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Thaler 対 Perlmutter ── AI は著作者になれないと米控訴裁が判断

AI は著作権法上の著作者になれるか。 米国でこの問いに最上級審まで争われた答えが出たのが、Thaler 対 Perlmutter 事件である。コロンビア特別区巡回控訴裁判所は2025年3月18日、1976年著作権法は保護を受けるすべての著作物がまず人間によって作られることを求めていると判断し、AI を唯一の著作者とする作品の登録を拒んだ米国著作権局の判断を、3人の裁判官の全員一致で支持した。再審理の申立ては同年5月12日に退けられ、連邦最高裁は2026年3月2日に上告受理の申立てを退けた。控訴審の判断がこれで確定している。
原告の Stephen Thaler は計算機科学者で、自ら開発した生成 AI を「Creativity Machine」と呼んでいる。登録を求めた作品は、この AI が作ったとされる画像「A Recent Entrance to Paradise」である。被告の Shira Perlmutter は当時の著作権局長(Register of Copyrights)で、職務上の立場で訴えられた。
事件の経緯
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2018年11月3日(審査委員会の記録)/2019年5月19日(控訴審判決の記載) | Thaler が登録を申請。著作者を「Creativity Machine」、権利者を自分とする |
| 2019年8月12日 | 著作権局が「人間の著作者性」を欠くとして拒絶 |
| 2020年3月30日 | 1回目の再考請求も拒絶 |
| 2022年2月14日 | 著作権局の審査委員会(Review Board)が拒絶を維持 |
| 2023年8月18日 | コロンビア特別区連邦地裁(Beryl A. Howell 判事)が著作権局を支持 |
| 2024年9月19日 | 控訴審の口頭弁論 |
| 2025年3月18日 | 巡回控訴裁判所が地裁判決を維持 |
| 2025年5月12日 | 再審理の申立てを却下 |
| 2025年10月9日 | 連邦最高裁に上告受理を申立て |
| 2026年3月2日 | 連邦最高裁が申立てを却下 |
申請日は資料によって食い違う。著作権局審査委員会の2022年の決定書は2018年11月3日、控訴審判決は2019年5月19日と書いている。どちらも申請の内容は同じで、Thaler は申請書の作者欄に「Creativity Machine」と書き、作品は機械が自律的に作ったものだと記した。
最高裁の記録では、政府は当初、反論書の提出を放棄していたが、最高裁が回答を求め、政府は2026年1月23日に反対の趣意書を出している。結論は上告不受理だった。
控訴審は何を根拠にしたか
Patricia Millett 判事が書いた法廷意見は、問いを「人間でない機械は1976年著作権法上の著作者になれるか」と立てた。著作権法は「著作者(author)」を定義していない。判決は、法律の多くの条文が、著作者が人間であることを前提にしなければ意味をなさないことを挙げた。
| 著作権法の規定 | 判決の指摘 |
|---|---|
| 著作権は著作者に原始的に帰属する(第201条(a)) | 財産を持つ法的能力のない者は著作者になれない |
| 保護期間は著作者の生存期間と死後70年(第302条(a)) | 機械には人の一生にあたる「生涯」がない |
| 著作者の死後、終了権は配偶者や子・孫が行使する(第203条) | 機械には配偶者も相続人もいない |
| 権利の移転には権利者の署名が要る(第204条(a)) | 機械には署名も、署名する法的能力もない |
| 未発行の著作物は著作者の国籍や住所を問わず保護される(第104条(a)) | 機械には住所も国籍もない |
| 共同著作物は著作者たちの「意図」を前提とする(第101条) | 著作者は意図を持つ存在として書かれている |
判決はさらに、著作権局が1976年法の制定前から一貫して「著作者」を人間と解釈してきたことを挙げ、議会はその解釈を引き継いだと推論した。この結論を法律の解釈だけで導いたため、合衆国憲法自体が人間の著作者を求めるかという著作権局の主張には立ち入っていない。
Thaler は地裁で初めて、自分こそが AI を作り指示した著作者だと主張した。しかし申請の段階では一貫して AI が自律的に作ったと述べていたため、地裁も控訴審も、この主張は著作権局の手続きで放棄されたとして判断しなかった。つまりこの事件が決めたのは、「AI だけを著作者として申請した作品は登録できない」ということまでである。
判決が言わなかったこと
控訴審は、自らの判断の射程を明示している。判決は "the human authorship requirement does not prohibit copyrighting work that was made by or with the assistance of artificial intelligence" と述べ、この要件が求めるのは、AI を作り、操作し、使った人間が著作者であることだけだと続けた。
では、人間が AI を道具として使った場合、どこまでが保護されるのか。この問いには、控訴審判決の約7週間前、著作権局が答えの枠組みを出していた。2025年1月29日に公表された AI と著作権に関する報告書の第2部は、1万件を超える意見を検討したうえで、生成 AI の出力が保護されるのは人間の著作者が十分な表現上の要素を決めた場合に限られ、プロンプトの入力だけでは足りないと結論づけた。人間の作品が出力の中に知覚できる場合や、人間が出力を創作的に配置・修正した場合は保護されうる。現行法の改正で AI 出力に新たな保護を与える必要はないとも判断している。Perlmutter はこう述べた。"Extending protection to material whose expressive elements are determined by a machine, however, would undermine rather than further the constitutional goals of copyright."
