T1#messaging#saas#enterprise#acquisition
Slack とは ── ゲーム会社が作った仕事用チャット
メタデータ
- 日付
- 年代
- 2010s
- Tier
- T1
- 参照年表
- インターネットとWebの歴史
- 出典数
- 11
- 関連項目
- 00
- Tags
- #messaging#saas#enterprise#acquisition
Slack は、チームの会話を「チャンネル」ごとに分けて流す業務用のチャットサービスである。いつから使えるのかという問いへの答えは、2014年2月12日の一般公開。その半年前の2013年8月に、招待制の限定公開(プレビュー)が始まっていた。作ったのは、写真共有サービス Flickr の共同創業者 Stewart Butterfield が率いた Tiny Speck という会社で、もとはオンラインゲームを作っていた。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 会社の設立 | 2009年、米デラウェア州で Tiny Spec, Inc. として設立。同年 Tiny Speck に、2014年に Slack Technologies に改名 | 上場申請書類(S-1) |
| 限定公開 | 2013年8月 | TechCrunch |
| 一般公開 | 2014年2月12日 | Building Slack |
| 上場 | 2019年6月20日、NYSE に直接上場(ティッカー WORK) | The Register |
| 買収 | Salesforce が2020年12月1日に発表、2021年7月21日に完了 | Salesforce |
ゲームの失敗から生まれた
Tiny Speck の最初の製品は、ブラウザで遊ぶ多人数参加型のオンラインゲーム Glitch だった。TechCrunch の2012年11月15日の記事によれば、Glitch は十分な利用者を集められず、買い手も見つからないまま12月9日に終了することになり、約30人が解雇された。同じ記事は、同社がゲーム以外にも使えるメッセージング技術を開発しており、残った少人数のチームがそれをもとに新しい製品を作ると伝えている。
その新しい製品が Slack である。Slack の初期の社員が書いた回顧録「Building Slack」は、一般公開を作業開始から13か月後、初期のアルファ版から9か月後、プレビュー公開から6か月後としている。
2014年2月12日、一般公開
TechCrunch は2014年2月12日、Slack が限定公開を終えて誰でも使える形になったと報じた。限定公開は2013年8月に始まり、参加したチームは250人ほどから10人ほどまでで、10人前後が典型だったという。料金は無料版と有料版に分ける形が予定されていた。記事によれば、無料版では直近の1万件のメッセージまで、それより古い記録は有料という区切りが検討されていた。
「Building Slack」によれば、公開から1年でアクティブ利用者は約1万5,000人から50万人超に増え、同社は4,275万ドルを調達して評価額11億ドルの未上場企業になった。
2019年、新株を出さない上場
Slack は2019年4月26日に米証券取引委員会(SEC)へ上場申請書類(S-1)を出した。そこに書かれた規模は次のとおりである。
| 指標 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| 日次アクティブ利用者 | 1,000万人超 | 2019年1月31日までの3か月 |
| 有料顧客 | 8万8,000超 | 2019年1月31日 |
| 3人以上で使う組織 | 60万超 | 2019年1月31日 |
| 売上高 | 4億60万ドル(前年度2億2,050万ドル) | 2019年1月期 |
上場の形は、引受証券会社を使わず、既存の株主が持つ株をそのまま取引所で売買できるようにする直接上場だった。S-1 自身がこの方式を「novel method」(新しい方法)と書いている。The Register によれば、2019年6月20日に NYSE でティッカー WORK として取引が始まり、取引所が示した参照価格26ドルに対して、初値は38.50ドルだった。
Salesforce による買収
2020年12月1日、Salesforce は Slack を買収する契約を結んだと発表した。条件は Slack 株1株につき現金26.79ドルと Salesforce 株0.0776株で、2020年11月30日の Salesforce 株の終値で計算した企業価値は約277億ドルだった。買収後の Slack は Salesforce の一事業部門となり、Butterfield が引き続き率いるとされた。
