人物 :: PERSON
ジョン・マッカーシー
「人工知能」という用語の命名者の一人(1956年)。LISP の設計者(1958年)。Stanford AI Lab の創設者(1963年)。タイムシェアリングや「ガベージコレクション」という概念にも貢献した、初期 AI 研究の中心人物。1971年に ACM チューリング賞受賞。

プロフィール
- 生年
- 1927
- 没年
- 2011
- 在世
- 84 年
- 関連事象
- 02
- 名称
- ENJohn McCarthyJAジョン・マッカーシー
ジョン・マッカーシー ── 「人工知能」を命名し、 LISP を設計した男
ジョン・マッカーシー(John McCarthy、 1927年9月4日 ── 2011年10月24日)は、 20世紀計算機科学の前提を二度書き換えた研究者である。 一度目は1955年、 翌年開催される会議の企画書で「artificial intelligence」という用語を提案したこと。 二度目は1958年、 関数型プログラミング言語 LISP の設計。 どちらも、 名前と概念がそのまま70年生き残っている。
経歴
マッカーシーはマサチューセッツ州ボストンに生まれた。 両親はアイルランド系・リトアニア系ユダヤ系のいずれも左派活動家で、 米国共産党にも属していた時期がある。 数学への早熟は中学・高校期に明らかで、 高校時代に Caltech の数学教科書を独学で読破していたという。
Caltech で数学学士(1948年)、 Princeton 大学で数学博士(1951年)を取得。 学位論文の指導教官は Solomon Lefschetz。 Stanford(1953-55年)、 Dartmouth College(1955-58年)、 MIT(1958-62年)を経て、 1962年から Stanford 大学計算機科学科教授。 1965年に Stanford AI Lab(SAIL)を創設し、 2000年の退任まで率いた。
ダートマス会議と「人工知能」命名
1955年8月、 マッカーシーは Marvin Minsky、 Claude Shannon、 Nathaniel Rochester(IBM)と連名で、 翌年夏に Dartmouth College で開催する研究会の提案書をロックフェラー財団に提出した。 「2 month, 10 man study of artificial intelligence」と題されたこの提案書こそ、 「artificial intelligence」という語が公式文書で使われた最初の例である。
1956年夏のダートマス会議 は、 約10名の研究者が約6週間共同滞在する形で実施され、 商業的成果より概念的合意 ── 「機械による知能のシミュレーションを研究分野として独立させる」 ── が主な成果となった。 マッカーシー自身はその場で大きな成果を出したわけではないが、 分野の命名者として AI 史の最上段に位置付けられている。
LISP の設計
1958年に MIT で設計された LISP(LISt Processor)は、 マッカーシーが論文「Recursive functions of symbolic expressions and their computation by machine, Part I」(1960年、 Communications of the ACM)で発表した。 LISP は (1) S 式によるコードとデータの統一表現、 (2) 再帰関数を一級市民とする評価モデル、 (3) ガベージコレクションによる自動メモリ管理、 という三つの革新を持ち込んだ。
「ガベージコレクション」という術語自体が、 マッカーシーの命名である。 自動メモリ回収という概念は、 後の Java(1995年)、 Python(1991年)、 Go、 JavaScript、 そして現代の多くの言語に継承された。
LISP は AI 研究の主要言語として1960年代から1980年代まで君臨し、 派生として Maclisp、 Common Lisp、 Scheme、 Clojure を生む。 関数型プログラミングという系譜全体の起点でもある。
タイムシェアリングと「ユーティリティとしての計算」
マッカーシーの第三の貢献は、 1959年に提案したタイムシェアリング ── 一台の大型計算機を複数ユーザーが同時利用する仕組み ── である。 MIT の CTSS(1961年)、 Multics(1969年)に直接結実し、 1969年の UNIX もこの系譜上にある。
1961年の MIT 創立百周年講演でマッカーシーは「計算は将来、 電力のように公共ユーティリティとして提供されるかもしれない」と述べた。 約45年後にこの予言は AWS(2006年)として実現する ── 「クラウドコンピューティング」という言葉が普及する遥か前の構想である。
受賞・栄誉
- 1971年 ACM チューリング賞「AI 分野への貢献」
- 1988年 Kyoto 賞(先端技術部門)
- 1990年 米国国家科学賞
- 2003年 Benjamin Franklin Medal(情報科学)
影響
マッカーシーは2011年10月24日、 Stanford 自宅で84歳で死去(自然死)。 同月初頭に Steve Jobs が、 同月中に Dennis Ritchie が他界したため、 三人連続の計算機巨人の喪失として記憶された月となった。
技術的遺産は二重に走り続けている。 ひとつは LISP / ガベージコレクション系譜 ── 現代の高級言語のほぼ全てが受け継ぐ抽象化レベル。 もうひとつは AI そのもの。 マッカーシー自身が掲げた「人間レベルの汎用知能」という目標は、 深層学習革命(2012年 AlexNet) を経て ChatGPT(2022年) に至るまで、 半世紀以上にわたって分野の北極星であり続けた。 マッカーシー自身は深層学習よりも論理ベースの記号処理を好み、 統計的手法に懐疑的だったが、 「AI」という看板を掲げ続けたことが、 第二、 第三のブームへの橋になった。
関連する出来事
- 1956年夏ダートマス会議 ── 「人工知能」の命名1956年夏、ニューハンプシャー州ダートマス大学で開かれた約8週間のワークショップで、John McCarthy・Marvin Minsky・Claude Shannon・Nathaniel Rochester ら10名が「artificial intelligence」という言葉を提案・採用した。具体的な技術的成果よりも、後の数十年にわたるこの分野の独立した呼称と研究者ネットワークを生んだことが歴史的意義となる。
- 1958年LISP ── 関数型と AI の祖MIT の John McCarthy が AI 研究のために設計した、第二の高水準言語。S 式によるコードとデータの統一表現、再帰、リスト処理、ガベージコレクション、第一級関数 ── 後のプログラミング言語が再発見していくことになる概念の多くが、すでにここに揃っていた。Scheme、Common Lisp、Clojure、そして Haskell など関数型言語系譜の出発点。