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ハリウッドの二重ストライキ ── 脚本家と俳優が AI の使い方を契約に書かせた

2023年、ハリウッドでは脚本家と俳優が相次いでストライキに入り、生成 AI をどう使うかが労使交渉の正式な議題になった。脚本家組合 WGA(Writers Guild of America)のストライキは5月2日から9月27日まで、俳優組合 SAG-AFTRA のストライキは7月14日から11月9日まで続いた。WGA は2023年9月24日に制作会社側の団体 AMPTP と暫定合意に達し、「AI は脚本を書くことも書き直すこともできない」という規定を労働協約に入れた。このページの日付はその暫定合意の日である。AI の条項が初めて労使で合意されたのがこの日であり、批准(10月9日)はその追認だったからだ。
なぜ AI が争点になったのか
ChatGPT の公開から半年足らずの2023年5月1日、WGA は交渉の到達点を表にして組合員に示した。AI の欄にある WGA の要求は3つで、AI に脚本を書かせたり書き直させたりしないこと、AI 生成物を原作として扱わないこと、組合の契約の対象となる作品を AI の学習に使わないこと、だった。これに対する AMPTP の回答は、要求を拒否したうえで、技術の進歩について話し合う年1回の会合を設けるというものだった。
同じ日、WGA は交渉決裂を組合員に伝える文書で、会社側が週ごとの雇用保障や脚本家の無償労働の問題と並んで、すべての脚本家に関わる AI の問題でも「門前払い(stonewalling)」を続けたと書いている。争点の中心は賃金、配信の二次使用料、雇用条件で、AI はその1つだった。原作扱いをめぐる要求は、AI の生成物を「原作」に仕立てて脚本家のクレジットや権利を弱めることを防ぐためのものである。
脚本家の合意 ── 4つの規定
148日のストライキののち、9月24日に WGA は暫定合意を発表し、26日に合意内容を公開した。ストライキは9月27日午前0時1分(太平洋時間)に終わり、批准投票は10月2日から9日まで行われた。有効票8,525のうち賛成8,435、反対90で、賛成は99%だった。契約期間は2023年9月25日から2026年5月1日まで。
WGA の要約によれば、AI について合意したのは次の4点である。
| 規定 | 意味 |
|---|---|
| AI は脚本を書くことも書き直すこともできない。AI 生成物は原作とみなさない | AI の生成物を使って脚本家のクレジットや権利を損なうことはできない |
| 会社の同意があれば脚本家は AI を使えるが、会社は使用を強制できない | 例として ChatGPT が挙げられている |
| 会社は、渡す資料が AI 生成物またはそれを含む場合に開示しなければならない | 知らないうちに AI の下書きを手直しさせられることを防ぐ |
| 組合の作品を AI の学習に使うことが契約や法律で禁じられていると主張する権利を、WGA は留保する | 学習については合意できず、争う余地を残した |
5月の要求と比べると、最初の2つはほぼ要求どおり実現した一方、学習の禁止は実現しなかった。WGA が勝ち取ったのは「AI を使ってはならない」ではなく、「AI を使っても脚本家の地位は下がらない」という形の保護である。
俳優の合意 ── デジタルレプリカと同意
俳優の側では、問題はより直接的だった。顔や声をスキャンして作るデジタルレプリカが、本人の出演なしに使われうるからである。英語版 Wikipedia がまとめた報道によれば、SAG-AFTRA の首席交渉官 Duncan Crabtree-Ireland は、制作会社がエキストラを1日分の報酬でスキャンし、その肖像を無期限に使える案を示したと主張し、AMPTP はレプリカの使用はそのために作った作品に限られ、それ以外の使用には同意と追加の報酬が必要だと反論した。
SAG-AFTRA は7月14日にストライキに入り、11月8日に暫定合意、11月9日にストライキを終えた。12月5日の批准投票では賛成78.33%、投票率38.15%だった。法律事務所 DLA Piper と Authors Guild の解説によると、AI に関する主な内容は次のとおりである。
- 撮影の中で本人が参加して作る「雇用ベースのデジタルレプリカ」と、既存の素材などから作る「独立して作成されたデジタルレプリカ」を区別する
- いずれも、明確で目立つ形の同意と、使途のある程度具体的な説明を必要とする
- 同意は、別段の定めがない限り本人の死後も有効で、死後に同意が必要な場合は代理人が与える
- 特定の俳優に基づかない「合成パフォーマー」を使う場合、制作会社は組合に通知し、報酬などについて交渉に応じる
- 俳優の演技を AI の学習に使うことは禁じられておらず、学習の対価については定期的に協議することが約束されるにとどまった
この合意には組合の内側から異論が出た。NPR によれば、交渉委員の1人 Shaan Sharma は反対票を呼びかけ、「抜け穴が多すぎて、実のところ保護になっていない」と述べた。Crabtree-Ireland は、会社側が交渉開始時には決して同意しないと言っていたことに同意させたと語り、さらなる AI の保護は次の契約で交渉しうるとした。
