T1#standard#research#consumer
MP3 ── 規格番号が「.mp3」という名前を得た日
メタデータ
- 日付
- 年代
- 1990s
- Tier
- T1
- 参照年表
- インターネットとWebの歴史
- 出典数
- 05
- 関連項目
- 00
- Tags
- #standard#research#consumer
MP3 は、国際規格 MPEG-1 Audio Layer III で圧縮した音声ファイルの通称である。名前が決まったのは1995年7月14日。開発の中心だったドイツのフラウンホーファー集積回路研究所(IIS)は、所内アンケートの結果を受け、この日のメールで ISO MPEG Audio Layer 3 の拡張子を .mp3 と定めた。方式そのものの技術開発は1991年12月に終わり、規格は1993年8月に ISO/IEC 11172-3 として発行されている。拡張子が付いたのは規格の後で、ファイルとしての MP3 はここから広まった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名 | MPEG-1 Audio Layer III |
| 開発の中心 | フラウンホーファー IIS、エアランゲン=ニュルンベルク大学 |
| 元になった方式 | ASPEC(ハノーファー大学、AT&T、トムソンも寄与) |
| 技術開発の完了 | 1991年12月 |
| 規格の発行 | 1993年8月(ISO/IEC 11172-3) |
| 拡張子「.mp3」の決定 | 1995年7月14日 |
| ライセンスプログラムの終了 | 2017年4月23日(Technicolor・フラウンホーファー) |
※ 開発の経緯はフラウンホーファーの「The mp3 History」、規格の発行は ISO、命名は2005年のフラウンホーファーのプレスリリースによる。
電話回線で音楽を送るという問題
フラウンホーファーの年表によると、出発点は1970年代初め、エアランゲン=ニュルンベルク大学の Dieter Seitzer 教授が取り組んだ、電話回線で音声を高品質に送るという課題だった。1970年代末に ISDN や光ファイバーが登場して音声の符号化の重要性が下がると、Seitzer のチームは音楽の符号化に研究を移す。
その中で、学生だった Karlheinz Brandenburg が聴覚心理学の知見を符号化に取り入れ始めた。人の耳に聞こえにくい成分を削って情報量を減らすという考え方で、Brandenburg は1988年、のちの MP3 の特徴の多くを備えた方式「OCF(Optimum Coding in the Frequency Domain)」で博士論文をまとめた。1987年には大学とフラウンホーファー IIS が、欧州のデジタル音声放送(DAB)計画 EUREKA EU147 の枠組みで研究提携を結んでいる。
MPEG の3つの Layer
国際標準化機構(ISO)のもとに動画と音声の圧縮規格をつくる作業部会 MPEG ができたのは1988年である。フラウンホーファーと提携先は、OCF を改良し、ハノーファー大学、AT&T、トムソンの寄与を加えた「ASPEC」を MPEG の音声規格に提案した。
フラウンホーファーによると、MPEG には音声符号化の提案が全部で14件集まり、ASPEC や MUSICAM を含む4件に統合された。試験の末、MPEG は3つの方式を1つの系列にまとめる。Layer 1 は MUSICAM の簡易版、Layer 2 は MUSICAM の最適化版、そして Layer 3 が ASPEC を元にした方式である。計算量が少ない Layer 2 はデジタル音声放送に選ばれ、最も効率が高いが重い Layer 3 は、ISDN の電話回線で高音質の音声を送る用途の要になった。1991年12月に MPEG-1 の技術開発が終わり、Layer 3 は1サンプルあたり2ビット未満で CD に近い音質を出せるとされた。
MPEG-1 の規格は1993年8月に ISO/IEC 11172 の第1版として発行された。音声の部分は ISO/IEC 11172-3 である。フラウンホーファーは、3方式のうち最も効率の高い Layer 3 が、容量の小さいパソコンのハードディスクに音楽を保存したり、28.8kbps のモデムで音楽ファイルを送ったりする手段として広まったと書いている。
1995年7月14日のメール
2005年にフラウンホーファーが出したプレスリリース「MP3 wird 10 Jahre(MP3 は10歳に)」によると、IIS の研究者たちは1995年7月14日、自分たちが開発した圧縮方式のファイル拡張子として「.mp3」を選んだ。名前は所内アンケートで決まり、同日付の Jürgen Zeller のメールで、回答者の圧倒的多数の意見として拡張子を .mp3 とすると告げられた。リリースは、この名前を最大40人のチームによる長年の開発の締めくくりと位置付けている。
同じ1995年、フラウンホーファーはパソコンで動く Layer 3 のコーデックをシェアウェアとして出した。年表によると、翌1996年にはインターネットでのソフト販売を始めたが、オーストラリアの学生が盗んだクレジットカード番号でソフトを購入して公開し、それが世界に広まったという。
ファイルからプレーヤーへ
1998年、フラッシュメモリーに MP3 を保存して持ち歩くプレーヤーが現れる。フラウンホーファーの年表は、米国の Diamond Multimedia「Rio 100」と、韓国の Saehan Information Systems「MPMAN」を挙げている。
Rio は裁判にもなった。2001年の米連邦第9巡回区控訴裁判所の Napster 判決は、1999年の同裁判所の判決を引いて、Rio は利用者のハードディスクにあるファイルを持ち運べるようにする「スペースシフト」のための複製にすぎないとした先例に触れている。そのうえで Napster については、複製が不特定多数への配布を伴う点で事情が違うと判断した。
フラウンホーファーのプレスリリースは、2004年にドイツだけで300万台を超える MP3 プレーヤーが売れたと書いている。2001年1月に Apple が出した iTunes も、CD の曲を MP3 に変換してパソコンに保存する音楽管理ソフトとして始まり、同年の iPod へつながった。
特許とライセンスの終わり
フラウンホーファーの年表によると、フラウンホーファーとトムソンは共同のライセンスプログラムをつくり、規格化直後の1992年から企業が MP3 のライセンスを受け始めた。フラウンホーファーは、この特許収入のうち約6000万ユーロを研究に再投資したとしている。
その仕組みは2017年に終わった。フラウンホーファー IIS は、Technicolor の mp3 ライセンスプログラム(Technicolor とフラウンホーファーの特許とソフトウエアを対象とするもの)が2017年4月23日に終了したと告知している。年表は同じ2017年の項で、プログラムが終わり、それに含まれていた最後の中核特許も切れたと記している。
告知は、より効率の高い方式がある今も MP3 は利用者の間で人気があるとしつつ、ストリーミングや放送の多くは AAC など新しい ISO-MPEG の方式を使っていると書く。2003年に始まった iTunes Music Store も、販売する曲を MP3 ではなく AAC で符号化していた。
ネットワークの流れは インターネットと Web の年表 を参照。
よくある質問
- MP3 はいつできたのですか。
- フラウンホーファーによると、方式の技術開発は1991年12月に終わり、規格は1993年8月に ISO/IEC 11172 として発行されました。「.mp3」という名前は1995年7月14日に決まりました。
- MP3 を開発したのは誰ですか。
- フラウンホーファー集積回路研究所(IIS)がエアランゲン=ニュルンベルク大学の研究を土台に開発し、ハノーファー大学、AT&T、トムソンの寄与も加わった ASPEC が Layer III の元になりました。フラウンホーファーは Karlheinz Brandenburg らの開発チームを挙げています。
- MP3 の特許はもう切れているのですか。
- フラウンホーファーによると、Technicolor のライセンスプログラムは2017年4月23日に終了し、そのプログラムに含まれていた最後の中核特許も2017年に切れました。
出典
一次資料The mp3 History — Fraunhofer IIS
1970年代の Seitzer の研究、1987年の LC-ATC 実時間化、1988年の OCF、1991年の ASPEC と14提案・3つの Layer・12月の技術開発完了、1993年8月の ISO/IEC 11172、1995年の命名とシェアウェア、1996年の盗難クレジットカード事件、1998年の Rio 100 と MPMAN、2017年のライセンス終了と最後の中核特許
一次資料MP3 wird 10 Jahre — Fraunhofer-Gesellschaft, Pressemitteilung via idw, 2005
1995年7月14日の所内アンケートと命名メール(Jürgen Zeller)、最大40人のチーム、2004年のドイツでの300万台超
2017年4月23日の Technicolor の mp3 ライセンスプログラム終了、1980年代後半の開発開始、AAC など後継方式
一次資料ISO/IEC 11172-3:1993 — ISO
MPEG-1 第3部(音声)の第1版、1993年8月発行
一次資料A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001)
1999年の RIAA 対 Diamond Multimedia 判決(Rio)の引用と、MP3 への変換で音質がわずかに落ちるという認定
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