2017年11月3日T1

iPhone X ── ホームボタン廃止と Face ID

初代発表から十周年の節目に、Apple は iPhone 設計の二大要素 ── 物理ホームボタンと指紋認証 ── を同時に廃止した。代わりに、画面上端の「ノッチ」に深度センサと赤外線投光器を埋め込み、顔認証 Face ID で生体認証を継続。OLED の縁無しディスプレイと組み合わせ、iPhone の造形を再びゼロから書き直した世代となった。

メタデータ

日付
2017年11月3日
年代
2010s
Tier
T1
参照年表
iPhone の歴史
出典数
03
関連項目
04

iPhone X ── ホームボタン廃止と Face ID

Steve Jobs が初代 iPhone を発表してから十年。Apple は再び、製品の前提を解体する判断をした。

二つの廃止

iPhone X は、それまでの iPhone を定義してきた二つの要素を同時に取り除いた。

一つは、画面下の物理ホームボタン。2007年から、ホームボタンは「iPhone を iPhone たらしめる UI 上の北極星」だった。どこにいても、それを押せば最初の画面に戻れる。Touch ID(2013年)以降は指紋認証も兼ねた。iPhone を iPhone と認識させる、物理的な手がかりそのものだった。

もう一つは、指紋認証 Touch ID そのもの。Apple Pay の認証、App Store の購入承認、ロック画面の解除 ── 日常の摩擦を消すために組み込まれた仕組みだった。

それを、いっぺんに無くした。

ノッチ

代わりに導入されたのは、画面の上端、横向きに切り欠かれた長方形 ── 後に「ノッチ」と呼ばれる領域に詰め込まれた、TrueDepth カメラシステムだった。

  • 赤外線投光器(IR Dot Projector)
  • 赤外線カメラ(IR Camera)
  • 環境光センサ
  • 近接センサ
  • フロントカメラ
  • スピーカ・マイク

中でも IR 投光器は、約30,000個の不可視ドットを顔面に投射し、その変形パターンから 3次元の顔形状を読み取る ── これが Face ID の核となる仕組みだった。Apple は「無関係な他人が認証を突破する確率は100万分の1」と発表(Touch ID は5万分の1)。

縁無し OLED

ホームボタンの撤去によって、画面は本体の前面ほぼ全域を覆えるようになった。同時に、iPhone は初めて OLED パネルを採用した。OLED は液晶と異なり、黒い領域では個々の画素そのものを発光させない ── すなわち、ベゼルと画面の境界が視覚的に消滅する。

「ベゼルレス」という言葉は2017年前後に Android 陣営からも盛んに使われていたが、iPhone X がそれを Apple の語彙に取り込んだことで、これが業界全体の主流仕様となるまでに、わずか1〜2年しかかからなかった。

価格と意味

iPhone X の出発価格は999ドル ── スマートフォン1台に1000ドルという基準点を、Apple は初めて公式に設定した。

これに対する論評は二分された。一方では「Apple の傲慢の極み」、もう一方では「ハイエンドスマートフォンが時計や宝飾品と同じカテゴリに移行した瞬間」。どちらの見方も間違いではなかった。

そして、ホームボタンを失ったことに対する不安 ── 10年来の習慣を捨てさせられることへの抵抗 ── は、発売後の数週間でほとんど話題に上らなくなった。スワイプアップという新しいジェスチャは、人間の指が驚くほど短期間で覚える種類のものだったらしい。

出典

  1. 二次資料iPhone X — Wikipedia

    取得日: 2026-05-23