誰が何を得たのか
脚本家と俳優は、AI の導入そのものを止めたわけではない。得たのは、AI を使うかどうかを本人が選べること、使われたことを知らされること、そして肖像や声の複製に本人の同意が要ることである。書籍の著者団体 Authors Guild も、俳優の合意を重要な AI の安全策として紹介する解説を出している。
残った課題は学習である。脚本家の作品も俳優の演技も、学習への利用は契約で禁じられなかった。学習を誰がどう許諾し、誰に対価が払われるべきかは、New York Times 対 OpenAI や Bartz 対 Anthropic のような裁判で争われることになる。
2026年の改定
3年後の改定で、両組合は AI の条項を上積みした。WGA と AMPTP が2026年4月4日に結んだ合意書の第15項は、会社が年2回以上組合と生成 AI の利用について協議すること、そして会社が組合の対象作品を外部の一般向け生成 AI の学習用に有償でライセンスする場合(「GAI ライセンス」)には組合に書面で通知し、求めがあれば報酬を含めて協議することを定めた。この契約は2026年4月24日に賛成90.38%で批准され、期間は2026年5月2日から2030年5月1日までである。
SAG-AFTRA の新しい映画・テレビ契約は2026年6月4日締め切りの投票で賛成91.42%で批准され、それまでのデジタルレプリカの保護を土台に、合成パフォーマーの使用をさらに制限する規定を加えた。ゲームの分野でも SAG-AFTRA は2024年7月から AI レプリカの同意と報酬をめぐってストライキを行い、2025年6月の暫定合意ののち、新契約を95%を超える賛成で批准している。
よくある質問
- 2023年の脚本家ストライキはいつからいつまでですか。
- WGA のストライキは2023年5月2日に始まり、9月24日の暫定合意を経て、9月27日午前0時1分(太平洋時間)に終わりました。WGA はストライキの期間を148日としています。合意は10月9日に批准されました。
- 脚本家の契約で AI について何が決まったのですか。
- AI は脚本を書くことも書き直すこともできず、AI 生成物は原作とみなされないため、脚本家のクレジットや権利を損なう材料に使えません。脚本家は会社の同意があれば AI を使えますが、会社が使用を強制することはできず、AI 生成物を渡すときは開示が必要です。学習への利用については組合が権利を留保しました。
- 俳優組合 SAG-AFTRA は何を得たのですか。
- 撮影の中で作るデジタルレプリカと、それ以外の素材から作るデジタルレプリカを区別し、どちらも明確な同意と、使途のある程度具体的な説明を求める規定です。実在の俳優に基づかない合成パフォーマーを使う場合は組合への通知が必要になりました。契約は2023年12月5日に78.33%の賛成で批准されています。
- その後、AI の規定は変わりましたか。
- 2026年の改定で上積みされました。WGA の新契約(2026年4月24日批准)は、会社が脚本を外部の生成 AI の学習用にライセンスする場合の組合への通知と協議を定め、SAG-AFTRA の新契約(2026年6月批准)は合成パフォーマーの使用をさらに制限しました。
出典
一次資料Summary of the 2023 WGA MBA — Writers Guild of America
第5項「Artificial Intelligence」の4つの規定
一次資料WGA Negotiations—Status as of May 1, 2023 — Writers Guild of America (PDF)
WGA の AI 提案と、技術の進歩を話し合う年1回の会合という AMPTP の対案
9月27日午前0時1分(太平洋時間)にストライキ終了、批准投票は10月2〜9日、148日
一次資料2023 MBA Ratified — Writers Guild of America, Oct 9, 2023
有効票8,525のうち賛成8,435・反対90、契約期間2023年9月25日〜2026年5月1日
二次資料Inside the SAG-AFTRA collective bargaining agreement — DLA Piper, Dec 20, 2023
雇用ベースと独立作成のデジタルレプリカ、合成パフォーマーの通知、学習利用は禁止されていないこと
「clear and conspicuous」な同意と「reasonably specific description」、死後の同意
賛成78.33%・投票率38.15%、118日、Crabtree-Ireland と Shaan Sharma の発言
第15項「Generative Artificial Intelligence」。年2回の協議、GAI ライセンスの通知
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