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著作権法第30条の4 ── AI の学習を許諾なしで認めた日本の規定

京都市上京区の文化庁京都庁舎(2023年4月撮影)。著作権行政を所管する文化庁は2023年に京都へ移転した
出典Agency for Cultural Affairs, Government of Japan (Wikimedia Commons) · CC BY 4.0 · Commons で見る ↗

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AI と著作権の関係を日本法で問うとき、最初に読むべき条文が著作権法第30条の4である。結論から書くと、日本では AI の学習のために著作物を集めて複製することは、原則として著作権者の許諾なく行える。この条文が、著作物に表現された思想又は感情の「享受」を目的としない利用を、必要と認められる限度で、方法を問わず認めているからである。ただし、享受の目的が併存する場合と、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は対象外になる。そして、AI で作った画像や文章を公開・販売する段階は、この条文ではなく通常の著作権侵害の基準(類似性と依拠性)で判断される。

第30条の4は2018年の著作権法改正(平成30年法律第30号)で新設された。文化庁の解説によると、改正法は2018年5月18日の参議院本会議で可決・成立し、同月25日に公布され、2019年1月1日に施行された。

条文

e-Gov 法令検索に載る現行の条文の柱書は次のとおりである。

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

例示は3つある。第1号は録音・録画などの技術の開発や実用化の試験、第2号は情報解析、第3号は人の知覚による認識を伴わない電子計算機での情報処理である。第2号は情報解析を「多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うこと」と定義している。

どこから来た規定か

文化庁が2019年10月24日に出した解説「柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」は、経緯を次のように説明している。

年改正内容
2009年平成21年改正情報解析のための複製等(旧第47条の7)、検索サービスのための複製等(旧第47条の6)などを新設
2012年平成24年改正付随対象著作物の利用、技術開発等の試験のための利用(旧第30条の4)などを新設
2018年平成30年改正旧第30条の4と旧第47条の7を統合・拡張し、現行の第30条の4を新設。ただし書を追加
2019年1月1日施行教育の情報化に関する規定を除いて施行

この解説で目を引くのは2点である。1つ目は、旧第47条の7が情報解析を「統計的な」解析に限っていたのに対し、新しい規定はこの限定を削ったこと。解説は、これによって例えば深層学習の方法による AI の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録するような場合も対象になると説明している。2つ目は、AI が学習のために著作物を読むことは、そもそも人による「享受」には当たらないという前提を明記し、学習用データの収集と、AI 開発に目的を限った第三者への提供の両方を第30条の4の対象としたことである。

「機械学習パラダイス」

施行直後の2019年1月、STORIA 法律事務所の柿沼太一弁護士は、AI 開発者向けの勉強会で「日本=機械学習パラダイス」と題したスライドを示した。@IT の報告によれば、柿沼氏は、欧州や英国にも同様の規定があるが非営利目的に限られるのに対し、日本では営利目的でも学習済みモデルを作れる点が異なると説明している。著作権法学者の上野達弘も2021年、学会誌『人工知能』に「情報解析と著作権―『機械学習パラダイス』としての日本」と題する論考を書いており、この呼び名はその後の法律家の論考でも日本法を指して使われている。西村あさひ法律事務所の2025年12月のニューズレターは、上野が2024年の共著で、日本の情報解析規定は適用対象や許容される行為に限定がないことなどから「諸外国の情報解析規定よりも強力なものと指摘できる」と述べていることを紹介している。

ただし、この比較は2019年初めの時点のものである。EU は同じ2019年4月に DSM 指令を採択し、その第4条で、権利者が機械可読な手段などで利用を留保していない限り、営利目的も含めたテキスト・データマイニングを認める例外を設けた。違いは「営利か否か」から、権利者に拒否(オプトアウト)の手段があるかへ移っている。

2024年の「AIと著作権に関する考え方について」

生成 AI の普及で、第30条の4がどこまで及ぶのかが争点になった。文化審議会著作権分科会の法制度小委員会は、有識者ヒアリングとパブリックコメントを経て、2024年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめた。文書自身が、これは法的拘束力を持たず、特定の生成 AI について確定的な法的評価をするものでもないと断っている。

段階主な整理
AI 開発・学習段階(第30条の4など)非享受目的の学習は原則として許諾不要。ただし、意図的な「過学習」など学習データの創作的表現を出力させる目的の追加学習や、既存の著作物の表現を出力させる目的の一部の RAG 用データ収集は、享受目的が併存し対象外
ただし書(利益を不当に害する場合)情報解析用に有償提供されているデータベースを無断で複製する場合など。robots.txt などで AI 学習用の収集を防ぐ措置が取られ、将来の販売が推認できる場合に、その措置を回避して複製することも該当しうる
海賊版海賊版と知りながら学習データを集めることは「厳にこれを慎むべき」。開発事業者が侵害の責任を問われる可能性が高まる
生成・利用段階通常の侵害と同じく類似性と依拠性で判断。学習データに既存の著作物が含まれていた場合、通常は依拠性が推認される
AI 生成物の著作物性簡単な指示で AI が自律的に生成したものは著作物ではない。人が創作意図をもち創作的寄与をして AI を道具として使った場合は著作物になりうる

