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IBM の「AI で7,800人分の採用を止める」発言 ── 大企業 CEO が初めて数字で語った AI 代替

2025年3月21日、首相官邸で石破茂首相(中央右)を表敬訪問した IBM の Arvind Krishna CEO(中央左)ら一行
出典首相官邸 / Prime Minister's Office of Japan (Wikimedia Commons) · CC BY 4.0 · Commons で見る ↗

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日付
年代
2020s
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T1
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2023年5月1日、IBM の CEO Arvind Krishna は Bloomberg のインタビューで、人事などバックオフィス部門の採用を停止または減速させる見通しを語った。顧客に接しない職務はおよそ2万6,000あり、Krishna はそのうち「30%が5年のあいだに AI と自動化に置き換わることは容易に想像できる」("could easily see 30% of that getting replaced by AI and automation over a five-year period")と述べた。計算すると約7,800人分になり、「IBM が AI で7,800人分の仕事を置き換える」という見出しが世界に広がった。

これは、生成 AI ブームのさなかに大企業の CEO が、AI に置き換えうる自社の職務の数を具体的に口にした例として注目された。ただし、発言は解雇の発表ではなく、5年がかりの見通しだった。IBM の広報はすぐに、一律の採用停止はしていないと説明している。

何が語られたのか

ワシントン・ポストの報道によると、Krishna は、雇用証明書の発行や部署間の異動手続きのような定型的な業務は完全に自動化できる一方、従業員の生産性評価のような人事の仕事は自動化されにくいと説明した。

項目内容
日付2023年5月1日(Bloomberg のインタビュー)
対象人事などバックオフィス部門の採用
顧客に接しない職務約2万6,000
置き換わりうる割合30%(5年間)
換算した人数約7,800人分
IBM 広報の説明一律の採用停止はしていない。顧客や技術に直接関わらない職の補充には非常に慎重にしている

IBM の広報担当 Adam R. Pratt は声明で、「一律の採用『停止』はしていない」("There is no blanket hiring 'pause' in place")と述べ、顧客や技術に直接関わらない職の補充はきわめて選別的に行っていると説明した。同じ5月1日の夜には、オンライン学習の Chegg の CEO が決算説明会で ChatGPT が新規顧客の伸びを鈍らせていると述べ、翌日の取引開始とともに株価が45%下落したとワシントン・ポストは伝えている。生成 AI が雇用や事業を揺さぶるという話が、具体的な数字とともに語られ始めた週だった。

2年後に起きたこと

Krishna は2025年5月、Wall Street Journal のインタビューで、AI と AI エージェントが人事部門の数百人分の仕事を担うようになったと語った。同時に、自動化で浮いた資金をソフトウェア開発や営業・マーケティングに回したため、総雇用はむしろ増えたと説明している。GIGAZINE などの報道によれば、Krishna は採用を増やした分野を、批判的思考や人とのやり取りが要る仕事だと位置づけた。

IBM 自身の事例紹介は、人事向けの AI エージェント AskHR について次の数字を挙げている。いずれも IBM の発表である。

指標(IBM の発表)値
2024年の従業員とのやり取り1,150万件超
よくある質問をその場で完結させた割合94%
2016年以降の問い合わせチケットの減少75%
過去4年の人事チームの運用コスト削減への寄与40%
自動化しているタスク約80

IBM は AskHR を、AI が定型的な問い合わせを受け持ち、人の担当者が複雑な案件を受け持つ二層体制だと説明している。AskHR の自動化対象には、従業員向けのレター作成や休暇申請、給与情報へのアクセスなどが含まれている。

従業員数の推移

IBM の開示によると、IBM と完全子会社の従業員数は次のとおりである。

年末従業員数(IBM と完全子会社)
2023年28万2,200人
2024年27万300人
2025年26万4,300人

数字は減っているが、人数の増減には AI 以外の要因も含まれうるため、ここから AI だけの影響を取り出すことはできない。Krishna の「総雇用は増えた」という発言とも範囲や時点が一致しない。2025年11月には、IBM が第4四半期に全世界の従業員の「一桁台前半の割合」に影響する人員削減を行うと Fortune などが報じた。同社は、米国の人員は新規採用と合わせてほぼ横ばいになるとしている。その直前、Krishna は CNN に、今後12か月は過去数年より多くの新卒を採用するだろうと語り、自動化による削減はあっても差し引きではプラスだと述べていた。

