T1#ethics#regulation

「Théâtre D'opéra Spatial」── AI で作った絵が州フェアで1位になった日

「Théâtre D'opéra Spatial」の元になった Midjourney の出力画像。円形の光の開口部に向かう広間に、長い衣をまとった人物たちが立つ
出典Midjourney output reproduced in the U.S. Copyright Office Review Board decision (Wikimedia Commons) · Public domain (PD-AI) · Commons で見る ↗

メタデータ

日付
年代
2020s
Tier
T1
出典数
08
関連項目
02
Tags
#ethics#regulation

2022年夏、画像生成 AI で作った絵が美術コンテストで1位になった。コロラド州フェア(州の品評会)の美術展で、8月29日付の入賞者一覧の新進作家部門「デジタルアート/デジタル加工写真」クラスの1位に、Jason M. Allen の「Théâtre D'opéra Spatial」(宇宙オペラ劇場)が載っている。Allen はこの絵の元になる画像を、画像生成サービス Midjourney で作った。受賞そのものよりも長く続いたのは、その後の問い ── AI で作った絵に著作権はあるのか ── である。米国著作権局は2023年9月5日、AI が生成した部分を除外しない限り登録できないという結論を最終的に維持した。

何が受賞したのか

コロラド州フェアの公式の入賞者一覧によれば、新進作家(Emerging Artist)部門のクラス0005「Digital Arts / Digitally-Manipulated Photography」は3作品が入賞し、その1位が Allen の作品だった。プロの作家の部門ではなく、新進作家向けの部門である点は押さえておきたい。

Allen は Midjourney のコミュニティ(Discord)に、会場に飾られたキャンバス作品の写真とともに「1位を取った」と投稿した。VICE の2022年8月31日の記事によると、Allen は応募の際に Midjourney を使った作品だと明示したと述べ、Midjourney で生成し、Photoshop で手を加え、Gigapixel で拡大するという手順も説明している。Allen は「物議を醸すのは分かっていた」と語った。

反発 ── 「芸術の死」

投稿は SNS に転載され、強い反発を呼んだ。VICE が引いたある投稿は、芸術の死を目の当たりにしていると書いた。手で描くことに何年も費やしてきた人々にとって、プロンプトを打ち込んで得た画像が同じ土俵で賞を取ることは、技能そのものの価値が問われる出来事だった。一方で Allen は、この受賞で自分の使命への確信が強まったと述べている。

英語版 Wikipedia がまとめた報道によると、審査員2人は Midjourney が AI だとは知らなかったが、知っていても1位にしただろうと述べ、コロラド州フェアは翌2023年から AI の使用の申告を求めるようになった。新しい道具と既存の規則のずれを、主催者がまず規則の側で埋めた形である。

著作権局は何を判断したのか

2022年9月21日、Allen はこの作品を2次元美術作品として米国著作権局に登録申請した。申請書には AI を使ったことを書いていなかったが、著作権局は受賞が全米の注目を集めたことからそれを把握しており、審査官は Midjourney の使い方について説明を求めた。

日付出来事
2022年8月29日コロラド州フェアの入賞者一覧で1位
2022年9月21日米国著作権局に登録申請
2022年12月13日最初の拒絶
2023年1月24日1回目の再考請求
2023年6月6日再考の結果も拒絶(Photoshop の編集部分は登録可能と判断)
2023年7月12日2回目の再考請求
2023年9月5日審査委員会が拒絶を維持
2024年9月26日Allen がコロラド州連邦地裁に提訴

著作権局への説明で Allen は、最初の版にたどり着くまでに修正とテキストプロンプトを少なくとも624回入力したと述べた。審査官は Midjourney が生成した部分を権利の主張から除くよう求めたが、Allen は拒み、作品全体の登録を求めた。最初の拒絶は、提出された作品が Allen の著作部分だけでなく、Allen と Midjourney の分離できない寄与を一体に含んでいることを理由にしている。

2023年9月5日の審査委員会の決定は、作品には AI が生成した、無視できる程度(de minimis)を超える内容が含まれ、申請ではそれを除外として明示しなければならないとした。Allen が除外を拒んでいる以上、申請どおりには登録できない。ただし著作権局は、Photoshop による人間の視覚的な編集には登録に足る独創性があることを認めていた。著作権局が否定したのは「この絵の全部が Allen の著作物だ」という主張であって、Allen の手が入った部分ではない。

決定は、同年3月に著作権局が出した AI 生成物を含む作品の登録指針と、人間の著作者性を著作権の「土台となる要件」とした Thaler 対 Perlmutter の地裁判決(2023年8月)を根拠に挙げている。

その後の流れ

著作権局は2025年1月29日、AI と著作権に関する報告書の第2部で、AI の出力が保護されうるのは人間が十分な表現上の要素を加えた場合であり、プロンプトの入力だけでは足りないという整理を示した。

AI を唯一の著作者として申請した Thaler の事件では、コロンビア特別区巡回控訴裁判所が2025年3月18日に著作権局の判断を支持し、連邦最高裁は2026年3月2日に上告受理の申立てを退けた。AI だけを著作者とする作品は登録できないという控訴審の判断が、こうして確定した。

Allen の事件はそれより難しい問い ── 人間が AI を道具として使い、繰り返し指示を出した場合はどうか ── を扱う。Allen は2024年9月26日、コロラド州連邦地裁に著作権局の判断の取り消しを求めて提訴した。2026年6月9日の裁判所の命令によれば、書面の提出期限は2026年2月27日に過ぎているが、判決はまだ出ていない。

社会にとっての意味

この出来事が示したのは、AI 生成画像をめぐる2つの別々の問いである。ひとつは、AI を使った作品を人の作品と同じ土俵で評価してよいかという、コンテストや市場の規則の問い。もうひとつは、生成された画像を誰が所有するのかという、法の問いである。前者については主催者が申告制で応じ、後者については米国著作権局が「人間の寄与だけを登録し、AI の生成部分は除外を明示させる」という運用を固めた。

学習に使われた側の作り手の権利という第3の問いは、同じ2022年8月に重みが公開された Stable Diffusion をめぐる訴訟で争われている。

よくある質問

AI で作った絵はどのコンテストで受賞したのですか。
2022年のコロラド州フェアの美術展です。8月29日付の入賞者一覧で、Jason M. Allen の「Théâtre D'opéra Spatial」が新進作家部門の「デジタルアート/デジタル加工写真」クラスの1位になっています。
この絵に著作権は認められたのですか。
登録されていません。米国著作権局は Photoshop による人間の編集部分は登録しうるとしつつ、Midjourney が生成した部分を除外するよう求めました。Allen が除外を拒んだため、2023年9月5日に審査委員会が拒絶を維持しました。
Allen はプロンプトを何回入力したのですか。
著作権局への説明で、Allen は最初の版にたどり着くまでに修正とテキストプロンプトを少なくとも624回入力したと述べています。その後 Photoshop で手を加え、Gigapixel AI で解像度を上げました。
その後、裁判になったのですか。
Allen は2024年9月26日、コロラド州連邦地裁に著作権局の判断の取り消しを求めて提訴しました。2026年6月9日の裁判所の命令によれば書面の提出期限は2026年2月27日に過ぎていますが、判断はまだ出ていません。

出典

  1. 一次資料2022 Fine Arts First, Second & Third — Colorado State Fair, Aug 29, 2022 (PDF)

    新進作家部門 0005 デジタルアート/デジタル加工写真で Allen Jason「Théâtre D'opéra Spatial」が1位

    取得日: 2026-10-17

  2. 一次資料Re: Second Request for Reconsideration for Refusal to Register Théâtre D'opéra Spatial — U.S. Copyright Office Review Board, Sep 5, 2023 (PDF)

    申請(2022年9月21日)から拒絶(12月13日)、再考請求(2023年1月24日・7月12日)までの経緯、624回のプロンプト、de minimis を超える AI 生成内容の除外義務

    取得日: 2026-10-17

  3. 二次資料An AI-Generated Artwork Won First Place at a State Fair Fine Arts Competition, and Artists Are Pissed — Matthew Gault, VICE, Aug 31, 2022

    Allen の Discord での報告と発言、SNS 上の反発

    取得日: 2026-10-17

  4. 一次資料NewsNet Issue 1060: Copyright Office releases Part 2 of AI report (Copyrightability) — U.S. Copyright Office, Jan 29, 2025

    プロンプトの入力だけでは著作者性は生じないという整理

    取得日: 2026-10-17

  5. 一次資料Docket No. 25-449, Thaler v. Perlmutter — Supreme Court of the United States

    2026年3月2日に上告受理申立てを却下

    取得日: 2026-10-17

  6. 一次資料Allen v. Perlmutter, No. 1:24-cv-02665 (D. Colo.) — CourtListener docket

    2024年9月26日提訴、William J. Martinez 判事。2026年6月9日の命令で書面提出期限が2026年2月27日に過ぎたと記載

    取得日: 2026-10-17

  7. 三次資料Théâtre D'opéra Spatial — Wikipedia

    取得日: 2026-10-17

最終更新:

共有