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Klarna の AI アシスタント「700人分の仕事」── カスタマーサポートの置き換えと、人への揺り戻し

2024年2月27日、スウェーデンの後払い決済・デジタル銀行 Klarna は、OpenAI の技術を使った AI アシスタントが世界で稼働して1か月の成果を発表した。カスタマーサービスのチャットの3分の2にあたる230万件の会話を処理し、フルタイムの担当者700人分に相当する仕事をこなしたという。生成 AI が人の仕事を置き換えた具体例として、この「700人分」は世界中で引用された。
ただし、話はそこで終わらなかった。Klarna の従業員はその後大きく減ったが、2025年5月には CEO の Sebastian Siemiatkowski 自身が、コストを重視しすぎた結果として品質が下がったと認め、人による顧客対応への投資を強める方針を語った。「AI がカスタマーサポートを置き換える」という物語の、最もよく知られた実例であると同時に、その限界を示した例でもある。
2024年2月の発表
Klarna の発表に並んだ数字は次のとおり。いずれも同社の発表である。
| 指標(Klarna の発表) | 値 |
|---|---|
| 稼働期間 | 世界で1か月 |
| 会話数 | 230万件(カスタマーサービスのチャットの3分の2) |
| 仕事量 | フルタイムの担当者700人分に相当 |
| 顧客満足度 | 人の担当者と同等 |
| 再問い合わせ | 25%減 |
| 解決までの時間 | 11分から2分未満へ |
| 提供範囲 | 23市場、35超の言語、24時間 |
| 2024年の利益改善の見込み | 4,000万ドル |
発表は、顧客が望めば人の担当者と話すこともできると付け加えている。Siemiatkowski は同じ発表の中で、この成果は顧客・従業員・投資家にとってよいことだとしつつ、AI が社会に与える深い影響も浮き彫りにしていると述べ、社会と政治家にこの変化を慎重に考えるよう呼びかけた。
誰が影響を受けたのか
最初に反応したのは市場だった。発表翌日の2月28日、フランスのコールセンター大手 Teleperformance の株価はパリ市場で一時29%下落し、2022年11月以来の下げ幅になったと Bloomberg は報じた。Klarna の発表が、AI がコールセンター事業を傷つけるという懸念を再燃させたためだという。Teleperformance のような受託企業が売られたことは、影響が発表した企業の社員だけでなく、顧客対応を請け負う会社の働き手にも及びうると市場が見たことを示している。
Klarna 社内では人員が減った。同社が2025年8月に米証券取引委員会(SEC)へ提出した上場申請書類によると、フルタイムの従業員数は次のように推移している。
| 時点 | フルタイムの従業員数 |
|---|---|
| 2022年末 | 約5,527人 |
| 2023年末 | 約4,352人 |
| 2024年末 | 約3,422人 |
| 2025年6月末 | 約3,098人 |
同じ書類は、この減少を、事業で AI を活用して全体の人員を減らし業務効率を高めるという戦略的判断の結果だと説明し、今後も従業員数は減り続ける見込みだと書いている。報道によれば、Klarna は2023年12月に新規採用を凍結し、人員は主に自然退職で減らした。同社の2025年第3四半期決算の発表は、2022年以降に従業員1人あたりの売上高が3倍になったとしている。
「700人分」はどう測られたのか
SEC への書類は、数字の根拠をもう少し詳しく書いている。AI アシスタントは2025年6月までの1年間でカスタマーサービスのチャットの69%を処理し、フルタイムの担当者700人超分の仕事をした。この700人分は、AI アシスタント導入後の2024年に、人の担当者が扱ったチャットと電話の会話が月平均でどれだけ減ったかから見積もったものだという。2024年のコスト削減額は約3,900万ドルで、発表時の見込み4,000万ドルとほぼ同じ水準だった。解決時間は AI が平均2分、人の担当者は2024年の平均で12分とされている。
つまり700人分は、実際に700人を解雇したという意味ではなく、人が扱う会話の減少を人数に換算した推計である。外部の独立した検証を受けた数字でもない。
2025年の揺り戻し
