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Bartz 対 Anthropic ── LLM の学習は fair use、 海賊版の収集はそうではない

メタデータ
- 日付
- 年代
- 2020s
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- T1
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- IT全史 ── 計算機が世界を編み変える · AIの歴史
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- 10
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- 02
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2025年6月23日、 カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所の William Alsup 判事が、 32ページの「ORDER ON FAIR USE」を出した。 生成 AI の学習データと著作権をめぐる米国の訴訟は当時すでに数十件走っていたが、 fair use(公正利用)の当否を実体的に判断した最初の一件がこれである。
原告は作家3名 ── Andrea Bartz、 Charles Graeber、 Kirk Wallace Johnson ── と、 うち2名が作品を管理するために設けた法人2社。 提訴は2024年8月19日。 被告 Anthropic PBC は、 自社の LLM である Claude の学習に彼らの著作を使っていた。
判決は3つに割れた
Alsup 判事は、 Anthropic の行為を「ひとつの利用」として扱わなかった。 コピーの目的ごとに別々に fair use を判定している。 この分解が、 この判決を読む上での要点である。
| 行為 | 判断 |
|---|---|
| 書籍を LLM の学習に使う | fair use(Anthropic の勝ち) |
| 購入した紙の本を裁断・スキャンして電子化する | fair use(ただし別の理由で) |
| 海賊版サイトから無償ダウンロードして蔵書を築く | fair use ではない(審理へ) |
学習については、 判決は「Claude とその前身の学習に本件書籍を用いたことは、 きわめて変形的(exceedingly transformative)であり、 著作権法107条のもとで fair use であった」と述べる。 別の箇所では、 学習の「目的と性格」は変形的であり "spectacularly so" だとも書いている。
電子化のほうは、 勝ち筋がまったく違う。 変形的だから許されたのではなく、 置き換えだから許された。 Anthropic は紙の本を買い、 製本を剥がし、 ページを裁断してスキャンし、 紙の原本を捨てている。 判決はこれを、 コピーを増やさず、 新しい著作物を作らず、 既存のコピーを再配布もしない、 保管場所と検索性のための形式変換だと整理した。
そして三つ目。 Anthropic は2021年1月か2月に共同創業者の Ben Mann が Books3(196,640冊)を、 2021年6月に LibGen から少なくとも500万部を、 2022年7月に PiLiMi から少なくとも200万部をダウンロードしていた。 判決の認定で 700万部超。 「世界中のすべての本」を集めて「永久に」持ち続ける恒久的な蔵書を作ること自体は、 海賊行為を免責する fair use ではない ── そう判断された。
「学校で作文を教えるようなものだ」
第4要素(市場への影響)の議論が、 この判決のいちばん踏み込んだ部分である。
原告は「LLM を学習させれば、 自分たちの作品と競合する作品が爆発的に増える」と主張した。 判決はその前提を争わずに認めたうえで、 それでも著作権法の保護対象ではないとした。 その主張は、 子どもたちに上手な文章の書き方を教えれば競合作品が爆発的に増える、 と文句を言うのと変わらない ── 著作権法は独創的な著作物を促進するためのものであって、 著作者を競争から守るためのものではない、 というのが判事の論理である。
もうひとつ。 原告は「AI 学習用にライセンスする市場」が奪われたとも主張した。 判決は、 そういう市場が育ちうることを認めたうえで、 その用途の市場は著作権法が著作者に与えている取り分ではない、 と退けている。
ただし判決は、 自分が判断していない領域を明示している。 原告は、 Claude の出力が自分の作品を侵害したとは主張していない。 判決はその点を2度繰り返し、 そうであれば別の事件になる、 将来そうした事実が現れれば提訴は自由だ、 と書き添えた。
15億ドルへ
