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IBM Watson のジェパディ!勝利 ── 自然言語の質問応答がテレビで人間を破った日

メタデータ
- 日付
- 年代
- 2010s
- Tier
- T1
- 参照年表
- AIの歴史
- 出典数
- 06
- 関連項目
- 01
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IBM の質問応答システム Watson が、米国の人気クイズ番組 Jeopardy! で歴代屈指の王者 Ken Jennings と Brad Rutter を破った対戦は、米国で2011年2月14日・15日・16日の3夜にわたって放送された。2試合を3日に分けた形式で、Watson は2試合合計7万7147ドルを獲得し、Jennings の2万4000ドル、Rutter の2万1600ドルを大きく上回った。収録は2011年1月、ニューヨーク州ヨークタウンハイツの IBM の研究所で行われている。
Watson は、英語で出される癖のある問いを理解し、インターネットにつながないまま答えを返す機械として、1997年の Deep Blue 以来の「人間対機械」の見せ場を作った。同時に、この勝利がもたらした期待と、その後の医療事業の行き詰まりは、AI の宣伝と実力の距離を示す例としても語られるようになった。
なぜ Jeopardy! だったのか
IBM の記述によると、Deep Blue が1997年に Kasparov を破って以来、同社は次の人間対機械の挑戦を探していた。2006年、AI を専門とする研究者 David Ferrucci が、Jeopardy! で人間に勝つ計算機を作るという案を上司に持ち込んだ。Jeopardy! は、司会者が「答え」にあたる手がかりを読み、回答者が「問い」の形で答える形式で、言葉遊びや皮肉、なぞなぞを多く含む。
Ferrucci は IBM に対し、目標は人間の脳をまねることではなく、自然言語の理解と対話でより有効な計算機を作ることだと語っている(原文 "The goal is not to model the human brain")。チームはヨークタウンハイツのトーマス・J・ワトソン研究所に集めた20数人の科学者・技術者・プログラマーで、完成までに5年を要した。名前は IBM の初代 CEO、Thomas J. Watson Sr. にちなむ。
Watson の仕組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ソフトウェア | DeepQA(仮説の生成、根拠の収集、評価を行う質問応答アーキテクチャ) |
| ハードウェア | 10ラック・90台のサーバ、計2,880プロセッサコア(IBM POWER7 サーバ) |
| ネットへの接続 | なし |
| 知識源 | 百科事典、辞書、Wikipedia、宗教文書、小説、戯曲、Project Gutenberg の書籍など |
| 回答の判断 | 数百のアルゴリズムで候補を並行評価し、確信度が十分高いときだけボタンを押す |
| 1問あたりの計算時間 | 約3秒(IBM) |
IBM によれば、検索エンジンが関連しそうな文書の一覧を返すのに対し、Watson は問いに直接答える形で返す。多くのアルゴリズムが独立に同じ答えに行き着くほど確信度が高くなり、それが閾値を超えなければ解答しない。設計の詳細は、Ferrucci らが2010年秋に AI Magazine に発表した「Building Watson: An Overview of the DeepQA Project」にまとめられている。
対戦 ── 2010年12月の発表から2月の放送まで
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2010年12月14日 | IBM と Jeopardy! が対戦を発表。賞金は1位100万ドル、2位30万ドル、3位20万ドル |
| 2011年1月 | ヨークタウンハイツの IBM 研究所で収録 |
| 2011年2月14〜16日 | 2試合を3夜に分けて放送。16日の放送で Watson の勝利が確定 |
発表時、IBM は獲得賞金の全額を、Jennings と Rutter は半額を慈善団体に寄付すると約束していた。PCWorld によれば、IBM の寄付先は World Vision と World Community Grid だった。対戦相手の2人は、Jennings が2004〜2005年のシーズンに74連勝して250万ドル超を獲得した記録保持者、Rutter が番組史上最高の累計325万5102ドルを得た王者である。