2025年5月、Siemiatkowski は Bloomberg のインタビューで方針の修正を語った。Computing の報道によると、彼は「残念ながら、この取り組みを組み立てるときにコストがあまりに支配的な評価基準になっていたようだ。その結果、品質が下がった」("Cost, unfortunately, seems to have been a too predominant evaluation factor when organising this. What you end up having is lower quality.")と述べ、「人によるサポートの品質に本気で投資することが、私たちにとっての未来だ」("Really investing in the quality of the human support is the way of the future for us.")と語った。Klarna は学生や地方在住者、熱心な利用者などを対象に、完全リモートの顧客対応要員の募集を始めたと報じられた。
一方で、これは AI をやめたという意味ではない。Klarna は自然退職による人員削減の方針を続け、新しい担当者は外部委託部門向けにフリーランスとして採用していると説明した。顧客はまず AI アシスタントに案内され、必要に応じて人に引き継がれる。「人か AI か」ではなく、AI を前段に置いたうえで人をどこに残すかが問われた形である。
研究が示すもう一つの可能性
カスタマーサポートは、生成 AI の効果が最も早く測られた職種でもある。Erik Brynjolfsson、Danielle Li、Lindsey Raymond は、ある企業で5,179人のカスタマーサポート担当者に生成 AI の会話支援ツールを段階的に導入した結果を分析し、1時間あたりに解決した件数が平均で14%、新人や技能の低い担当者では34%増えた一方、経験を積んだ担当者への効果は小さかったと報告した。AI が人を置き換えるのではなく、人を支える使い方でも生産性は上がるという結果である。
Klarna の事例は、AI に任せる範囲を広げるほどコストは下がるが、どこかで品質との釣り合いが問われることを示した。若い働き手の雇用にどんな変化が起きているのかを実際のデータで調べた研究は「炭鉱のカナリア」論文のページに、AI と雇用をめぐる出来事の流れは AI と社会の年表 にまとめている。
よくある質問
- Klarna の AI アシスタントは本当に700人分の仕事をしたのですか。
- 700人分は Klarna 自身の推計です。SEC への提出書類では、AI アシスタントの導入後に2024年の各月で人の担当者が扱ったチャットと電話の会話が平均でどれだけ減ったかから見積もった数字だと説明しています。外部の監査を受けた数字ではありません。
- Klarna は AI のために社員を解雇したのですか。
- Klarna の従業員は2022年末の5,527人から2025年6月末の3,098人に減りました。同社はこれを AI を活用した人員削減の戦略的判断だと説明し、報道では2023年12月からの採用凍結と自然退職で減らしたとされています。
- Klarna は AI をやめて人に戻したのですか。
- やめてはいません。2025年5月に CEO はコストを重視しすぎて品質が下がったと認め、人による顧客対応への投資を強めると語りましたが、同社は AI アシスタントをまず使い、必要なら人に引き継ぐ形を続けています。2025年6月までの1年間でも、チャットの69%を AI が処理したとしています。
- Klarna の発表はほかの企業にどんな影響を与えましたか。
- 発表翌日の2024年2月28日、フランスのコールセンター大手 Teleperformance の株価がパリ市場で一時29%下落したと Bloomberg は報じました。AI がコールセンターの仕事を奪うという懸念が再燃したためとされています。
出典
230万件・チャットの3分の2、700人分、顧客満足度は同等、再問い合わせ25%減、11分から2分未満、23市場・35超の言語、2024年に4,000万ドルの利益改善見込み、Siemiatkowski の発言(いずれも Klarna の発表)
一次資料Klarna Group plc — Form F-1/A (Amendment No. 2), filed with the SEC on August 14, 2025
従業員数(2022年末5,527人〜2025年6月末3,098人)と削減理由、2025年6月までの1年でチャットの69%、700人分の見積もり方法、2024年の約3,900万ドルのコスト削減、人の担当者の平均12分
二次資料Meat back on the menu as Klarna rows back on AI — Computing, May 2025
Siemiatkowski の Bloomberg での発言、2023年12月の採用凍結、自然退職による削減の継続、まず AI で受けて人に引き継ぐ方針
一次資料Generative AI at Work — Brynjolfsson, Li and Raymond, NBER Working Paper 31161 (2023)
5,179人のカスタマーサポート担当者で生産性が平均14%、新人・低スキル層で34%向上
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