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ニューヨーク市の公立校が ChatGPT を遮断 ── そして4か月半後の方針転換

2023年1月3日、全米最大の学区であるニューヨーク市の公立学校が、学校のネットワークと端末から ChatGPT へのアクセスを制限していることを教育記事サイト Chalkbeat が報じた。ChatGPT の公開から約1か月後のことである。教育局は、生徒の学習への悪影響と、内容の安全性と正確性への懸念を理由に挙げた。ところが同じ年の5月18日、David Banks 教育長は自ら寄稿し、この対応は反射的な恐れにもとづくもので、生成 AI の可能性を見落としていたと認めた。禁止から活用へ ── 4か月半での方針転換は、生成 AI が学校に投げかけた問いの縮図になった。
1月 ── 「批判的思考が育たない」
Chalkbeat によれば、教育局の広報担当 Jenna Lyle は、学習への悪影響と内容の安全性・正確性への懸念から、ChatGPT へのアクセスを市の公立学校のネットワークと端末で制限していると説明した。Lyle はさらに、この道具は質問に素早く簡単な答えを出せるかもしれないが、学業と生涯にわたる成功に欠かせない批判的思考力と問題解決能力を育てない、と述べている。
制限は全面的な禁止ではなかった。学校のネットワークと端末の外では使えたし、技術の仕組みを学ぶ目的なら、学校ごとに利用を申請できた。それでも、全米最大の学区の判断は他の学区の動きに影響しうると Chalkbeat は書いている。当時の記事は、作文の課題が意味を失い、不正や盗用が増えるのではないかという教育者の恐れを伝えている。Education Week によると、ロサンゼルスなど他の大規模学区も ChatGPT を遮断した。
見分けられない文章
学校が頭を抱えた理由の1つは、AI が書いた文章を確実に見分ける方法がなかったことにある。OpenAI は2023年1月31日、AI が書いた文章かどうかを示す判定ツールを公開した。だが OpenAI 自身の評価で、英文の評価用データにおいて AI が書いた文章の26%しか「AI が書いた可能性が高い」と判定できず、人間の文章の9%を誤って AI のものと判定した。OpenAI は、これを判断の主な根拠に使うべきではないと注意書きを付けていた。そして2023年7月20日、精度が低いことを理由に公開を止めた。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2022年11月30日 | ChatGPT 公開 |
| 2023年1月3日 | NYC 公立校の制限が報じられる |
| 2023年1月31日 | OpenAI が AI 文章の判定ツールを公開 |
| 2023年5月18日 | Banks 教育長が方針転換を表明 |
| 2023年7月4日 | 文部科学省が暫定的なガイドラインを通知 |
| 2023年7月20日 | OpenAI が判定ツールの公開を停止 |
| 2024年12月26日 | 文部科学省がガイドライン Ver.2.0 を公表 |
5月 ── 「反射的な恐れ」を認める
2023年5月18日、Banks 教育長は Chalkbeat に寄稿した。寄稿によれば、ChatGPT は教育者の懸念と悪用の恐れから市の「制限サイト」の一覧に載せられていた。これは利用を全面的に禁じるものではなく、職員や生徒が使うには学校が申請する必要があるという扱いで、YouTube や Netflix、Roblox も同じ分類だった。
Banks は、この対応が校長や教員に ChatGPT の利用を認めつつ、恐れとリスクの信号を送ったと振り返り、反射的な恐れとリスクが、生徒と教員を支える生成 AI の可能性と、生徒が生成 AI の理解が欠かせない世界で働くことになるという現実を見落としていた、と書いた。そのうえで、学校での AI 活用の実例と資料を教員に提供し、授業で AI を話し合うためのツールキットを用意し、学校どうしで成果を共有する仕組みを作ると表明した。MIT が作った教材を使って、AI が生徒の生活にどう影響しているかを考える活動も勧めている。
Education Week はこの転換を見出しで about-face(180度の転換)と表し、コンピュータ科学教育を広める非営利団体 CSforAll の Leigh Ann DeLyser の話として、市内の学校でこの技術が効果的に使われるのを見たことで、技術に不慣れな教員も子どもの学習を損なわない形で導入できるよう支えられるという自信を学区の幹部が得た、と伝えている。