海賊版部分は審理に回った。 2025年7月17日、 Alsup 判事は「LibGen & PiLiMi Pirated Books Class」をクラスとして認定する。 Books3 に基づくクラスと、 スキャンされた書籍のクラスは認定を却下された ── 和解が Books3 まで含む包括的なものだったと理解されがちだが、 認定されたクラスは LibGen と PiLiMi の版に限られる。
米国著作権法は故意侵害に1作品あたり最大15万ドルの法定損害賠償を認めている。 700万部という認定と掛け合わせたときの理論上の露出が、 その後の交渉を規定した。
2025年8月25日にターム シートが署名され、 9月5日に和解合意が調印される。 15億ドル、 被告に戻らない(non-reversionary)基金。 支払は4回に分割され、 仮承認から5営業日以内に3億ドル、 最終承認から5営業日以内に3億ドル、 仮承認の12ヶ月後までに4.5億ドル、 24ヶ月後までに4.5億ドル、 いずれも利息付き。 合意はさらに、 LibGen・PiLiMi から取得した原ファイルとその派生コピーを最終判決から30日以内に破棄し、 その旨を書面で証明することを Anthropic に義務づけた(スキャン由来のコピーは対象外)。
9月8日と25日の2度の審尋を経て、 25日に仮承認。 その理由を書き起こした10月17日の意見書で、 Alsup 判事はこの和解を「史上最大の著作権クラスアクション和解」と表現している。
2026年7月20日、 Araceli Martínez-Olguín 判事が最終承認と判決を出した(Alsup 判事は2025年末に退官しており、 事件は引き継がれていた)。 Works List に載る作品は 482,460件、 2026年4月16日時点で91.3%が請求済み。 1作品あたり約3000ドル ── 通常侵害の法定最低額750ドルの4倍にあたる。 弁護士報酬は請求された12.5%(1億8750万ドル)に対し、 約6.8%の 101,561,111ドル に減額された。 原告代表3名への service award も5万ドルの請求から1万5000ドルに減らされている。
免責されたものと、 されなかったもの
この和解でいちばん誤解されやすいのが、 免責(release)の範囲である。 合意書1.29条は、 免責されるのは Works List 上の作品に関する過去のtorrent・スキャン・保持・利用(学習を含む)であり、 AI モデルの出力に基づく請求は一切免責されないと明記する。 将来の複製・頒布・翻案についても免責はない。 そして「2025年8月25日以後に生じた行為には及ばない」 ── この日付は偶然ではなく、 両当事者がターム シートに署名した日である。
最終承認命令も同じ線を引き直した。 クラス構成員が手放すのは過去の入力側の請求であって、 過去の出力に関する請求も、 将来の行為に関する請求も手放していない、 と裁判所は述べている。
Anthropic の副法務顧問 Aparna Sridhar は NPR に対し、 "Today's settlement, if approved, will resolve the plaintiffs' remaining legacy claims."(本日の和解は、 承認されれば原告の残る legacy claims を解決する)と述べた。 legacy ── つまり、 出典の入手方法という過去の問題である、 という位置づけである。
咎められたのは入手方法だった
判決の射程は限定的である。 地裁の判断であり、 上訴審の判断ではない。 和解で終わったため、 海賊版部分について判例となる判断は出ていない。 それでも、 Bartz が引いた線は明快だった ── 学習そのものは咎めない。 コピーの入手方法を咎める。
同じ週の6月25日、 同じ北部地区の Vince Chhabria 判事が Kadrey 対 Meta で Meta 勝訴の略式判決を出している。 こちらも fair use を認めたが、 理由は違った。 原告が市場希釈(market dilution)を立証できなかったという、 記録の不備を根拠とする判断である。 2月には デラウェア州の Stephanos Bibas 判事が Thomson Reuters 対 Ross Intelligence で fair use を否定していた(ただしこちらは生成 AI ではなく法務検索ツールの事件)。 2025年の3件は、 同じ問いに対して3通りの答え方を残した。
AI と著作権の歴史における Bartz の位置は、 DeepSeek-R1 ショック が計算資源の前提を書き換えたのと似ている ── 学習データの前提を、 法廷が初めて具体的な値段で書き換えた。 1作品3000ドルという数字は、 判例ではないが、 交渉の出発点になった。
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