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iPhone X ── ホームボタン廃止と Face ID

iPhone X 前面 ── ノッチ部に Face ID センサと OLED 縁無しディスプレイ
出典Gregory Varnum (Wikimedia Commons) · CC BY-SA 4.0 · Commons で見る

メタデータ

日付
年代
2010s
Tier
T1
出典数
11
関連項目
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AppleiPhone X を発表したのは2017年9月12日。予約受付は10月27日に「55を超える国と地域」で開始され、店頭発売は11月3日(金)だった。日本はこの第一陣に含まれている ── Apple 自身が挙げた発売国リストに、オーストラリア・中国・ドイツ・英国・米国など約50か国と並んで Japan の名がある。出発価格は64GB モデルで999ドル。これは米国での価格であり、他の市場の価格ではない。

Steve Jobs が初代 iPhone を発表してから十年。Apple は再び、自社製品の前提を解体した。

二つの廃止

一つは、画面下の物理ホームボタン。2007年から、それは「iPhone を iPhone たらしめる UI 上の北極星」だった。どこにいても、押せば最初の画面に戻れる。Touch ID(2013年)以降は指紋センサも兼ねた。iPhone が iPhone であることを名乗る、物理的な取っ手そのものだった。

もう一つは、指紋認証 Touch ID そのもの。Apple Pay の認証、App Store の購入承認、ロック画面の解除に組み込まれていた仕組みである。

それを、いっぺんに無くした。Apple の言い方では、iOS 11 は「Super Retina ディスプレイを活かすよう再設計され、ホームボタンを高速で滑らかなジェスチャに置き換えた」。下端から上へスワイプすればホームに戻る。

ノッチの裏側で何が起きているか

画面上端の切り欠き ── 後に「ノッチ」と呼ばれる領域 ── の裏にあったのが TrueDepth カメラシステムである。Apple は発表時、その構成を「ドットプロジェクタ、赤外線カメラ、フラッド照明」と記した。これに環境光センサ、近接センサ、7MP のフロントカメラ、スピーカ、マイクが同居する。

認証の経路は、同じ顔から取った二種類の像を使う。

  1. ドットプロジェクタが「30,000個を超える不可視の赤外線ドット」を顔面に投射する。そのグリッドがどう歪むかを赤外線カメラが読み、深度マップが得られる。
  2. 同じ赤外線カメラが、平面の赤外線画像も撮る。
  3. ニューラルエンジンの一部が ── ここが安全性の要点だが ── Secure Enclave の内側で動作し、「深度マップと赤外線画像を数学的表現へ変換し、その表現を登録済みの顔データと比較する」。

この機械学習処理には、初めて専用の演算器が割り当てられた。A11 Bionic はデュアルコアのニューラルエンジンを積み、Apple の数字で「毎秒最大6000億回の演算」を行う。Apple はこれを「特定の機械学習アルゴリズムのために設計され」、「Face ID・Animoji などを可能にする」ものと説明している。

深度マップが、なりすまし対策の論拠でもある。Face ID は「印刷物や2次元のデジタル写真には存在しない深度情報と照合する」もので、Apple の言う「高度なアンチスプーフィング・ニューラルネットワーク」がこれを補強する。さらに Face ID は注視を検知する ── 「目が開いていて、注意が端末に向けられているかを認識する」。眠っている持ち主の顔に端末をかざす、という攻撃を止めているのはこの性質である。

登録データは固定されない。Apple によれば、化粧や髭の変化には自動的に追随し、認証が成功するたびに保存された表現を更新し、さらに「近い一致」の直後に正しいパスコードが入力された場合にも更新する。

その確率は Apple 自身の数字である

公表された他人受入確率パスコードを要求されるまでの失敗回数
Touch ID指1本の登録で 5万分の15回
Face ID外見1つの登録で 100万分の1未満5回

いずれも Apple のサポート文書の数字であり、限界も Apple 自身が明記している。この確率は「あなたに似た双子や兄弟姉妹、および13歳未満の子供では高くなる。顔の特徴がまだ十分に発達していない可能性があるため」であり、その場合 Apple はパスコードの使用を勧めている。生体認証だけでは足りないことも設計に織り込まれている ── 再起動後、48時間ロック解除がなかった後、遠隔ロック命令の後、そして5回の照合失敗後には、パスコードが必ず要求される。

「100万分の1」について第三者による検証結果は公表されていない。これはベンダーの主張であり、そう読むべき数字である。

画面

ホームボタンの撤去によって、画面は本体前面のほぼ全域を覆えるようになった。5.8インチの Super Retina パネルについて、Apple は「iPhone の水準に達した初の OLED パネル」と書いた。OLED は暗い画素をそもそも発光させないため、ベゼルと画面の境界は「細くなる」のではなく視覚的に消滅する。

