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Thomson Reuters 対 ROSS 控訴審 ── AI の学習に使った判例要旨は fair use ではない

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2026年9月29日、 米国第3巡回区控訴裁判所(フィラデルフィア)が Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH 対 ROSS Intelligence Inc.(No. 25-2153)の判決を出した。 結論は地裁の維持である。 法律情報サービス Westlaw の判例要旨(ヘッドノート)は著作権で保護され、 それを写して自社の AI の学習に使った ROSS の行為は fair use(公正利用)に当たらない。 合議体は Restrepo、 Montgomery-Reeves、 Bove の3判事で、 法廷意見は Montgomery-Reeves 判事が書いた。

AI の学習と fair use をめぐるそれまでの実体判断は、 Bartz 対 Anthropic を含めて地裁のものだった。 法律事務所 Jackson Walker の解説は、 この判決を AI の学習における fair use を直接扱った最初の連邦控訴審判決と呼び、 法律ニュースの MLex も、 生成 AI の文脈の外ではあるが AI の学習と fair use についての米国初の控訴審判断だと書いている。

何が争われたのか

Westlaw は判決文に要旨を付けて整理する。 ヘッドノートは判決のうち法的な論点だけを抜き出した注釈で、 判決文の上に置かれ、 クリックすると元の一節に飛ぶ。 判決の認定では、 Thomson Reuters の編集者は1件ごとに要点を選び、 判決文を読まなくても意味が通るように書き、 できる限り800字以内に収める。 Thomson Reuters は判決文そのものには著作権を主張していないが、 ヘッドノートは同社が登録した著作物に含まれる。

ROSS はトロント大学でコンピュータ科学を学んでいた3人が、 IBM の Watson を使うコンテストをきっかけに創業した会社である。 作ろうとしたのは、 平易な文章で法律の質問を入れると、 約1000万件の判決文から答えになる一節を返す検索エンジンだった。 判決は、 ROSS の AI は生成 AI ではないと明記している。 新しい表現を作らず、 既存の判決文の一節を返すだけだった。

その AI を学習させるために、 ROSS は LegalEase Solutions という会社に学習用のメモを発注した。 約2万5000件のメモの1件1件が法律の質問と、 それに対する判決文の一節4〜6個からなり、 一節には「great」「good」「topical」「irrelevant」の4段階のラベルが付いた。 判決の脚注は、 入力と出力の組を大量に与えてパターンを学ばせる仕組みとしてこの AI を説明している。 教師あり学習の典型的な形である。 問題は、 メモの書き手が質問を作るのに Westlaw のヘッドノートを使ったことだった。 そのほうが質問を組み立てやすかったからである。

Thomson Reuters は2020年にデラウェア地区連邦地裁に提訴した。 担当したのは第3巡回区の Stephanos Bibas 判事(地裁に指名されて審理)で、 2025年2月11日、 ROSS が2,243件のヘッドノートを写したことは侵害であり fair use ではないとする一部略式判決を出した。 そのうえで地裁は、 ヘッドノートの独創性と fair use の2点を控訴審に判断させるため、 中間上訴を認めた。 2026年6月11日に口頭弁論が開かれた。

判決の中身

まず独創性について。 著作権の要件は「極めて低い」水準で、 Feist 判決のいう「創造性の火花」があればよい。 控訴裁は、 どの論点を要旨に入れ、 それをどう言葉にするかの選択に、 その火花があると判断した。 1888年の Callaghan 対 Myers で連邦最高裁が判例集の編者のヘッドノートに著作権を認めたことも根拠に挙げている。 なお、 Key Number System(Westlaw の分類体系)の独創性は、 ROSS が書面で争わなかったため判断していない。

fair use の4要素の判断は次のとおりである。

要素判断理由の要点
1. 利用の目的と性格fair use に不利商業的で、 Westlaw と同じ「法律検索の基盤を作る」目的。 変形性は「せいぜい最小限」
2. 著作物の性質わずかに有利ヘッドノートは公表済みで、 創作より事実に近い
3. 利用の量と実質性不利ヘッドノートを全文写した。 判決文は自由に使えたので、 写す必要がなかった
4. 市場への影響不利Westlaw の価値と、 AI 学習用データとしてライセンスする派生市場を損なう