「作風」の扱いも整理された。作風がアイデアにとどまる限り、共通していても侵害にはならない。しかし、特定のクリエイターの少数の作品群が創作的表現まで共通している場合に、それを出力させる目的で追加学習することは、享受目的が併存し第30条の4の対象外になりうる、とされている。

文化庁はさらに2024年7月31日、「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を公表した。第1部は AI 開発者・提供者・利用者向けのチェックリスト、第2部は権利者向けのガイダンスで、自分の著作物が生成 AI にどう使われうるか、侵害にどんな対抗措置が取れるかを解説している。

米国・EU との比較

日本EU米国
学習の扱い第30条の4で非享受目的の利用を原則許容(営利も可)DSM 指令第3条(研究目的)と第4条(一般。権利留保がなければ可)個別規定はなく、フェアユースの成否を裁判所が判断
権利者の拒否手段条文上のオプトアウト制度はない。robots.txt などはただし書の判断要素機械可読な手段などによる権利留保。AI 法第53条1項(c)が汎用 AI 提供者に留保の遵守を義務づけ訴訟と和解・ライセンス
指針文化審議会の「考え方」(2024年3月)、チェックリスト(2024年7月)AI 法の汎用 AI 規定著作権局の報告書、判決の蓄積

米国の争いは判決と和解の積み重ねで進んでいる。学習目的の利用を初めて正面から判断した Bartz 対 Anthropic(2025年)、報道機関が起こした New York Times 対 OpenAI、英国で判決が出た Getty Images 対 Stability AI が代表例で、経緯はそれぞれのページにある。AI 生成物そのものの保護については、米国でも人間の著作者性が要件とされた(Thaler 対 Perlmutter)。日本の「考え方」が示した「創作的寄与」の整理と、方向はおおむね重なる。

社会への影響

第30条の4が守るのは「学習」であって、「出力」や「配信」ではない。 この区別が、施行から6年余りたった日本の争いの形を決めている。

開発者の側から見れば、文化庁の解説が深層学習のための学習用データの記録を名指しで対象としたことで、国内での学習用データセットの作成と、その AI 開発目的での提供は、許諾を個別に取らずにできるという見通しが立った。学習段階への適用を広く認めるべきだという立場もある。西村あさひのニューズレターによれば、松下外弁護士は2025年の論文で、問題になるのは AI が既存の著作物に似た表現を出力する場合なのだから、利用段階の責任を追及すれば足り、学習への適用を広く認めても権利者に不利益は生じないと論じている。反対に同ニューズレターは、特定の著作物を大量に再現できる AI の開発については、学習段階での侵害を認めて差止めなどの救済を与えようとするのが現状の議論の趨勢だとまとめている。

一方、権利者の側の懸念は、学習の外側に向かった。2025年8月7日、読売新聞社は生成 AI 検索サービスの Perplexity を東京地裁に提訴し、複製権と公衆送信権の侵害を主張して約21億6,800万円の損害賠償を求めた。8月26日には朝日新聞社と日本経済新聞社が共同で同社を提訴し、計44億円の賠償を求めた。Impress Watch によると、両社は robots.txt で利用拒否の意思を示していたのに無視され、記事が許諾なく複製・保存されて回答に繰り返し表示されたと主張している。これは考え方が「享受目的が併存しうる」とした RAG 型の利用をめぐる争いであり、学習の可否そのものではない。

映像の分野では、コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が2025年10月27日、OpenAI に対し、動画生成 AI「Sora 2」で会員社のコンテンツを無許諾で学習対象としないことなどを求める要望書を出した。INTERNET Watch によれば、OpenAI は権利者からの学習オプトアウトの申請を受け付けている。日本法には条文上のオプトアウト制度がなく、拒否の申し出があれば外すという海外事業者の方式と、無許諾での学習をしないよう求める日本の権利者の要望とが、ここで向き合っている。漫画の分野でも、日本漫画協会が2025年10月31日に共同声明を出し、AI 事業者による許諾の取得、学習データの透明性、許諾した権利者への適正な対価還元を求めた。

第30条の4は施行以来、日本を AI 開発に開かれた国として印象づけてきた。学習段階に限れば、その条文は変わっていない。変わったのは、争点が学習そのものから、出力と配信、そして学習の対価へと広がったことである。