当時の最高デザイン責任者 Jony Ive の言葉 ──「10年以上にわたって、私たちの意図は全面がディスプレイである iPhone を作ることだった。iPhone X はそのビジョンの実現である」。

上院議員と、10億枚の画像と、視覚障害のある利用者

発表の翌日、2017年9月13日。当時上院司法委員会のプライバシー・技術・法に関する小委員会に属していた Al Franken 上院議員が、Tim Cook 宛に10項目の質問状を送り、10月13日までの回答を求めた。質問には、Face ID データを端末から取り出せるのか・遠隔に保存されうるのか、学習に使った10億枚の画像はどこから来たのか・多様性はどう担保したのか、持ち主以外の顔データは保持されるのか、そして Face ID のデータあるいはシステム自体に対する法執行機関の要求にどう応じるのか、が含まれていた。

Apple は米州担当パブリックポリシー担当副社長 Cynthia Hogan の書簡で回答し、それは10月16日に公開された。

人種・民族の多様性に対する製品のアクセシビリティは、私たちにとって非常に重要でした。Face ID は、参加者のインフォームド・コンセントを得たうえで実施した調査で収集した赤外線画像・深度画像を含む10億枚を超える画像を用いて開発した、顔照合ニューラルネットワークを使用しています。

私たちは世界中の参加者と協力し、性別・年齢・民族その他の要素を考慮した代表的な集団を含めました。

Franken は対応を評価したうえで、追加の確認を続ける意向を示した。法執行機関の質問については、「データは端末から出ない」という既存の立場を超える回答は得られていない。

アクセシビリティの問題はより鋭く、しかも Apple はセキュリティ上の性質を手放すことで解いている。注視検知は、意識のない・同意していない利用者が読み取られることを防ぐ仕組みである。だとすれば、画面を確実に見られない視覚障害のある利用者は、それを切るしかない。Apple はまさにその設定を用意している ──「設定 > アクセシビリティ > Face ID と注視」の「Face ID に注視が必要」で、これは「初期設定時に VoiceOver を有効にすると自動的にオフになる」。登録時の「アクセシビリティオプション」を選べば、頭を全方向に動かす必要もなくなる。この取引は Apple の文書に明記されており、設計で回避することはできない。眠っている利用者を守る機能と、目の見えない利用者を締め出す機能は、同じ一つの機能である。

価格と、Apple が語った結果

999ドルという水準は、以後の業界が引き返さなかった基準点になった。結果についての Apple 自身の説明は2018年2月1日、2017年12月30日締めの四半期決算として出ている ── 売上高883億ドル(前年同期比13%増、当時の過去最高)、希薄化後1株当たり利益3.89ドル(16%増、同じく過去最高)。Tim Cook の言葉は「iPhone X は我々の予想を上回り、11月の出荷以来毎週、最も売れた iPhone であり続けている」。

これは Apple が Apple の数字を説明したものである。1000ドルの電話が売れたことの証拠にはなるが、価格に対する第三者の評決ではない。

Face ID は残り、ノッチは消えた

  • Face ID は残った。 以後のフラッグシップはすべて Face ID を採用し、現行の最も安いモデルもそうである ── 2025年2月19日発表・599ドルの iPhone 16e は、TrueDepth カメラによる Face ID を備え、ホームボタンを持たない。
  • ノッチは残らなかった。 2023年9月の iPhone 15 世代では、ラインナップ全機種で Dynamic Island に置き換わっている。
  • マスクの穴はゆっくり塞がった。 Apple のサポート文書は現在、iPhone 12 以降ではマスク着用時も Face ID が機能し、100万分の1という数字はマスクの有無にかかわらず成り立つと述べている ── ただし、似た容姿の親族や幼い子供については、マスク使用時に誤認の確率がさらに上がるとも書かれている。

ホームボタンを失うことへの不安 ── 10年来の習慣を捨てさせられることへの抵抗 ── は、長くは続かなかった。スワイプアップというジェスチャは、指が短期間で覚える種類のものだった。

出典

  1. 一次資料About Face ID advanced technology — Apple Support

    取得日: 2026-08-09

  2. 一次資料About Touch ID advanced security technology — Apple Support

    取得日: 2026-08-09

  3. 一次資料Apple debuts iPhone 16e — Apple Newsroom, Feb 19, 2025

    取得日: 2026-08-09

  4. 三次資料iPhone X — Wikipedia

    取得日: 2026-05-23

最終更新:

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