2023年11月17–22日T1
OpenAI 内紛 ── Altman 解任、5日後に復帰
11月17日、OpenAI 取締役会が Sam Altman を CEO 職から解任。理由は「取締役会との意思疎通において一貫した率直さを欠いた」とされ、AI 安全派と加速派の対立、 Altman の手法への疑問が背景にあった。社員770名のうち約700名が抗議の辞任を表明し、 Microsoft が Altman を引き受ける構えを見せた結果、わずか5日後の11月22日に Altman は CEO に復帰。安全派の取締役は退任し、新取締役会には Bret Taylor(議長)、Larry Summers、Adam D'Angelo が就任。AI 業界の意思決定構造そのものに揺さぶりをかけた事件として記録される。
メタデータ
- 日付
- 2023年11月17–22日
- 年代
- 2020s
- Tier
- T1
- 参照年表
- IT全史 ── 計算機が世界を編み変える · AIの歴史
- 出典数
- 03
- 関連項目
- 02
OpenAI 内紛 ── Altman 解任、5日後に復帰
2023年11月17日金曜日の正午過ぎ、OpenAI の従業員に向けて短い社内メールが送られた。「Sam Altman は本日、CEO 職を離れます」── 取締役会の決定だった。
その5日後、Sam Altman は CEO に復帰していた。
11月17日 ── 動議
OpenAI は2015年の設立以来、非営利組織が営利子会社(OpenAI LP)を支配する、極めて変則的な統治構造を採っていた。取締役会は2023年秋の時点で6名 ── Sam Altman、Greg Brockman、Ilya Sutskever(チーフサイエンティスト)、Adam D'Angelo(Quora CEO)、Tasha McCauley、Helen Toner(ジョージタウン大)── から構成されていた。
取締役会は短い声明で Altman の解任を「取締役会との意思疎通において一貫した率直さを欠いた("was not consistently candid in his communications with the board")」と表現した。Greg Brockman も同日に会長職を解任され、彼は数時間後に抗議の辞任を表明する。
具体的に何が起きていたかは、その時点で明らかにされなかった。後の取材で浮かび上がる断片 ──「AI 安全性の懸念」「Altman の二枚舌」「商業化の暴走」── は、いずれも輪郭が曖昧で、十分な証拠を伴わなかった。
11月17–22日 ── 反乱
週末を挟んで事態は急展開する。
Microsoft の Satya Nadella CEO は、ほぼ即座に Altman と Brockman を Microsoft に迎え入れる用意があると公表した。彼らに「新しい先進 AI 研究チーム」を率いさせるという。事実上、OpenAI の中核を抜き取る用意があるというメッセージだった。
11月20日月曜日、OpenAI の従業員約770名のうち約700名が連名の書簡 に署名した。要旨は明快だった ── 「取締役会が辞任しなければ、我々も辞任して Microsoft に移る」。署名者の中には、Altman 解任を主導したとされる Ilya Sutskever 自身の名前もあった。
22日水曜日の深夜、合意がまとまった。Altman は CEO に復帰。新取締役会は Bret Taylor(議長、元 Salesforce CEO)、Larry Summers(元米財務長官)、Adam D'Angelo の3名で再出発。Tasha McCauley と Helen Toner は退任した。
何が問われたか
5日間の出来事は、技術企業の経営権闘争としてはありふれた構造をしていた。経営陣解任、従業員の反発、復帰。けれど、その対象が AI フロンティアの最も重要な組織 だったために、業界全体への問いを残した。
- 誰が AI 開発を律することができるのか: 名目上の取締役会か、それともプロダクトを動かしている従業員と巨額投資家か。今回の結論は明らかに後者だった。
- AI 安全性派と加速派の対立: 解任を主導したと見られる派閥(Toner、McCauley、Sutskever)はいずれも「AI のリスクを慎重に扱う」立場で知られていた。彼らの完全敗北は、業界内のパワーバランスを一方の側に傾けた。
- Microsoft の影響力: わずか数日で OpenAI の中核を引き剥がしうるだけの引力を、 Microsoft はすでに持っていた。 OpenAI の独立性は、 Microsoft の存在を抜きには成立しなくなっていた。
Sutskever は2024年5月に OpenAI を正式に離脱し、6月に「Safe Superintelligence Inc.」を共同設立。 安全性派の主要人物は、その後の数年で OpenAI から次々と離れていく。
5日間の人事騒動は、 AI 業界の意思決定構造の本質的な姿を、たまたま白昼に映し出した事件として記録される。