2010年6月24日T1#retina#antenna#design
iPhone 4 発売 ── Retina ディスプレイと「Antennagate」
326ppi の高解像度パネルを「Retina ディスプレイ」と名付け、人間の視力では個々のピクセルを判別できないとうたった。デザインは前面・背面ガラス、側面ステンレスへと一変し、現在まで続く iPhone の造形言語の原型となった。一方、その側面ステンレス枠がアンテナを兼ねていたため、握り方によって信号が落ちる「Antennagate」騒動を引き起こし、Apple 史上最も派手な PR 失敗の一つとなった。
メタデータ
- 日付
- 2010年6月24日
- 年代
- 2010s
- Tier
- T1
- 参照年表
- iPhone の歴史
- 出典数
- 03
- 関連項目
- 04
- Tags
- #retina#antenna#design
iPhone 4 ── Retina ディスプレイと「Antennagate」
iPhone 4 は、二つの理由で記憶されている。一つは、その姿。もう一つは、その失敗。
形
iPhone 4 のデザインは、それ以前の iPhone と、それ以降の iPhone とで、はっきりと一線を画している。前面ガラス、背面ガラス、その間を挟む薄いステンレススチールの帯。エッジは丸みを帯びず、平らに切り立つ。Jonathan Ive を中心とするデザインチームが提示したこの造形は、その後12年以上にわたって「iPhone とはこういう形である」という業界の前提を作った。後の iPhone 12(2020年)が、ほぼ同じ言語に回帰したのも偶然ではない。
画面
「Retina ディスプレイ」── Apple の主張は明快だった。326 ppi の解像度は、通常の使用距離(約 30 cm)で人間の網膜が解像できる限界を超える、というものだ。
この主張には議論の余地もあった(視力 20/20 を基準とした計算であり、20/15 の人なら個々のピクセルが見えるとの反論があった)。しかし、実際に手元に置いたユーザーの体感としては、紙に印刷した文字を見ているかのような滑らかさで、議論を凌駕する説得力があった。
その後、Apple は「Retina」という商標を、iPad、MacBook、Mac mini と展開し、業界全体の解像度基準を引き上げた。Android 側もすぐに同水準のパネルを搭載した端末で追随し、2010年代の前半でモバイル画面の解像度競争は実質的に完了した。
落とし穴
ところが iPhone 4 は、発売直後から奇妙な不具合の報告を受けた。端末の左下の角を、肌で握ると、信号が大きく落ちる。
原因は構造そのものだった。iPhone 4 は、本体側面のステンレススチール帯をアンテナとして用いていた。帯は二つの区画に分かれており、その境界(左下角の隙間)が左手の肌に触れると、二つのアンテナがブリッジされ受信感度が劇的に低下する設計だった。
Steve Jobs の最初の対応は、悪手の歴史に残るものだった。あるユーザーへの返信メールで、彼は「Just avoid holding it in that way(そういう持ち方をしなければよい)」と答えたと報じられた。「You're holding it wrong(持ち方が間違っている)」というフレーズは、瞬時に世界に広まり、Apple は数日のうちに本格的な記者会見を開くことになる。
7月2日付の公式書簡で Apple は「すべてのスマートフォンに同様の問題はある」と主張しつつ、全 iPhone 4 ユーザーに対して無償のバンパーケースを提供することを発表した。バンパーは側面アンテナの隙間を覆い、問題を物理的に回避する道具だった。
何が残ったか
「Antennagate」は、Apple にとって決して致命的な事件ではなかった。iPhone 4 は売れ続け、その四半期に Apple は過去最高益を更新した。けれど、ジョブズが直接対応せざるを得なくなった本格的な PR 危機は、彼の生前にこれが最初で最後だった(彼はこの一年三ヶ月後、2011年10月に他界する)。
そしてこの出来事は、業界の物書きにとっての象徴になった。Apple という会社が「もっと注意深ければ起きなかった」失敗を、しばしば起こす ── ということが、それまでよりはっきりと記述されるようになる。