T1#retina#antenna#design
iPhone 4 発売 ── Retina ディスプレイと「Antennagate」

メタデータ
- 日付
- 年代
- 2010s
- Tier
- T1
- 参照年表
- iPhone の歴史 · 携帯電話・スマートフォンの歴史
- 出典数
- 10
- 関連項目
- 04
- Tags
- #retina#antenna#design
iPhone 4 は、二つの理由で記憶されている。一つは、その姿。もう一つは、その失敗。
2010年6月7日、サンフランシスコの WWDC で発表。発売は17日後の6月24日で、米国・英国・フランス・ドイツ・日本の5カ国が同時だった。日本ではソフトバンクモバイルが扱っている。米国価格は199ドルからで、AT&T との2年契約が条件だった。
形
iPhone 4 のデザインは、それ以前の iPhone と、それ以降の iPhone とで、はっきりと一線を画している。前面ガラス、背面ガラス、その間を挟む薄いステンレススチールの帯。エッジは丸みを帯びず、平らに切り立つ。Jonathan Ive を中心とするデザインチームが提示したこの造形は、「iPhone とはこういう形である」という像を業界に刻んだ。もっとも、Apple 自身は二年でこの言語を手放している ── iPhone 5(2012年)はアルミ、iPhone 6(2014年)は縁の丸い一体成型へ移り、平らな側面が戻ってくるのは iPhone 12(2020年)を待つ。10年越しの回帰が「iPhone 4 に似ている」と即座に言われたこと自体が、この造形の残り方を示している。
画面
「Retina ディスプレイ」── Apple の主張は明快だった。3.5インチに 960×640 ピクセル、iPhone 3GS の4倍。プレスリリースの言い方では「326 ppi という密度は、通常の距離で持ったときに人間の目が個々のピクセルを判別できないほど高い」。ジョブズは基調講演で、その「通常の距離」を目から25〜30センチ(10〜12インチ)と説明している。
この主張はすぐに争点になった。DisplayMate の Raymond Soneira は、眼の角度分解能を 0.6 分角として計算すれば 12 インチの距離で必要な密度は 477 ppi になり、326 ppi では「網膜の限界」に届かないと反論した。擁護側 ── 天文学者の Phil Plait など ── は、Soneira の計算が完璧な視力を前提にしており、平均的な目なら 1 フィートの距離でピクセルを見分けられない、と応じた。決着は「誰の目か」次第だが、実際に手元に置いたユーザーの体感としては、紙に印刷した文字を見ているかのような滑らかさで、この論争を凌駕する説得力があった。
その後 Apple は「Retina」の呼称を自社の画面付き製品へ広げていく。2012年3月の第3世代 iPad は「Retina ディスプレイ」を冠して発表され、以後 MacBook Pro や iMac にも及んだ。ただし「一年で業界標準が動いた」わけではない。Android 側で 326 ppi を上回るパネルが載るのは2011年11月の HTC Rezound(4.3インチ 1280×720、約 342 ppi)あたりからで、iPhone 4 からおよそ1年半の間がある。追随が始まってからは速く、2010年代半ばにはモバイル画面の解像度競争は実質的に終わっていた。
落とし穴
ところが iPhone 4 は、発売直後から奇妙な不具合の報告を受けた。端末の左下の角を、肌で握ると、信号が大きく落ちる。
原因は構造そのものだった。iPhone 4 は、本体側面のステンレススチール帯をアンテナとして用いていた。帯は二つの区画に分かれており、その境界(左下角の隙間)が左手の肌に触れると、二つのアンテナがブリッジされ受信感度が劇的に低下する設計だった。
最初の対応が火に油を注いだ。6月24日、Steve Jobs が購入者からの苦情メールに短く返信したとされる文面が出回る(引用した媒体によって「Just don't hold it that way」「Just avoid holding it that way」と文言が食い違っており、逐語で確定できない)。同じ日、Apple は報道各社に公式コメントを出した ──「どの電話も、握ればアンテナ性能はいくらか減衰する。アンテナの配置によって、悪くなる場所は違う。これはすべての無線電話にとって生活上の事実である。iPhone 4 でこれを経験したら、金属バンドの黒い帯の両側を覆うような形で左下の角を握るのを避けるか、市販のケースを使えばよい」。
なお、後年ミームとして定着した「You're holding it wrong(持ち方が間違っている)」というフレーズを、ジョブズも Apple も口にしてはいない。実際に言われたことのほうが、要約より始末が悪かっただけである。
7月2日付の公式書簡で Apple が示した説明は、意外なものだった ── 信号の本数を表示する自社の計算式が「完全に間違っていた」というのである。実際より最大2本多く表示していたため、もともと電波の弱い場所にいたユーザーが「4〜5本から急落した」と感じた、という筋書きだ。書簡は数週間以内に無償のソフトウェア更新で式を直すと約束し、30日以内なら全額返金に応じると付け加えた。この時点ではバンパーの無償配布は発表されていない。
無償ケースの提供が決まるのは、その二週間後、7月16日の記者会見である。「我々は完璧ではない。我々もそれを知っているし、あなた方も知っている。そして電話もまた完璧ではない」── ジョブズは会見をそう切り出した。Apple は 9月30日までに iPhone 4 を買った全員に、Bumper か指定のサードパーティ製ケースを無償で配ると発表し、専用の App Store アプリで申し込ませた。すでに Bumper を買っていた人には返金した。ケースは側面アンテナの隙間を物理的に覆う道具である。
売上は落ちず、語られ方だけが変わった
「Antennagate」は、Apple にとって決して致命的な事件ではなかった。iPhone 4 は売れ続け、9月25日に終わる四半期に Apple は iPhone を 1,410万台売り(前年同期比91%増)、売上高 203億ドル・純利益 43億ドルという当時の過去最高を記録している。
ジョブズが表に出て火消しをせざるを得なかったのは、これが初めてではない。2007年9月、初代 iPhone の値下げに怒った初期購入者に対して、彼は公開書簡と 100 ドルのストアクレジットで応じている。違いは規模と、記者会見という形式のほうだった。ジョブズが世を去るのは、iPhone 4 発売の15カ月後、2011年10月である。
そしてこの出来事は、業界の物書きにとっての象徴になった。Apple という会社が「もっと注意深ければ起きなかった」失敗を、しばしば起こす ── ということが、それまでよりはっきりと記述されるようになる。
出典
二次資料Double Stevemails on iPhone 4 reception — Engadget, Jun 24, 2010
Apple 公式コメントの逐語
2011年11月発売、 約342 ppi
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