人間が AI に繰り返し指示を出した作品の登録が争われている例が、コロラド州のアートコンテストで入賞した画像である。経緯はそちらのページにある。
特許でも同じ答え
Thaler は著作権と並行して、自作の別の AI「DABUS」を発明者とする特許出願を各国で争ってきた。答えはどこでもほぼ同じだった。
英国最高裁は2023年12月20日、全員一致で Thaler の上告を棄却し、1977年特許法上の発明者は自然人でなければならず、DABUS は発明者ではないと判断した。日本でも、東京地裁が2024年5月16日に、知的財産高等裁判所が2025年1月30日に、それぞれ発明者は自然人に限られるとして Thaler の請求を退けている。
社会への影響
この判決で確定したのは、人間の関与が全くない AI 出力は誰の財産にもならない、ということである。 誰も著作権を主張できない以上、そうした出力は誰でも複製できる。
損をしうるのは、AI に自動生成させたコンテンツそのものを独占的な商品として売りたい事業者である。Thaler 側は、人間の著作者性の要件は AI の作り手や運用者の創作意欲をそぐと主張した。控訴審はこれに対し、要件は Thaler のような人間に、AI の助けを借りて作品を作り排他的権利を求める動機を残していると答えた。
Thaler 側はまた、機械が生成した作品に保護を与えなければ、人々が不正直に振る舞い、機械の仕事を自分の著作として偽って申請するようになると論じた。著作権局の審査委員会は、登録申請での虚偽の申告には刑事罰があり、著作権局長は登録を取り消せると答え、この主張を退けている。
一方、人間の著作者を守る立場から見れば、この判決は創作の対価が人間に帰属するという原則を、AI の時代にあらためて確認したものと言える。判決自身は、人間がいつか経済的な誘因に反応する創造的な非人間を生み出すかもしれないと認めつつ、その問題が現実になったときには議会と著作権局が取り組む時間が十分にある、と書いている。
日本の文化審議会の「考え方」も、AI が自律的に生成したものは著作物に当たらず、人が創作的寄与をして AI を道具として使った場合に著作物になりうると整理しており、方向は米国と重なる。日本での学習と著作権の扱いは 著作権法第30条の4 のページにまとめた。
よくある質問
- AI は著作権法上の著作者になれますか。
- なれません。コロンビア特別区巡回控訴裁判所は2025年3月18日、1976年著作権法はすべての著作物がまず人間によって作られることを求めていると判断しました。連邦最高裁は2026年3月2日に上告受理の申立てを退け、この判断が確定しています。
- AI を使って作った作品は著作権で守られないのですか。
- そうではありません。判決は、人間の著作者性の要件は AI によって、あるいは AI の助けを借りて作られた作品の著作権を禁じるものではなく、著作者が人間であることを求めるだけだと述べています。著作権局も、人間が十分な表現上の要素を決めた場合は保護されるとしています。
- プロンプトを工夫すれば著作者になれますか。
- 米国著作権局は2025年1月29日の報告書第2部で、プロンプトの入力だけでは足りないとしました。人間の作品が出力に知覚できる形で残っている場合や、人間が出力を創作的に配置・修正した場合は保護の対象になりえます。
- Thaler はなぜ自分を著作者として申請しなかったのですか。
- 申請で Creativity Machine を唯一の著作者、自分を所有者とし、作品は機械が自律的に作ったと述べたからです。自分が著作者だという主張は地裁で初めて持ち出されたため、地裁も控訴審も、著作権局の段階で放棄されたとして判断しませんでした。
出典
一次資料Thaler v. Perlmutter, No. 23-5233 — U.S. Court of Appeals for the D.C. Circuit, decided Mar 18, 2025
Millett 判事の法廷意見(Wilkins、Rogers と全員一致)、人間の著作者性を求める条文上の根拠、AI を使った作品の保護を妨げないという説示、Thaler の著作者主張の放棄、申請日を2019年5月19日とする記述
申請日を2018年11月3日とする記述、2019年8月12日の拒絶、2020年3月30日の再考拒絶、虚偽申告への刑事罰に関する応答
一次資料Docket No. 25-449, Thaler v. Perlmutter — Supreme Court of the United States
再審理申立ての却下(2025年5月12日)、上告受理申立て(2025年10月9日)、政府の反対趣意書(2026年1月23日)、申立て却下(2026年3月2日)
報告書第2部の結論(プロンプトだけでは足りない、法改正の必要はない)、1万件超の意見、Perlmutter の発言
2023年8月18日の Beryl A. Howell 判事による地裁判決の概要
DABUS 事件の東京地裁判決(2024年5月16日)と知財高裁判決(2025年1月30日、令和6年(行コ)第10006号)
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