Watson は完璧ではなかった。IBM によると、第1試合の最終問題、カテゴリー「US Cities」で、正解のシカゴ("What is Chicago?")ではなく "What is Toronto?????" と答えた。疑問符が5つ並んだのは確信度がかなり低かったことを示す。それでも第2試合で引き離し、最終的に大差で勝った。Jennings は最後の問題の解答欄に "I for one welcome our new computer overlords" と書き添えている(PCWorld)。
社会にとって何を意味したか
対戦後、Jennings は、クイズ番組の解答者は Watson によって不要になる最初の職業かもしれないが、最後ではないだろうという趣旨の言葉を残した(IBM が引用)。機械が知的労働を置き換えるという話題を、この対戦は大衆向けのテレビ番組の形で広く印象づけた。
IBM はこの勢いを事業に向けた。IEEE Spectrum の2019年の調査記事によれば、IBM は対戦の翌日、Watson を医療に応用し、18〜24か月で最初の商用製品を出すと発表したが、その日に発表された事業は商用製品にならなかった。記事は、MD Anderson がんセンターが Watson と組んだ腫瘍医向け助言ツールを、6200万ドルを費やしたのち2016年に打ち切ったことを挙げている。UCSF の Robert Wachter は同記事で、IBM は「まずマーケティング、製品は後」で皆を興奮させたと評した(原文 "They came in with marketing first, product second, and got everybody excited")。一方で Wachter は、最初に臨床に AI を持ち込もうとした IBM が、この問題の難しさを他社に示したとも述べている。
2022年1月21日、IBM は Watson Health のデータ・分析資産(MarketScan、Micromedex などを含む)を投資会社 Francisco Partners に売却する契約を発表した。金額は公表されていない。IBM はその後、生成 AI 向けの基盤 watsonx(2023年)で Watson の名を残している。この経緯は IBM のページにある。
Jeopardy! での勝利は、言葉の曖昧さを扱う統計的な手法が、テレビの舞台で人間の王者に勝てる水準に達したことを示した。その後の言語 AI は、2017年の Transformer を経て大規模言語モデルへ進み、Watson とは別の道筋をたどることになる。AI 全体の流れは AI の年表 にある。
よくある質問
- IBM Watson が Jeopardy! に出たのはいつですか。
- 米国で2011年2月14日・15日・16日の3夜に放送されました。2試合を3日に分けた形式で、収録は2011年1月、ニューヨーク州ヨークタウンハイツの IBM の研究所で行われています。対戦の予定は2010年12月14日に発表されました。
- Watson はいくら獲得したのですか。
- 番組上の2試合合計の獲得額は7万7147ドルで、Ken Jennings は2万4000ドル、Brad Rutter は2万1600ドルでした。賞金は1位100万ドル、2位30万ドル、3位20万ドルで、IBM は全額、2人は半額を慈善団体に寄付すると発表していました。
- Watson はインターネットで答えを検索していたのですか。
- いいえ。IBM によれば Watson はインターネットに接続されておらず、事前に取り込んだ百科事典・辞書・Wikipedia・文学作品などの情報を使い、数百のアルゴリズムで候補の答えを並行して評価し、確信度が十分高いときだけボタンを押しました。
- Watson Health はどうなったのですか。
- IBM は2022年1月21日、Watson Health のデータ・分析資産を投資会社 Francisco Partners に売却する契約を発表しました。それ以前から IEEE Spectrum などは、医療への応用が当初の約束に届かなかったと報じていました。
出典
一次資料Watson, Jeopardy! champion — IBM Heritage
David Ferrucci の提案(2006年)、10ラック90台のサーバ・2,880コア、インターネット非接続、確信度による回答、Toronto の誤答、最終獲得額、Jennings のコメント
放送日(2011年2月14・15・16日)、2試合を3日で行う形式、賞金100万・30万・20万ドルと寄付の約束、Jennings と Rutter の実績、POWER7
二次資料IBM Watson Wins Jeopardy, Humans Rally Back — PCWorld, 17 February 2011
1月の収録、寄付先、Jennings が最終問題の解答欄に書いた一文
Jeopardy! の翌日の医療参入発表、MD Anderson の事業中止(2016年、6200万ドル)、Robert Wachter の評価
最終更新: