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Stable Diffusion 公開 ── 画像生成 AI が手元の GPU に降りてきた日

メタデータ
- 日付
- 年代
- 2020s
- Tier
- T1
- 参照年表
- AIの歴史 · AIと社会の歴史 · オープンソースの歴史
- 出典数
- 09
- 関連項目
- 04
- Tags
- #open-source#ethics#regulation
Stable Diffusion は、文章(プロンプト)から画像を作る生成 AI のモデルで、2022年8月22日に Stability AI がモデルの重みを一般公開した。それまで DALL·E や Midjourney のような画像生成はサービス提供者のサーバの向こう側にあったが、Stable Diffusion は重みそのものを配ったため、手元の GPU で動かし、改造し、追加学習させることができた。「Stable Diffusion とは何か」に一言で答えるなら、画像生成 AI を誰でも持ち帰れる形にして急速に広まったモデルであり、その代償として学習データと著作権の問題を社会に突きつけたモデルである。
誰が作ったのか ── CompVis・Stability AI・Runway・LAION
技術の中心は、ミュンヘン大学(LMU)の CompVis グループが開発した潜在拡散モデル(Latent Diffusion Model)である。Robin Rombach らの論文は2021年12月に arXiv に公開され、CVPR 2022 で発表された。画像そのものではなく、圧縮した「潜在空間」でノイズを少しずつ取り除いて画像を作るため、計算量を大きく抑えられる。
CompVis の GitHub リポジトリは、Stable Diffusion が Stability AI と Runway との協力で実現したと記し、計算資源は Stability AI の寄付、データ面では LAION の支援を受けたとしている。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 一般公開 | 2022年8月22日 | Stability AI の告知 |
| 構成 | U-Net 8億6000万パラメータ+テキストエンコーダ1億2300万 | CompVis リポジトリ |
| 学習データ | LAION-5B の部分集合の512×512画像 | 同上 |
| 必要な GPU | Stability AI は約6.9GB の VRAM、リポジトリは10GB 以上と記載 | 両者の説明 |
| ライセンス | CreativeML OpenRAIL-M(商用利用可、用途制限つき) | Stability AI の告知 |
公開告知で Stability AI は、ライセンスを商用・非商用の双方に寛容なものと説明し、責任ある利用は利用者に委ねるとした。望ましくない出力を取り除く AI ベースの安全分類器を既定で同梱したが、そのパラメータは調整できるとも書いている。
重みを配るということ
DALL·E や Midjourney では、利用者はプロンプトを送り、結果を受け取るだけだった。何を生成させないかは提供者が決め、モデルの中身には触れられない。Stable Diffusion では、その境界が利用者側に移った。
結果は速かった。2022年10月17日、Stability AI は1億100万ドルの資金調達を発表し、Stable Diffusion は世界で20万超の開発者にダウンロード・ライセンスされ、自社のウェブサービス DreamStudio は50か国超で100万超の登録者を得たと主張した(いずれも同社の数字である)。オープンソースの操作画面や、特定の画風・人物を覚えさせる追加学習の手法が次々に現れ、派生モデルを共有する文化が生まれた。2022年11月には学習し直した Stable Diffusion 2.0、2023年7月には SDXL が続いている。
重みの公開は、のちの Llama にも通じる「オープンな重み」の路線の早い例でもある。同じ年の11月に公開された ChatGPT が文章生成で起こしたことを、Stable Diffusion は数か月早く画像で起こしたと言える。
誰が得をし、誰が損をしたのか
得をしたのは、まず個人の開発者と小さな企業である。API の利用料やコンテンツ方針に縛られずに、画像生成を自分の製品へ組み込めるようになった。研究者にとっても、中身を調べられる強力なモデルが手に入った。
損失を訴えたのは、絵を描くことで生計を立てる人々である。2023年1月、ビジュアルアーティストの Sarah Andersen、Kelly McKernan、Karla Ortiz の3人は、Stability AI・Midjourney・DeviantArt を相手にカリフォルニア州北部地区連邦地裁で集団訴訟を起こした。自分たちの作品が無断で学習に使われたという主張である。2024年8月12日、William Orrick 判事は著作権の直接侵害と誘引侵害の請求について審理の継続を認め、DMCA(著作権管理情報の除去)に基づく請求は棄却した。
写真の分野では Getty Images が2023年1月に英国で、同年2月に米国で Stability AI を訴えた。その経緯と英国判決の中身は Getty Images 対 Stability AI にある。生成画像の著作権そのものについては、同じ2022年夏に起きた コロラド州フェアでの AI アート受賞 が論点を先取りしている。
LAION-5B ── 学習データの中身
