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IDx-DR ── 医師の読影なしで判定を出す AI を FDA が認める

IDx-DR は、糖尿病の人の眼底写真を AI で解析し、軽度を超える糖尿病網膜症があるかどうかを判定するソフトウェアである。米食品医薬品局(FDA)は2018年4月11日、その販売を認めた。FDA の発表は IDx-DR を、人工知能を使って一定以上の糖尿病網膜症を検出する最初の医療機器であり、臨床医が画像や結果を読まなくてもスクリーニング判定を出す最初の承認機器だと説明している。AI が医師の代わりに診断した最初の例として語られることが多い出来事だが、FDA 自身の言葉は上のとおり限定がついている。「あらゆる医療分野で FDA が認めた最初の自律型 AI 診断システム」という表現は、開発者らが同年8月に出した論文のものである。
今回の許可は米国での販売に関するもので、日本での承認を意味しない。同じ2018年の12月には、日本でも大腸内視鏡の画像を解析する EndoBRAIN が薬機法の承認を得ている。
何を判定するソフトウェアか
FDA の説明によると、使い方はこうである。プライマリケアの診療所で、トプコン製の眼底カメラ NW400 を使って患者の網膜を撮影し、その画像を IDx-DR が動くクラウド上のサーバにアップロードする。画像の質が十分なら、ソフトウェアは次の2つのどちらかを返す。
| 判定 | その後の対応(FDA の説明) |
|---|---|
| 軽度を超える糖尿病網膜症を検出 ── 眼科医へ紹介 | できるだけ早く眼科で詳しい診断と、必要なら治療を受ける |
| 軽度を超える糖尿病網膜症は陰性 ── 12か月後に再検査 | 1年後に再びスクリーニング |
FDA が強調したのは「医師が画像を読まなくてよい」点である。これにより、普段は目の診療に関わらない医療者でも使えるようになる。審査は、既存の類似機器がない新規の低〜中リスク機器のための De Novo 経路で行われ、開発の段階では FDA が集中的に助言する Breakthrough Device(画期的医療機器)の指定も受けていた。販売の許可は、アイオワ州の IDx LLC に対して出された。
FDA の眼科・耳鼻科機器部門の責任者 Malvina Eydelman は発表の中で、糖尿病の人の約50%が毎年眼科を受診していないため十分なスクリーニングを受けていないと述べ、この決定がプライマリケアの診療所で使える新しい AI 技術の販売を認めるものだと説明した。
試験の規模と結果
開発者の Michael Abràmoff(アイオワ大学)らは2018年8月28日、根拠となった臨床試験の結果を npj Digital Medicine に発表した。網膜症と診断されたことのない糖尿病の成人を、米国10か所のプライマリケア診療所で登録している。比較の基準には、ウィスコンシン大学の眼底写真読影センター(FPRC)の専門撮影者による広角の立体眼底写真と、黄斑部の光干渉断層計(OCT)を使った。
| 項目 | 値 | 出典 |
|---|---|---|
| 登録者 | 900人(10施設) | 論文・FDA |
| 完全に解析できた人 | 819人(92%) | 論文 |
| 軽度を超える網膜症の有病率 | 23.8% | 論文 |
| 感度 | 87.2%(事前目標は85%超) | 論文 |
| 特異度 | 90.7%(事前目標は82.5%超) | 論文 |
| 判定可能率 | 96.1% | 論文 |
| 陽性を正しく判定した割合 | 87.4% | FDA の発表 |
| 陰性を正しく判定した割合 | 89.5% | FDA の発表 |
論文と FDA の数字が少しずれているのは、集計の仕方が違うためと考えられるが、どちらの文書もその理由を説明していない。ここでは両方を出典ごとに並べておく。同時掲載の論説によれば、ソフトウェアは試験の前に固定(ロック)されており、試験中に学習し続けるものではなかった。
論文の著者は、利益相反を開示している。筆頭の Abràmoff は IDx の株主・取締役・従業員で、共著者の1人も IDx の株主だった。
限界 ── FDA と論説が書いたこと
FDA 自身が、使ってはいけない対象をはっきり書いている。レーザー治療・手術・眼内注射を受けたことがある人、視力低下や飛蚊症などの症状がある人、すでに黄斑浮腫や重い網膜症と診断された人、そして妊娠中の人である。妊娠中は網膜症が急速に進むことがあり、IDx-DR はそうした進行を評価する設計ではない。検出するのは糖尿病網膜症(黄斑浮腫を含む)だけで、ほかの病気には使えないとも明記された。
論文と同時に、同じ号には Pearse Keane と Eric Topol の論説が載った。要点は次のとおりである。