若手の採用を増やすという判断

2026年2月には、IBM が2026年に米国での新卒・未経験層の採用を3倍にすると Bloomberg が報じた。最高人事責任者の Nickle LaMoreaux はニューヨークの会議で、若手向けの職務内容を書き直したと述べ、「そう、AI ができると言われているまさにその仕事のための採用だ」("And yes, it's for all these jobs that we're being told AI can do")と語った。新卒採用を削れば短期的には節約になるが、将来の管理職が足りなくなり、競合から高い費用で中堅を引き抜くことになる、というのがその理由だった。

2023年に「AI で置き換えうる職務」の数字を示した会社が、3年後には AI ができると言われる仕事のために若手を採ると説明している。AI が若い働き手の雇用に与えている影響を実際のデータで調べた研究は「炭鉱のカナリア」論文のページにまとめた。

この発言が残したもの

Krishna の2023年の発言は、AI による省力化が「解雇」ではなく「採用しないこと」として表れうることを、早い段階で示した。退職者の後任を補充しない、職務を書き換える、浮いた資金を別の部門に回す ── 企業内で起きる変化の多くは、失業統計には直接表れない。

IBM は人工知能の分野で長い歴史を持つ会社でもある。2011年にクイズ番組で人間に勝った Watson は医療への応用を目指したが、その医療部門は2022年に売却された(Watson Health の売却)。生成 AI の時代に IBM が自社の人事部門を最初の実験台にしたことは、AI を売る会社がまず自分の仕事で効果を示そうとした例としても読める。同じ時期の大手テック企業の人員削減については 2023年のテック業界人員削減 を、AI と雇用をめぐる出来事の流れは AI と社会の年表 を参照してほしい。

よくある質問

IBM は AI のために7,800人を解雇したのですか。
いいえ。7,800は、顧客に接しない約2万6,000職のうち30%が5年で AI と自動化に置き換わりうるという Krishna の見通しから計算された数字で、解雇の発表ではありません。IBM の広報は一律の採用停止はしていないと述べました。
その後、IBM で AI はどれだけ人の仕事を置き換えたのですか。
2025年5月、Krishna は Wall Street Journal に、AI が人事の数百人分の仕事を担うようになったと語りました。IBM の事例紹介によると、人事向け AI エージェント AskHR は2024年に1,150万件超のやり取りを処理し、よくある質問の94%をその場で完結させたとしています。
IBM の従業員数は減ったのですか。
IBM の開示では、完全子会社を含む従業員数は2023年末28万2,200人、2024年末27万300人、2025年末26万4,300人です。一方 Krishna は2025年5月に総雇用は増えたと語っており、数字の範囲や時期の違いもあって、AI の影響だけを取り出すことはできません。
IBM は若手の採用を減らしたのですか。
2026年2月、IBM が2026年に米国での新卒・未経験層の採用を3倍にすると報じられました。最高人事責任者の Nickle LaMoreaux は、AI が担えると言われる仕事も含め、職務内容を書き直したうえでの採用だと説明しています。

出典

  1. 二次資料IBM to Pause Hiring for Jobs That AI Could Do — Bloomberg, May 1, 2023

    元のインタビュー記事(購読者向け)

    取得日: 2026-10-18

  2. 二次資料IBM Could Replace 7,800 Jobs With Artificial Intelligence, CEO Says — The Washington Post (via Data Center Knowledge), May 3, 2023

    2万6,000職と30%の発言、雇用証明書の発行などの自動化例、IBM 広報 Adam R. Pratt の声明

    取得日: 2026-10-18

  3. 一次資料Transforming HR support with agentic AI (IBM AskHR case study) — IBM

    AskHR の94%(よくある質問の完結率)、2024年に1,150万件超、4年で人事チームの運用コスト40%減、人が複雑な案件を受け持つ二層体制(いずれも IBM の発表)

    取得日: 2026-10-18

  4. 二次資料IBM CEO Arvind Krishna promised Gen Z he would hire more grads — but days later, he's laying off thousands — Fortune, Nov 5, 2025

    第4四半期の人員削減は全世界の従業員の「一桁台前半の割合」、米国の人員は採用と合わせてほぼ横ばい、Krishna の CNN での発言

    取得日: 2026-10-18

  5. 二次資料IBM to triple entry-level hiring in US — Computing, February 2026

    取得日: 2026-10-18

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