よくある質問

日本では AI の学習に著作物を無断で使ってよいのですか。
原則として許諾は不要です。著作権法第30条の4は、著作物の表現を享受することを目的としない利用を必要な限度で認めており、文化庁は AI の学習用データとしての利用がこれに当たるとしています。ただし、享受の目的が併存する場合(特定の作品の創作的表現を出力させるための追加学習など)や、著作権者の利益を不当に害する場合は対象外です。
第30条の4はいつから施行されていますか。
2019年1月1日です。2018年5月18日に参議院本会議で可決・成立し、平成30年法律第30号として同月25日に公布されました。
AI が生成した画像や文章に著作権はありますか。
2024年3月の「AIと著作権に関する考え方について」は、人が簡単な指示を与えて AI が自律的に生成したものは著作物に当たらず、人が創作意図をもって創作的寄与をし、AI を道具として使ったと言える場合は著作物になりうると整理しています。判断は個別の事情によります。
生成した画像が既存の作品に似ていたら侵害になりますか。
生成・利用の段階では通常の著作権侵害と同じ基準で判断され、既存の著作物との類似性と依拠性がともに認められ、権利制限規定の対象外であれば侵害になります。考え方は、学習データに既存の著作物が含まれていた場合、通常は依拠性が推認されるとしています。

出典

  1. 一次資料著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第三十条の四 — e-Gov 法令検索

    第30条の4の現行条文(柱書、ただし書、第1〜3号、情報解析の定義)

    取得日: 2026-10-18

  2. 一次資料デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第30条の4、第47条の4及び第47条の5関係)— 文化庁著作権課, 2019年10月24日

    2009年・2012年改正の経緯、2018年5月18日成立・25日公布、2019年1月1日施行、旧第47条の7の「統計的な」の削除と深層学習、AI 学習用データの収集・提供が第30条の4の対象となるという解釈

    取得日: 2026-10-18

  3. 一次資料AI と著作権に関する考え方について — 文化審議会著作権分科会法制度小委員会, 2024年3月15日

    法的拘束力を持たないことの明記、取りまとめの経緯(G7 広島 AI プロセスなど)

    取得日: 2026-10-18

  4. 一次資料「AIと著作権に関する考え方について」【概要】— 文化庁著作権課, 2024年4月

    学習段階・生成利用段階・AI 生成物の著作物性の3区分、享受目的の併存(意図的な過学習、一部の RAG)、作風、robots.txt とただし書、海賊版、依拠性の推認、創作的寄与の判断要素

    取得日: 2026-10-18

  5. 一次資料AI と著作権に関するチェックリスト&ガイダンス — 文化庁著作権課, 2024年7月31日

    AI 開発者・提供者・利用者向けのチェックリストと権利者向けガイダンスの2部構成

    取得日: 2026-10-18

  6. 一次資料Directive (EU) 2019/790 on copyright and related rights in the Digital Single Market — EUR-Lex

    第3条(研究機関・文化遺産機関の科学研究目的の TDM)と第4条(一般の TDM、機械可読な手段による権利留保を条件とする)

    取得日: 2026-10-18

  7. 一次資料Regulation (EU) 2024/1689 (Artificial Intelligence Act) — EUR-Lex

    第53条1項(c) ── 汎用 AI モデルの提供者に、DSM 指令第4条3項の権利留保を特定し遵守する著作権方針を求める

    取得日: 2026-10-18

  8. 二次資料生データ使い放題?! 「日本は機械学習パラダイス」になった ― DEEP LEARNING LAB 勉強会:AIと法律・知財・契約 — @IT, 2019年1月30日

    STORIA 法律事務所の柿沼太一弁護士の講演スライド「日本=機械学習パラダイス」の紹介

    取得日: 2026-10-18

  9. 二次資料朝日と日経、AI検索のPerplexityを提訴 44億円請求 — Impress Watch, 2025年8月26日

    朝日・日経の共同提訴(計44億円)、robots.txt を無視したという主張、読売の提訴(約21億6,800万円)

    取得日: 2026-10-18

  10. 二次資料読売新聞・日経新聞・朝日新聞によるパープレキシティ提訴-生成 AI による情報収集の法的問題点- — 西村あさひ法律事務所 IP&ロボット/AI ニューズレター, 2025年12月11日

    上野達弘「情報解析と著作権―『機械学習パラダイス』としての日本」(人工知能36巻6号、2021年)の紹介、学習段階での侵害を認める議論の趨勢、松下外弁護士の見解、日本漫画協会の2025年10月31日の共同声明

    取得日: 2026-10-18

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