- 精度を確かめる試験は、患者が実際に利益を得るか(視力の転帰が保たれるか)を示さない。乳がん検診の CAD(コンピュータ支援検出)は1998年に FDA に承認されて広く使われたが、後の大規模研究は診断精度を改善しないと結論した
- 試験の規模は精度評価としては小さく、感度の信頼区間は目標値をまたいでいる
- 検出できるのは糖尿病網膜症だけで、緑内障や加齢黄斑変性などは見逃しうる。専用カメラ(論説によれば約1万8000ドル)も要る
- 画像を撮る人は依然として必要で、その意味で完全な「自律」とは言えない
論文自身も、緑内障が疑われる視神経乳頭の陥凹拡大など、網膜症以外の所見は今回の試験の対象外だったと書いている。
誰に何が変わったか
この許可が社会に投げかけたのは、診断の「場所」と「担い手」の問題である。FDA が想定したのは、眼科医のいないかかりつけの診療所で撮影し、AI がその場で紹介の要否を決める流れだった。年に一度の眼科受診をしていない糖尿病患者に、ふだん通う診療所で検査を届けるという狙いである。試験でも撮影は各診療所の既存スタッフが標準化された研修を受けて行い、専門の撮影者ではなかった。
裏返せば、それまで眼科医や読影センターが担っていた最初のふるい分けを、ソフトウェアが引き受けることになる。開発者らは論文で、専門医レベルの診断をプライマリケアに持ち込めることを示したと位置づけた。一方で Keane と Topol は、撮影や機器の費用、診療所が実際に導入するかどうかが未知数だとし、後に続く糖尿病網膜症の AI 診断システムの承認では、求められる水準がより高くなるだろうとも予想している。
規制の面では、試験の前に固定したソフトウェアを医療機器として審査するという形が、ここで具体例を得た。一方、病院の電子カルテに組み込まれる予測モデルの多くはこの審査を経ずに広まり、その一つが外部検証で大きく期待を下回った例は Epic の敗血症予測モデル のページにある。
その後
製品は現在、アイオワ州コーラルビルの Digital Diagnostics が扱っている。同社は2023年3月28日、IDx-DR を LumineticsCore に改名したと発表した。同社は、製品そのものは変わっておらず、改名の理由は旧名の文字が入れ替わりやすく、機械的な印象を与えたためだと説明している。
大規模言語モデルが医師国家試験レベルの問題に答えるようになった後の流れは Med-PaLM に、ランダム化比較試験で AI の検診への効果を確かめた例は MASAI 試験 にある。医療 AI を「高リスク」として扱う規制の動きは EU AI Act のページを、同じ時代の流れは AI の年表 と AI と社会の年表 を参照のこと。画像認識に深層学習が使われるようになった起点は ImageNet と AlexNet にある。
よくある質問
- IDx-DR とは何ですか。
- 糖尿病の成人の眼底写真を AI で解析し、軽度を超える糖尿病網膜症があるかどうかを判定するソフトウェアです。2018年4月11日に米 FDA が販売を認めました。結果は「眼科へ紹介」か「12か月後に再検査」の2通りで、眼科医のいない診療所でも使える設計です。
- 何が「初」だったのですか。
- FDA は、人工知能で一定以上の糖尿病網膜症を検出する最初の医療機器であり、臨床医が画像や結果を読まなくてもスクリーニング判定を出す最初の承認機器だと説明しました。「あらゆる医療分野で最初の自律型 AI 診断システム」という表現は、開発者らの論文によるものです。
- 精度はどのくらいでしたか。
- 10か所のプライマリケア診療所で900人を登録した試験で、論文は感度87.2%・特異度90.7%・判定可能率96.1%と報告しました。FDA の発表では、陽性を正しく判定した割合が87.4%、陰性を正しく判定した割合が89.5%とされています。
- どんな限界が指摘されましたか。
- FDA は妊娠中の人や網膜症の治療歴がある人には使わないよう定め、検出対象は糖尿病網膜症に限られます。同時掲載の論説は、精度の試験では患者の転帰が良くなるかは分からないこと、撮影する人は依然として必要なことなどを指摘しました。
出典
販売許可の発表。De Novo 経路、Breakthrough Device 指定、2通りの判定、900人・10施設、87.4%と89.5%、使用対象外の条件、Eydelman のコメント。FDA サイト上の元 URL は2026年10月時点で404のためアーカイブ版を参照
900人登録・819人を完全解析、感度87.2%・特異度90.7%・判定可能率96.1%、事前設定の目標値、開発者の利益相反の開示
同時掲載の論説。転帰を示す試験の必要性、対象疾患の狭さ、撮影者が要るという意味での「自律」の限界
IDx-DR から LumineticsCore への改名
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