誰にとっての問題だったのか
禁止の側に立った人々が恐れたのは、宿題や作文が生徒自身の思考の訓練として機能しなくなることだった。一方、Banks が転換の理由に挙げたのは、生徒はいずれ生成 AI の理解が欠かせない世界で働くという現実だった。1月の制限の時点でも、教育局のネットワークと端末の外では生徒は ChatGPT を使えた。遮断が守れる範囲は、もともと校内に限られていた。
その後の数字は、生成 AI が実際に学校生活に入り込んだことを示している。Pew Research Center の調査では、ChatGPT を学校の課題に使ったことがある米国の10代(13〜17歳)の割合は、2023年の13%から2024年の26%へ倍増した。2024年の調査では、新しい話題を調べるのに使うことは54%が容認できるとした一方、作文を書かせることを容認できるとしたのは18%で、42%は容認できないと答えている。生徒自身も、使い方によって線を引いている。
日本では
日本の文部科学省は2023年7月4日、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を教育委員会に通知した。科学技術振興機構のサイエンスポータルによれば、ガイドラインは一律の禁止や義務づけをしない立場を取り、まず限定的な利用から始め、リスクに対応できる学校でパイロット的に試すことを勧め、小学生の利用には慎重な対応を求めた。AI の出力を自分の作品として提出することや、試験で AI に答えさせることは不適切な例として挙げられている。文部科学省は2024年12月26日、これを改訂した Ver.2.0 を公表した。
米国では2025年4月23日、AI 教育を学校に取り入れ、教員を育成することを掲げた大統領令14277号が出された。ニューヨーク市が2023年1月に下した判断は、こうして「学校から AI を締め出す」から「学校で AI をどう教えるか」へ移っていった議論の出発点の1つになった。
よくある質問
- ニューヨーク市の学校は ChatGPT を禁止したのですか。
- 学校のネットワークと端末からのアクセスを制限しました。2023年1月3日に報じられ、教育局は学習への悪影響と内容の安全性・正確性への懸念を理由に挙げました。完全な禁止ではなく、技術を研究する目的なら学校ごとに利用を申請できました。
- いつ方針を変えたのですか。
- 2023年5月18日、David Banks 教育長が Chalkbeat への寄稿で、反射的な恐れが生成 AI の可能性を見落としていたと認め、教員向けの資料・実践例・ツールキットを提供すると表明しました。
- AI が書いた文章は見分けられるのですか。
- 確実には見分けられません。OpenAI が2023年1月31日に公開した判定ツールは、評価用の英文で AI の文章の26%しか正しく判定できず、人間の文章の9%を AI と誤判定しました。OpenAI は精度の低さを理由に2023年7月20日に公開を止めています。
- 日本の学校ではどう扱われていますか。
- 文部科学省は2023年7月4日に暫定的なガイドラインを示し、一律の禁止や義務づけはせず、限定的な利用から始める方針を取りました。2024年12月26日には改訂版の Ver.2.0 を公表しています。
出典
教育局広報 Jenna Lyle の説明、研究目的での利用申請、他学区の状況は不明
教育長本人の寄稿。制限サイト一覧への掲載、方針転換、ツールキットと MIT の教材
一次資料New AI classifier for indicating AI-written text — OpenAI, Jan 31, 2023 (updated Jul 20, 2023)
真陽性26%・偽陽性9%、2023年7月20日に精度の低さから公開停止
13〜17歳1,391人、2024年9〜10月調査。宿題での利用13%→26%、用途ごとの容認度
2023年7月4日の暫定的なガイドラインと、2024年12月26日の Ver.2.0
二次資料「発達段階、十分考慮を」小中高校の生成AI利用、文科省が暫定指針 — サイエンスポータル(科学技術振興機構), 2023年7月7日
一律の禁止・義務づけをしない、限定的な利用から、パイロット校、小学生は慎重に
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