2023年3月14日T1
Anthropic Claude 公開 ── 安全性主軸の対抗 LLM
2021年に OpenAI から離脱した Dario Amodei・Daniela Amodei 兄妹らが設立した Anthropic が、対話型 LLM Claude を一般公開。同日に OpenAI も GPT-4 を発表する「同日対決」となった。Anthropic は Constitutional AI など独自の安全性手法を強調し、生成AI の二大競合体制が定着。Google が2023年に4億ドル、Amazon が2023-2024年に最大40億ドル投資し、AI 業界の覇権争いに最も大規模な対抗軸として成長した。
メタデータ
- 日付
- 2023年3月14日
- 年代
- 2020s
- Tier
- T1
- 参照年表
- IT全史 ── 計算機が世界を編み変える · AIの歴史
- 出典数
- 03
- 関連項目
- 02
Anthropic Claude 公開 ── 安全性主軸の対抗 LLM
2023年3月14日、米国カリフォルニア州サンフランシスコの新興 AI 企業 Anthropic が、対話型大規模言語モデル「Claude」を一般公開した。
同じ日に、 OpenAI が GPT-4 を発表していた。
二社が同日に主力モデルを公開するという偶然は、その後の AI 業界の構造をそのまま映していた ── 生成 AI には対抗軸が必要だ、と考える人々と資本が、この二社の周りに集まることになる。
OpenAI からの離脱
Anthropic の主要メンバーは、2021年初頭まで OpenAI の中核にいた。
- Dario Amodei: OpenAI の研究担当副社長。GPT-3 の論文の主著者の一人。
- Daniela Amodei: OpenAI の安全性とポリシー担当副社長。Dario の妹。
- Tom Brown: GPT-3 のチームリード。
- Sam McCandlish、 Jack Clark、 Jared Kaplan: GPT-3 とスケーリング則の研究者群。
2020年末から2021年初頭にかけて、彼らは集団で OpenAI を離脱した。 公式の理由は明確には語られなかったが、関係者の証言から浮かび上がる輪郭は ── 「Microsoft との独占的提携(2019年)以降、 OpenAI が商業化と速度を優先しすぎており、 AI 安全性への投資が不十分である」というものだった。
2021年5月、 Anthropic として正式に法人化。 設立時の調達額は1億2400万ドル。 創業時の人員は7名。
Constitutional AI
Anthropic が他社と差別化したのは、技術的アプローチそのものよりも、安全性手法の明示化 だった。
2022年12月の論文「Constitutional AI: Harmlessness from AI Feedback」で、 Anthropic は新しい訓練手法を発表した。 簡素化すると ──
- AI が応答を生成する
- その応答を、別の AI が「憲法(一連の倫理原則)」に照らして批評する
- その批評をもとに、 AI が自分の応答を改訂する
- このループで、 AI 自身が安全な応答に収束していく
人間の評価者を介する RLHF(OpenAI の手法)と違い、 AI 自身が憲法を内面化していく。 これにより、 評価者の人件費を抑えつつ、 「なぜこの応答を選んだか」を明示的に説明できる。
Claude はこの Constitutional AI で訓練された最初の本格的な対話モデルだった。
投資の連鎖と「Anthropic 軸」
Anthropic の特異点は、 安全性主軸の研究機関でありながら、 OpenAI に次ぐ巨額投資を集めた ことにあった。
- 2023年5月: Google が4億ドル投資
- 2023年9月: Amazon が最大40億ドルの投資を発表(年内に12.5億ドル投入)
- 2023年10月: Google が追加で20億ドル投資
- 2025年: Google が再度追加投資(累計推定60億ドル超)
Amazon と Google が Anthropic に巨額投資した理由は単純だった ── Microsoft + OpenAI 連合に対抗するには、 Anthropic を支援するしかなかった。
Claude のモデルファミリーは2024年3月に Claude 3(Haiku、 Sonnet、 Opus の3層)、 2024年6月に Claude 3.5 Sonnet、 2025年2月に Claude 3.7 Sonnet(拡張思考モード)、 2025年5月には Claude 4 シリーズへと展開。 コーディング・エージェント領域での評価では OpenAI を上回るベンチマークを記録するようになった。
「もう一極」の意味
2023年3月14日の同日公開は、 偶然ではあったが象徴的だった。 OpenAI と Anthropic という二極構造が、 その後の AI 業界の地形を決めることになる ──
- OpenAI: 速度と規模、 Microsoft との緊密提携、 商業最大化
- Anthropic: 安全性と説明可能性、 Google・Amazon との分散提携、 政府・防衛向け契約への展開(2024年11月の Palantir・AWS 連合)
両者は競合でありながら、 業界全体としては「単一プレイヤーの独占」を避ける役割を分担する関係でもあった。 規制論議が活発化した2023年秋以降、 政府や研究者が「対比可能な複数の前線」を持てたのは、 Anthropic の存在が大きい。
そして両社の創業者たちは ── かつて同じ OpenAI のオフィスで GPT-3 を作っていた ── 今やそれぞれ別の会社で、 互いに競合する大規模モデルを作り続けている。