Stable Diffusion の学習データの元になった LAION-5B は、ドイツの非営利団体 LAION がウェブから集めた画像リンクと説明文の組で、LAION 自身の説明では約58億の画像リンクを含む。画像そのものではなくリンクの一覧だが、人の目ですべてを確かめられる規模ではなかった。
2023年12月20日、Stanford Internet Observatory の David Thiel は、LAION-5B に既知の児童性的虐待画像(CSAM)が数百件含まれていたとする報告を公表した。報告は、このデータセットの一部が Stable Diffusion の学習に使われたことも明記している。LAION はこの報告を受けてデータセットを即座に取り下げ、2024年8月30日、提携団体から受け取ったハッシュの一覧と照合して2,236件のリンクを除いた Re-LAION-5B を公開した。LAION によれば、Stanford が特定したのは1,008件のリンクである。
日本では
日本の著作権法は、2018年の改正で設けられた柔軟な権利制限規定(第30条の4など)によって、著作物を享受することを目的としない情報解析を広く認めている。Stable Diffusion の登場後、この規定が生成 AI の学習にどこまで及ぶかが議論になり、文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会は2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめた。これは裁判所の判断ではなく、行政としての考え方の整理である。
その後
Stable Diffusion が開いた「重みを配る画像生成」は、生成 AI の利用者を一気に広げ、同時に、学習の許諾・データの安全・作者への対価という3つの問いを法廷と議会に送り込んだ。文章の世界で同じ問いがどう争われているかは Bartz 対 Anthropic と New York Times 対 OpenAI にある。
よくある質問
- Stable Diffusion はいつ公開されたのですか。
- モデルの重みが一般公開されたのは2022年8月22日です。Stability AI が発表し、重みとライセンスは CompVis のページから配布されました。基になった潜在拡散モデルの論文は2021年12月に arXiv に出て、CVPR 2022 で発表されています。
- 誰が作ったのですか。
- 研究の中心はミュンヘン大学(LMU)の CompVis グループで、Robin Rombach らの潜在拡散モデルが土台です。CompVis のリポジトリは Stability AI と Runway との協力によるものと記し、Stability AI が計算資源を寄付し、LAION が支援したとしています。
- LAION-5B の問題とは何ですか。
- Stable Diffusion の学習に一部が使われた画像リンク集 LAION-5B に、既知の児童性的虐待画像(CSAM)が数百件含まれていたと、Stanford Internet Observatory の David Thiel が2023年12月20日に報告しました。LAION はデータセットを取り下げ、2024年8月30日に2,236件のリンクを除いた Re-LAION-5B を公開しています。
- 画家たちの訴訟はどうなっていますか。
- Sarah Andersen ら3人の画家が2023年1月にカリフォルニア州北部地区連邦地裁で Stability AI・Midjourney・DeviantArt を訴えました。2024年8月12日、William Orrick 判事は直接侵害と誘引侵害の請求の審理継続を認め、DMCA に基づく請求は棄却しています。
出典
一次資料Stable Diffusion Public Release — Stability AI, Aug 22, 2022
一般公開の告知。CreativeML OpenRAIL-M ライセンスで商用利用可、約6.9GB の VRAM で動作、既定で有効な安全分類器、DreamStudio
一次資料CompVis/stable-diffusion — GitHub repository README
Stability AI と Runway との協力、Stability AI の計算資源寄付と LAION の支援、LAION-5B の部分集合の512×512画像で学習、U-Net 8億6000万・テキストエンコーダ1億2300万、10GB 以上の VRAM
1億100万ドルの調達。20万超の開発者がダウンロード・ライセンス、DreamStudio の登録者100万超(いずれも同社の主張)
LAION-5B に既知の CSAM が数百件。Stable Diffusion の学習に一部が使われたことを明記
Stanford の報告を受けた即時取り下げ、Stanford が特定した1,008件、2,236件のリンク削除、LAION-5B は58億の画像リンク
二次資料Takeaways from the Andersen v. Stability AI Copyright Case — Copyright Alliance
2024年8月12日の Orrick 判事の決定。直接侵害・誘引侵害は継続、DMCA 1202条の請求は棄却
一次資料AIと著作権について — 文化庁
令和6年3月に文化審議会著作権分科会法制度小委員会が「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめ。平成30年改正の柔軟な権利制限規定(第30条の4等)
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