買収は2021年7月21日に完了した。Salesforce の発表は、Slack が Slack のブランドのまま運営され、共同創業者で CEO の Butterfield が引き続き率いると書いている。もっとも Butterfield は長くはとどまらなかった。TechCrunch によれば、2022年12月、Butterfield が2023年1月に CEO を退き、Salesforce の幹部 Lidiane Jones が後任になることが明らかになった。
買い手の Salesforce は、顧客管理(CRM)のソフトをインストール不要の Web サービスとして売り出した会社である。その成り立ちは Salesforce の記事 にある。
データと AI をめぐる論争
買収後の Slack で目立つようになったのは、利用者の会話データを誰が何に使えるかという問題だった。
2024年5月、Slack のプライバシー原則にある一節が批判を浴びた。TechCrunch の2024年5月17日の記事によれば、Slack は顧客データを、チャンネルや絵文字の推薦、検索結果に使う「グローバルモデル」の学習に既定で使っており、除外するにはメールで申し出る必要があった。Internet Archive の記録では、この条項は少なくとも2023年9月から有効だった。Slack は、有料の追加機能 Slack AI を支える大規模言語モデル(LLM)は顧客データで学習していないと説明し、Slack のエンジニアは条項が Slack AI の登場前に書かれたもので更新が必要だと認めた。
2025年には、外部のサービスが Slack のデータを使う側の扱いが変わった。法律事務所 Hunton Andrews Kurth の2025年8月5日の解説によれば、Salesforce は Slack の API 利用規約を改め、API で得られるデータの一括書き出し、永続的な複製や索引の作成、そして LLM での利用を禁じた。社内文書を横断検索する AI サービスの Glean は、この変更が顧客の選んだ AI 基盤でデータを使うことを妨げると顧客に伝え、新しい規約のもとでは問い合わせ1件ごとの取得しか認められないとされた。
AI エージェントの入口へ
Salesforce は Slack を、社内の AI エージェントを呼び出す場所として位置づけ直している。SD Times によれば、作り直した Slackbot は2026年1月13日から Business+ と Enterprise+ の顧客に向けて一般提供が始まった。Salesforce は、Slack と接続したツールの文脈を使って答えを探し、作業を整理し、会議を設定するなどの動作をこなし、利用者の権限で見られる情報だけを扱うと説明している。
Slack が2014年に持ち込んだのは、メールの代わりにチャンネルで仕事の話をするという習慣だった。それから12年、そのチャンネルに溜まった会話は、AI の材料として誰が使えるのかを争う対象になっている。メッセージングの別の系譜は WhatsApp、電子メールの起源 を、全体の流れは インターネットと Web の年表 を参照。
よくある質問
- Slack はいつから使えるようになったのですか。
- 2013年8月に限定公開(プレビュー)が始まり、2014年2月12日に誰でも使える形で一般公開されました。
- Slack を作ったのは誰ですか。
- Flickr の共同創業者 Stewart Butterfield が率いた Tiny Speck です。オンラインゲーム Glitch の開発中に社内で使っていたメッセージングの仕組みを、Glitch の終了後に製品にしました。会社は2014年に Slack Technologies に改名しています。
- Salesforce は Slack をいくらで買収したのですか。
- 2020年12月1日の発表では、Slack 株1株につき現金26.79ドルと Salesforce 株0.0776株で、企業価値は約277億ドル(2020年11月30日の Salesforce 株の終値で計算)でした。買収は2021年7月21日に完了しました。
- Slack の AI とデータの扱いで何が問題になったのですか。
- 2024年5月、顧客データを推薦や検索の機械学習モデルに既定で使い、除外はメールで申し出る規定が批判されました。2025年には API 規約が改められ、API で得たデータの一括書き出しや LLM での利用が禁じられて、Glean など外部の AI 検索サービスに影響が出ました。
出典
二次資料Year 1 — Building Slack (retrospective by former Slack staff)
2014年2月12日の一般公開、作業開始から13か月・プレビュー開始から6か月、初年の利用者の伸び
最終更新: