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WhatsApp 開設 ── 広告なし課金型メッセージング SNS

出典WhatsApp / Meta (Wikimedia Commons) · Public domain (below threshold of originality) · Commons で見る

メタデータ

日付
年代
2000s
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T1
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12
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03
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2009年1月、 元 Yahoo エンジニアの Jan Koum が iPhone を買い、 開いたばかりの App Store を見て「連絡先の相手が今どういう状態かをステータスで共有するアプリ」を思いつく。 名前は WhatsApp ── What's up? のもじりだった。 会社 WhatsApp Inc. をカリフォルニアで登記したのは 2009年2月24日。 この時点では Koum 一人である。

このアプリが、 5年後に 160億ドル(発表時。 譲渡制限株を含む世間の通称は190億ドル、 実際に完了したのは10月で株価上昇により約220億ドル) という、 当時としては前例のない規模の M&A の対象となる。 そして2025年、 月間アクティブユーザ 30億人 を突破した。

創業 ── Yahoo を辞めた二人

Jan Koum はウクライナ移民、 16歳で米国に渡り、 母子家庭で生活保護を受けながらコンピュータを独学した経歴を持つ。 1997年に San Jose State University 在学中に Yahoo 入社、 9年間勤務。 Brian Acton も Yahoo の同僚で、 二人は2007年に同社を退職した。

Acton はその後、 Twitter と Facebook にエンジニアとして応募し、 いずれも落ちる。 本人が当時 Twitter に書いた投稿は現在も引用される ──

"Got denied by Twitter HQ. That's ok. Would have been a long commute."(2009年5月23日)
"Facebook turned me down. It was a great opportunity to connect with some fantastic people. Looking forward to life's next adventure."(2009年8月3日)

順序を取り違えないほうがいい ── この二つの不採用は、 WhatsApp Inc. の登記より後である。 Koum は2009年2月に一人で始め、 メッセージ機能を載せた WhatsApp 2.0 を8月に iPhone 向けに出してアクティブユーザ25万人に届き、 Acton が正式に共同創業者として合流したのは 2009年10月、 元 Yahoo の同僚5人から25万ドルのシード資金を集めてきたときだった。

設計思想 ── 広告を売らないという選択

WhatsApp の哲学は、 Koum が母親から受け継いだ「広告は嫌い」「プライバシーは大切」という価値観に貫かれていた。 Acton が手書きしたメモが Koum の机に貼られ、 事実上の創業者宣言として機能した ──

"No Ads! No Games! No Gimmicks!"

これは当時の Facebook、 Yahoo、 MySpace の真逆の方針だった。 収益モデルは ──

  • 初年度無料、 2年目から 年99セント の課金
  • 広告ゼロ
  • ゲームや BOT などの拡張機能なし
  • 純粋なメッセージング機能のみ

電話番号を ID として使う仕組み(電話帳の連絡先がそのまま友達リストになる) は、 Facebook 型の「友達申請を送る」ハードルを完全に消した。 アジア・アフリカ・南米で SMS の代替として瞬く間に普及する。 2009年8月に25万人、 2013年に約2億人のアクティブユーザ、 2014年2月の買収発表時点で 月間4.5億人超(Facebook の発表文。 うち7割がその日のうちに使う) に到達した。

なお課金モデルは長続きしなかった。 2016年1月18日、 Koum 自身が「年1ドルの購読料をもう取らない」と発表し、 WhatsApp は無料になる。 「広告なし・課金あり」という設計の後半は、 買収から2年で消えたことになる。

Facebook の買収 ── 160億か、190億か、220億か

2014年2月19日、 Facebook は WhatsApp の買収を発表した。 自社の発表文が書いた金額は 約160億ドル(現金40億ドル + Facebook 株120億ドル)で、 それとは別に従業員向けの譲渡制限株ユニット(RSU) 30億ドル分を4年かけて付与するとした。 報道はこれを合算して「190億ドル」と呼び、 その通称が定着する。

実際に成立したのはさらに上である。 完了は 2014年10月6日。 Facebook の10-Q によれば、 同社は Class A 株を約1億7,800万株発行して現金45億8,900万ドルを支払い、 WhatsApp 従業員に4,600万株の RSU を付与した。 完了日の終値77.56ドルで換算すると、 株式分だけで137億8,700万ドル、 RSU を含めた総額は 約220億ドル。 一方で会計上の取得対価は、 買収後の報酬費用に振り替えた10億6,700万ドルなどを差し引いた 171億9,300万ドル として計上されている。 「発表額・通称・完了時価値・会計上の取得対価」はすべて別の数字であり、 混ぜて引用してはならない。

買収時の WhatsApp ──

  • 社員55名(エンジニア32名) と報じられた
  • 月間アクティブユーザ4.5億人超
  • 2013年通期の売上は1,021万ドル、 純損失1億3,815万ドル(SEC に提出された監査済み財務諸表。 2012年は売上382万ドル・純損失5,467万ドル)
  • 登記から5年

売上規模に対して桁違いの値付けであり、 ベンチャー資本が入った非公開企業の買収額としては当時前例がなかった。 Facebook が WhatsApp を欲しがった理由は明確 ──

  1. 国際展開: Facebook が米欧で強い一方、 WhatsApp は新興国で圧倒的だった。 地理的補完
  2. モバイルメッセージング: Messenger だけでは押さえきれない「電話番号ベースの強固なグラフ」
  3. 競合排除: GoogleMicrosoft に渡せば致命的だった

