2023年9月22日T1
iPhone 15 ── USB-C 移行
11年続いた Lightning 端子を廃し、USB-C を採用。Apple 自身の選択というよりは、EU の共通充電器規則(2022年成立、2024年末発効)への対応として迫られた変更であり、規制によって端子規格が決まった象徴的な転換でもあった。Pro モデルは USB 3 のデータ転送速度(最大10Gbps)に対応。
メタデータ
- 日付
- 2023年9月22日
- 年代
- 2020s
- Tier
- T1
- 参照年表
- iPhone の歴史
- 出典数
- 03
- 関連項目
- 03
iPhone 15 ── USB-C 移行
iPhone 15 を、Apple の意思だけで起こった出来事として記述すると、その本当の意味を取り違える。これは、規制が大企業のハードウェア仕様を直接書き換えた、二十一世紀の電子機器史における稀な事例である。
EU の決定
2022年10月、欧州連合は「共通充電器規則(Common Charger Directive)」を採択した。要点は単純である ── 2024年12月28日以降、EU 域内で販売される携帯電話、タブレット、デジタルカメラ、ヘッドフォン、携帯ゲーム機などのほとんどの携帯電子機器は、USB-C 端子で充電できなければならない。
直接の標的は、明らかに iPhone だった。当時 EU 市場で USB-C を採用していない主要な携帯機器は、実質的に iPhone 一機種だった。
Lightning という孤島
Apple が独自に Lightning を導入したのは2012年9月、iPhone 5 発売時のことである。当時、業界標準と目されていた micro-USB を避け、リバーシブル・薄型・自前の認証チップを内蔵 ── という特性で、Apple は10年以上にわたって端子の支配権を保ち続けた。
その間、業界全体は USB-C へと移行を完了した。USB-C は2014年に規格化、2016年頃から Android 端末で標準化、2020年代に入ると MacBook も iPad も USB-C に切り替えた ── にもかかわらず、iPhone だけは Lightning に留まり続けた。
これは技術的な理由ではなく、エコシステム的な理由だった。MFi(Made for iPhone)プログラムを通じて、Apple は Lightning アクセサリの製造業者から認証料を徴収していた。互換ケーブル一本にも Apple は手数料を取れる仕組みだった。
一夜にして
EU 規則の採択から1年弱で、Apple は新型 iPhone 15 全機種で USB-C に移行した。
公式の言い方は、当然のことながら、規則のためではなかった。「業界標準への適合(embracing an industry standard)」。だが、その時点で iPhone 以外のほぼ全ての携帯機器が USB-C を採用していたという事実を考えれば、「業界標準」と呼ぶには既に遅すぎる適合だった。
そして、Pro モデルに限り Apple は新たな差別化を導入した。USB 3 のデータ転送速度(最大 10 Gbps)を、USB-C 端子の電子的な機能として有効化したのは Pro のみ。標準モデルは形状こそ USB-C だが、転送速度は USB 2.0 のまま据え置いた。
EU は端子の形状を規制したが、内部のプロトコルまでは規制していなかった ── という制度の隙間を、Apple は迅速に活用したことになる。
何が変わったか
ユーザーから見れば、ケーブル一本で iPhone・iPad・MacBook・ヘッドフォンを充電できるようになった。家中に転がる Lightning ケーブルが、数年で消えていくことが見込まれる。
業界全体としては、これにより、規制によってグローバルな製品仕様が決まる前例が確立された。米国の規制当局、英国、日本も類似の議論を加速させた。デジタル市場法(DMA)と並ぶ、欧州の「Brussels Effect」の典型例として、USB-C 義務化はしばしば引かれることになる。