は DNNresearch を設立し、 2013年3月に Google が約4400万ドルで買収する。
2013-2023年 Google
Google Brain のフェローとして Toronto と兼任。 知識蒸留(2015年)、 カプセルネットワーク(2011年に概念、 2017-19年に論文)、 対比学習の枠組み(2021年)、 Forward-Forward アルゴリズム(NeurIPS 2022)と、 方法論の研究を続けた。
Google 退社と AI リスク(2023年-)
2023年5月、 ヒントンは Google を退社し、 AI のリスクについて自由に話せる立場をとった。 この出来事の経緯と、 New York Times に語った内容 は別ページに詳しい。 以後の主張は (1) 雇用喪失、 (2) 悪意ある主体による誤用(偽情報・自律兵器・AI を使った病原体設計)、 (3) 人間より賢い AI が人間の制御を逃れる可能性、 の三点に整理できる。 自律型致死兵器の国際的禁止を求める立場は2017年から表明している。
2024年 ノーベル物理学賞
2024年10月8日、 ヒントンは John Hopfield と2024年ノーベル物理学賞を分け合った。 受賞が発表された当日の会見で、 ヒントンは自分より賢い学生たちに恵まれたと述べたうえで、 こう続けている ── "I'm particularly proud of the fact that one of my students fired Sam Altman."(自分の学生の一人が Sam Altman を解任したことを特に誇りに思う)。 指しているのは AlexNet の共著者で OpenAI 共同創業者、 2023年11月の Altman 解任劇 の中心にいた Ilya Sutskever である。 なお同年12月の Nobel 講演は「Boltzmann Machines」と題した技術的な内容で、 12月10日の晩餐会スピーチとは別物である。
2025-2026年
2025年12月28日放送の CNN「State of the Union」で、 ヒントンは2026年に AI がさらに多くの職を置き換えると述べた。 2年前と比べてどうかと問われて答えたのが "I'm probably more worried."、 理由として挙げたのが "It's progressed even faster than I thought." である。 同じ番組で、 素晴らしいものと一緒に恐ろしいものも来るのに、 それを緩和する作業に人手が足りていない、 とも語っている。 大規模失業への対応としてベーシックインカムを求める議論と、 モデルが人間の監督者を欺く挙動を示し始めているという指摘は、 2024年以降くり返している。
受賞・栄誉
- 1998年 王立協会フェロー(1996年 カナダ王立協会フェロー)
- 2001年 Rumelhart Prize(第1回受賞者)
- 2005年 IJCAI Award for Research Excellence
- 2014年 IEEE Frank Rosenblatt Award
- 2016年 米国工学アカデミー国際会員、 BBVA Frontiers of Knowledge Award
- 2018年 ACM チューリング賞(LeCun、 Bengio と共同)、 カナダ勲章コンパニオン
- 2022年 Princess of Asturias Award(LeCun、 Bengio、 Demis Hassabis と共同)
- 2024年 ノーベル物理学賞(Hopfield と共同)、 VinFuture Prize
- 2025年 Queen Elizabeth Prize for Engineering
影響
ヒントンが30年以上維持したコネクショニズム路線は、 結果として2010年代以降の AI 産業全体を生んだ。 Transformer(2017年)、 GPT-3(2020年)、 GPT-4(2023年)、 Anthropic Claude(2023年)、 DeepSeek-R1(2025年) ── すべてが彼の系譜の上にある。 Peter Dayan、 Radford Neal、 Zoubin Ghahramani、 Ruslan Salakhutdinov、 Ilya Sutskever、 Alex Graves ── 研究室から出た人名の一覧が、 そのまま分野の地図になっている。
1970年代に不人気な路線を続け、 1980年代に多層学習法を広め、 2010年代に AlexNet で経験的な決着をつけ、 2020年代に自らが作った技術への警鐘を鳴らす ── このアーク全体が、 一人の選択の結果である。 Joseph Weizenbaum が ELIZA に対して取った態度と、 半世紀を隔てて同じ形をしている。
関連する出来事
出典
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