第1要素では、 ROSS が Authors Guild 対 Google(書籍の全文スキャンによる検索を fair use とした2015年の判決)や、 Google 対 Oracle、 Sega 対 Accolade のような「中間複製」の判例を持ち出した。 控訴裁は、 それらの事件ではコードの保護されない機能的な部分に到達するために複製が必要だったが、 ROSS は判決文を自由に写せたのにヘッドノートを使ったと区別した。 法廷意見は "Unlike necessity, ease is not a justification for copying."(必要性と違い、 手軽さは複製の正当化にならない)と書いている。

第3要素では、 ROSS は、 写したのは Westlaw の約2800万件のヘッドノートの0.08%にすぎないと主張した。 控訴裁は、 1件1件のヘッドノートがそれぞれ著作物であり、 ROSS は写した1件ごとに著作物の全体を写したと退けた。

第4要素では、 Thomson Reuters が自社の AI 検索(WestSearch Plus)の学習にもヘッドノートを使っていることを認定し、 ヘッドノートを AI の学習データとしてライセンスする市場は急速に形成されつつあると述べた。 Thomson Reuters がそれを他社にライセンスしてこなかったことは、 市場がないことの証明にならないとしている。 AI は国家安全保障に欠かせないという ROSS の主張には、 法律検索サービスと安全保障を結びつける証拠がないとした。

生成 AI の事件とは区別された

判決の射程を決めるのは脚注7である。 米司法省は2026年9月1日、 ニューヨーク南部地区で係属中の OpenAI をめぐる併合訴訟(In re: OpenAI, Inc. Copyright Infringement Litigation)に利害関係の陳述書を出し、 Bartz 対 Anthropic を根拠に、 独自の応答を生成できる大規模言語モデルの学習は変形的利用だと主張していた。 控訴裁は、 その事件の懸念は本件には当てはまらないとし、 "Unlike the AI models in Bartz and In re: OpenAI, ROSS's AI platform cannot generate original expression"(Bartz や In re: OpenAI の AI モデルと違い、 ROSS の AI は独自の表現を生成できない)と書いた。 さらに、 本件の ROSS は Westlaw の商業的な代替品を作る目的で AI を学習させたとも述べている。

つまりこの判決は、 「AI の学習は fair use ではない」という一般則を立てたものではない。 新しい表現を作らず、 元の著作物と同じ市場で直接競合する検索ツールについて、 その事実関係のもとで fair use を否定した判断である。 Jackson Walker の解説も、 AI の学習を一律に禁じるものとも、 一般的な安全地帯とも読むべきではないと注意している。 生成 AI の学習を fair use とした地裁判断 ── Bartz 対 Anthropic と、 同じ週の Kadrey 対 Meta ── とは、 事実関係の違いで並び立つ形になった。 新聞社などが OpenAI を訴えた事件の経緯は NYT 対 OpenAI にある。

判決はまた、 ROSS が投資家の法律事務所の認証情報で Westlaw に入ろうとするなど、 ときに不誠実に振る舞ったことを記録が示すと脚注で述べている。 ただし誠実さが fair use の判断でなお意味を持つかについては、 最高裁自身が疑問を示しているとも付け加えた。

その後

Courthouse News によると、 Thomson Reuters の広報担当者は判決を歓迎し、 ROSS の代理人である White & Case の Yar Chaikovsky は、 連邦最高裁の審理を求める意向を示した。 Courthouse News と Jackson Walker はいずれも、 ROSS をすでに事業を停止した会社(now-defunct)と書いている。

学習データの問題を、 生成するかしないか、 元の市場と競合するかしないかで切り分けるという考え方が、 控訴審の判決文に書き込まれた。 AI と著作権の流れ全体は AI と著作権の年表 にある。

よくある質問

控訴裁判所は何を判断したのか
2026年9月29日、第3巡回区控訴裁判所は、Westlaw の判例要旨2,243件は著作権で保護される独創性を持ち、ROSS がそれを写して法律検索 AI の学習用メモを作った利用は fair use ではないとして、デラウェア地区連邦地裁の一部略式判決を維持しました。
この判決は ChatGPT などの生成 AI にも当てはまるのか
直接には当てはまりません。判決は、ROSS の AI は既存の判決文の一節を返すだけで新しい表現を生成しないと認定し、脚注で Bartz 対 Anthropic や OpenAI をめぐる併合訴訟のような生成 AI の事件とは区別しています。
AI の学習と fair use についての最初の控訴審判決なのか
法律事務所 Jackson Walker の解説と法律ニュースの MLex がそう位置づけています。MLex は、生成 AI の文脈の外での判断だという限定も付けています。

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