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GPS ── 軍の測位衛星が民間に精度を開いた日

メタデータ
- 日付
- 年代
- 2000s
- Tier
- T1
- 参照年表
- 半導体・ハードウェアの歴史
- 出典数
- 13
- 関連項目
- 00
- Tags
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GPS(Global Positioning System、全地球測位システム) は、米国が保有し、米宇宙軍が運用する衛星測位システムである。上空の衛星が送る信号を受信機が受け取り、自分の位置と時刻を計算する。民間の利用は1978年の最初の衛星群のころから限定的に始まっていたが、民間向けの信号には精度を意図的に落とす 選択利用性(SA) がかけられていた。2000年5月1日、クリントン大統領はその夜の0時から SA を止めると発表し、民間の GPS は最大10倍の精度で位置を示せるようになった。
| 年月日 | 出来事 |
|---|---|
| 1973年 | 統合計画室(JPO)が GPS の構成を決め、試作に着手 |
| 1978年2月22日 | 最初の Navstar 衛星を打ち上げ |
| 1983年9月16日 | 大韓航空機撃墜を受け、米政府が民間航空機への提供を表明 |
| 1989年2月14日 | 運用型の Block II 初号機を打ち上げ |
| 1993年12月8日 | 初期運用能力(IOC)を宣言 |
| 1995年4月27日 | 完全運用能力(FOC)を宣言 |
| 2000年5月1日 | クリントン大統領が SA の停止を発表(停止は翌2日0時過ぎ、米東部夏時間) |
| 2007年9月 | SA 機能のない GPS III の調達を発表 |
| 2018年11月1日 | 日本の準天頂衛星システム「みちびき」が4機体制でサービス開始 |
衛星と受信機の3つの部分
GPS.gov によると、GPS は宇宙部分・管制部分・利用者部分の3つで成り立つ。宇宙部分は、現在位置と時刻を一方向に送り続ける衛星群である。米国は運用衛星24機を95%の時間で確保すると約束しており、衛星は高度約2万200km の中軌道を1日に2周する。6つの軌道面にそれぞれ4つの枠があり、この配置で地球上のほぼどこからでも4機以上が見える。GPS.gov によると、2023年7月3日時点で運用中の衛星は31機だった。
管制部分は世界各地の監視局と管制局で、衛星の軌道を保ち、衛星の時計を調整する。利用者部分は受信機で、衛星の信号から3次元の位置と時刻を計算する。民間向けのサービスは、世界中で継続して誰でも無料で使える。
1973年の計画から1995年の完全運用まで
ロサンゼルス空軍基地の GPS 局の記事によると、1973年に Bradford Parkinson 大佐(当時)が率いる Navstar GPS の統合計画室が GPS の構成を作り、宇宙からの全地球航法が成り立つことを示す試作に取りかかった。空軍歴史財団によると、最初の Navstar 衛星は1978年2月22日、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地から Atlas F ロケットで打ち上げられ、3月31日に運用に入った。
同じ空軍の記事は、1978年に最初の4機の開発用 Block I 衛星がそろった時点で、GPS が軍と民間の利用者に、限定的ながら世界規模で3次元の位置と時刻を提供し始めたとしている。残る7機の Block I は1985年までに打ち上げられた。運用型の Block II の初号機は1989年2月14日に打ち上げられ、1993年12月8日、Block I と Block II/IIA を合わせて24機がそろったところで空軍宇宙軍団が初期運用能力(IOC)を宣言した。1995年4月27日には、24機の Block II/IIA が所定の軌道にそろったとして完全運用能力(FOC)を宣言している。
1983年、大韓航空機撃墜のあとで
米国務省の歴史記録によると、1983年9月1日、サハリン付近でソ連の領空に誤って入った大韓航空007便がソ連の戦闘機に撃墜され、乗っていた269人全員が死亡した。9月16日、ホワイトハウスの Larry Speakes 副報道官が読み上げた声明は、こうした悲劇を繰り返さないための貢献として、GPS が1988年に運用可能になった時点で、その施設を民間航空機に提供する用意があると大統領が決めたと述べた。旅客機は3次元の位置情報を得られるようになる、という内容である。
この声明は、のちに「レーガンが GPS を民間に無料で開放した」と語られることが多い。英語版ウィキペディアもそう要約しているが、声明の文面にあるのは民間航空機への提供と1988年という時期であり、無料という言葉はない。
選択利用性(SA)とは
GPS.gov は、SA を安全保障上の理由で一般向けの GPS 信号の精度を意図的に落とす仕組みと説明している。2000年のホワイトハウスのファクトシートによると、SA がかかっていたころのカーナビは車の位置を100m 程度の範囲でしか示せず、高速道路が並行して走る場所では、どの道路にいるのかを判別しにくかった。
クリントン大統領は1996年3月の大統領決定指令で、2006年までに SA の使用をやめることを約束し、2000年から毎年その継続の是非を評価するとしていた。大統領声明によると、停止の決定は国防長官の勧告を、国務省、運輸省、商務省、中央情報長官などと調整したうえで下された。軍は、安全保障が脅かされたときには地域を限って GPS 信号を妨げる能力を示しており、全世界一律に精度を落とす必要はなくなった、という説明である。
2000年5月1日の発表
2000年5月1日の声明で、クリントン大統領は、一般が使える GPS 信号の意図的な劣化をその夜の0時から止めると発表した。民間の利用者は、それまでの最大10倍の精度で位置を特定できるようになるとした。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表 | 2000年5月1日、大統領声明 |
| 停止の時刻 | 5月1日が終わった数分後(米東部夏時間)、全衛星で同時 |
| 協定世界時 | 5月2日4時05分ごろに全衛星が誤差の付加を停止 |
| 精度 | 大統領声明は最大10倍、ファクトシートは20m 以内かそれ以上を見込む |
| 利用者 | 世界で400万以上(2000年のファクトシート) |
※ 時刻は GPS.gov の FAQ と最初の1週間のデータによる。
ファクトシートは、GPS の市場が3年で80億ドルから160億ドル超へ倍増すると見込んでいた。挙げられた用途はカーナビのほか、携帯電話からの緊急通報で位置を伝える Enhanced 911、登山やキャンプ、釣りなどである。GPS.gov の FAQ によると、既存の受信機は改造なしでそのまま高い精度を得られた。SA は地域ごとにはかけられない仕組みだったため、停止は世界中の利用者に同時に効いた。
米政府は SA を再び使うつもりはないとしている。GPS.gov によると、2007年9月には次世代の GPS III 衛星を SA 機能なしで調達すると発表し、2000年の決定を恒久的なものにした。
位置情報が前提になる時代
精度の上がった GPS は、機器の側に入り込んでいった。2005年の DARPA グランド・チャレンジ を走った自動運転車は屋根に GPS のアンテナを載せ、2008年の iPhone 3G は GPS を内蔵して、地図アプリで現在地を点として追えるようにした。2016年の Pokémon GO は、現実の位置そのものを遊びの舞台にしている。
日本の「みちびき」
衛星測位は米国だけのものではない。内閣府は、日本の衛星測位システム みちびき(準天頂衛星システム、QZSS) を、日本のほぼ真上を通る準天頂軌道の衛星を中心とするシステムと説明し、「日本版GPS」と呼ばれることもあるとしている。GPS 衛星は都市部や山間部ではビルや木に遮られて見える数が減るため、みちびきはそれを補う。
三菱電機によると、初号機は2010年9月11日に H-IIA ロケットで打ち上げられた(2023年9月15日に運用終了)。2017年に2〜4号機が加わって4機体制となり、2018年11月1日から24時間途切れずに GPS を補完・補強するサービスが受けられるようになった。2025年2月2日には6号機が打ち上げられたが、2025年12月22日に打ち上げた5号機は、H3 ロケット8号機の第2段エンジンの不具合で軌道に投入できなかった。7号機の打ち上げ時期は未定とされている。
機器の流れは 半導体・ハードウェアの年表 を参照。
よくある質問
- GPS はいつから民間で使えるようになったのですか。
- 空軍の解説によると、1978年に最初の4機の Block I 衛星が打ち上げられた時点で、軍と民間の利用者に限定的ながら世界規模でサービスを始めました。1983年には民間航空機にも使わせると米政府が表明しています。ただし民間向けの信号は精度を落とされており、それが止まったのは2000年5月2日の未明(米東部夏時間)です。
- 選択利用性(SA)とは何ですか。
- 安全保障上の理由で、一般向けの GPS 信号の精度を意図的に落とす仕組みです。2000年5月にクリントン大統領の指示で止められ、米政府は再び使うつもりはないとしています。2007年9月には SA 機能を持たない GPS III 衛星を調達すると発表しました。
- GPS 衛星は何機ありますか。
- 米国は24機の運用衛星を95%の時間で維持すると約束しています。GPS.gov によると、2023年7月3日時点で運用中の衛星は31機でした。高度約2万200km の中軌道を、1日に2周しています。
- みちびきと GPS はどう違うのですか。
- みちびき(準天頂衛星システム、QZSS)は日本の衛星測位システムで、日本のほぼ真上を通る軌道の衛星を中心に、GPS と組み合わせて使います。内閣府は、ビルや山で GPS 衛星が見えにくい場所でも安定して測位できるよう補う役割を挙げています。4機体制のサービスは2018年11月1日に始まりました。
出典
その夜0時からの SA 停止、最大10倍の精度、1996年3月の大統領決定指令と2006年までの停止の約束
一次資料Improving the Civilian Global Positioning System (GPS) — White House fact sheet, May 1, 2000
世界の利用者400万以上、市場80億ドルから3年で160億ドル超の見込み、カーナビ・E911・登山などの効果
一次資料Selective Availability — GPS.gov
SA の定義、2000年5月の停止、2007年9月の GPS III の SA なし調達の決定
一次資料Frequently Asked Questions About Selective Availability — GPS.gov
5月1日が終わった直後(米東部夏時間)に全衛星で同時に停止、地域ごとにはかけられない
一次資料Data From the First Week Without Selective Availability — GPS.gov
2000年5月2日の協定世界時4時05分ごろに全衛星が誤差の付加を停止
24機を95%の時間で維持する約束、2023年7月3日時点で運用31機、高度約2万200km、6つの軌道面
1973年の統合計画室と Parkinson、1978年からの限定的なサービス、1989年2月14日の Block II 初号機、1993年12月8日の IOC、1995年4月27日の FOC
二次資料February 22, 1978 — Air Force Historical Foundation
ヴァンデンバーグ基地から Atlas F で NAVSTAR 1 を打ち上げ、3月31日に運用開始
1988年の運用開始時に GPS を民間航空機に提供する用意があるとの声明
1983年9月1日、ソ連の戦闘機が大韓航空007便を撃墜し269人全員が死亡
一次資料準天頂衛星システム「みちびき」(QZSS) — 三菱電機 宇宙システム
初号機2010年9月11日打ち上げ(2023年9月15日運用終了)、2〜4号機と初号機後継機、2018年11月1日からのサービス、6号機2025年2月2日、5号機2025年12月22日の打ち上げ失敗
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