Acton は2017年9月に、 Koum は2018年4月に WhatsApp を去った。 Acton は最後の株式付与が確定する1年前に辞めており、 Forbes の計算で 8億5,000万ドル を置いていったことになる。 2018年3月、 Cambridge Analytica 事件のさなかに Acton は #deletefacebook とだけ投稿し、 同年2月には暗号化メッセンジャー Signal の財団に 5,000万ドル を出して立ち上げていた。

End-to-End 暗号化(2016年)

2016年4月5日、 WhatsApp は全コミュニケーションの End-to-End 暗号化(E2EE) を有効化した。 Signal Protocol(Moxie Marlinspike / Open Whisper Systems 開発) をフルに採用したもので、 メッセージ・通話・グループチャット・添付ファイルのすべてが暗号化対象となった。

これは単なるセキュリティ実装ではなく、 政治的意味を持つ実装だった ──

  • WhatsApp 運営者(つまり Facebook) すら、 ユーザのメッセージを復号できない
  • 政府の傍受要請に応じても、 復号鍵を渡せない構造
  • インド、 ブラジル、 ロシア、 トルコなど、 多くの国で「暗号化解除を要求する立法・訴訟」を引き起こした

2018年9月26日の Forbes のインタビューで、 Acton は、 Zuckerberg と Sandberg から収益化を迫られ、 Facebook 側が自分の作った暗号化に疑問を呈しつつターゲティング広告と事業者メッセージの地ならしを進めていた、 と語った。 同じ記事で彼はこう言っている ──

"At the end of the day, I sold my company. I sold my users' privacy to a larger benefit. I made a choice and a compromise. And I live with that every day."

これが Facebook と暗号化の関係を巡る議論の出発点となる。

2026年の WhatsApp ── 宣言の反故と、 国家による遮断

Meta は WhatsApp 単体の四半期指標を出していない。 公式に確認できるのは以下である。

  • 月間アクティブユーザ30億人突破(2025年4月、 Meta の2025年Q1 決算説明で Zuckerberg が言及)
  • Updates タブの利用は 1日15億人(2025年6月、 Meta の告知)
  • Family of Apps 全体の日次利用者は2026年3月時点で 35.6億人、 同年Q2 で36億人(Meta 決算説明)
  • ワールドカップ決勝時、 毎秒3,000万通 という送信記録(2026年Q2 決算説明)

「MAU 33億・DAU 23億」といった数字が2026年に広く流通しているが、 これらは統計まとめサイトの推計であって Meta の発表ではない。

そして2025年6月16日、 Meta は WhatsApp に広告を導入すると発表した。 表示先は Updates タブの Status と Channels に限られ、 個人チャットは E2EE のまま広告に使わないとしているが、 机に貼られていた "No Ads! No Games! No Gimmicks!" は、 これで正式に反故になった。 課金 SNS でも広告なし SNS でもなくなった WhatsApp の売上源は、 事業者向け有料メッセージとサブスクリプションで、 2026年Q2 には Family of Apps の「その他売上」が四半期で初めて10億ドルを超えた(前年同期比 +73%)。

暗号化を巡る緊張も、 ついに遮断という形をとった。 ロシアは2025年8月に WhatsApp と Telegram の音声・ビデオ通話を制限し、 10月に新規登録を遮断、 2026年2月11〜12日に WhatsApp を完全にブロックした。 国営ドメインネームシステムから該当ドメインが除かれ、 国内の端末は接続先の IP を引けなくなっている。 政府が推すのは国産の Max で、 2025年に立ち上がり2025年12月には月間7,000万人に達していた。 Meta の CFO は2026年Q1 決算で、 Family の日次利用者がわずかに減った要因としてイランの通信障害とロシアの WhatsApp 遮断を挙げた ── 一企業の指標に、 国家の遮断が直接現れた。

電話番号と暗号化が書き換えたもの

WhatsApp が変えた三つの構造 ──

1. 電話番号 SNS という形式: 友達申請を送る「Facebook 型」と、 電話番号で繋がる「WhatsApp 型」の二系統が、 ここで明確に分岐した。 後の Signal、 Telegram、 Viber も電話番号方式を採用。

2. グローバルサウスの通信インフラ: 高額な SMS と電話に代わる無料代替として、 アジア・アフリカ・南米で実質的な通信インフラとなった。 「WhatsApp が止まると経済が止まる」現象が一部の国では実在する。

3. E2EE のメインストリーム化: 30億人が使うアプリが標準で E2EE という事実は、 暗号化を「マニア向け」から「当たり前」へ変えた。 同時に、 暗号化解除を求める各国政府との恒常的な政治的緊張を生み、 ロシアではついに国家がアプリごと遮断する結末に至った。

「メッセージは無料、 広告なし、 終わったら閉じる」という単純な約束が、 地球の通信構造を書き換えた ── そしてその約束のうち「広告なし」は、 創業から16年目に発行者自身の手で取り消された。

よくある質問

WhatsApp はいつ作られたのですか。
Jan Koum が2009年2月24日に WhatsApp Inc. を登記し、同年10月に Brian Acton が共同創業者として合流しました。
Facebook は WhatsApp をいくらで買収したのですか。
2014年2月19日の自社発表では約160億ドル、譲渡制限株30億ドルを足した通称が190億ドル、同年10月6日の完了時価値は約220億ドルでした。

出典

  1. 三次資料WhatsApp — Wikipedia

    取得日: 2026-08-08

最終更新:

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