T1#research
スーパーコンピュータ「富岳」 ── Arm で取った世界一

メタデータ
- 日付
- 年代
- 2020s
- Tier
- T1
- 参照年表
- 半導体・ハードウェアの歴史
- 出典数
- 10
- 関連項目
- 02
- Tags
- #research
スーパーコンピュータ 「富岳(ふがく)」 は、理化学研究所(理研)と富士通が 「京」 の後継として2014年から開発したスーパーコンピュータである。2020年6月22日(日本時間)、オンラインで開かれた国際会議 ISC2020 で世界ランキングが発表され、「富岳」は TOP500・HPCG・HPL-AI・Graph500 の4つすべてで1位を獲得した。TOP500 の LINPACK 性能は415.5ペタフロップスで、2位の米国 Summit の2.8倍だった。
このとき「富岳」はまだ完成しておらず、共用も始まっていない。完成と共用開始は2021年3月9日である。「世界一になった日」と「使えるようになった日」が9か月ずれている点は、日付を調べる読者が最初に押さえておきたい。
4つのランキング
TOP500 は大規模な連立一次方程式を解く LINPACK の速さで順位をつけるリストである。HPCG(High Performance Conjugate Gradient)、HPL-AI、Graph500 の3つは、それぞれ LINPACK とは別の種類の計算で性能を測る。理研は、4つすべてでの1位を「富岳」の総合的な性能の高さを示すものだと説明した。
| 項目 | 2020年6月の値 |
|---|---|
| TOP500(LINPACK) | 415.5ペタフロップスで1位(2位 Summit は148.8ペタフロップス) |
| 理論ピーク性能 | 513.85ペタフロップス |
| コア数 | 7,299,072 |
| プロセッサ | 富士通 A64FX(48コア、2.2GHz) |
| インターコネクト | Tofu インターコネクト D |
| 消費電力 | 28,335kW |
| 4ランキング | TOP500・HPCG・HPL-AI・Graph500 のすべてで1位 |
理研は、TOP500・HPCG・Graph500 で同時に1位をとるのは世界初だと発表している。これは理研自身の説明である。TOP500 は、単精度やさらに低い精度ではピーク性能が1,000ペタフロップス(1エクサフロップス)を超えると書いている。
Arm で動いた初めての首位
TOP500 によれば、「富岳」は Arm プロセッサで動く初めての首位システムである。先代の「京」は富士通の SPARC64 VIIIfx を使っていたが、「富岳」で富士通は命令セットを Arm に切り替え、48コアの A64FX を自社で設計した。Arm はスマートフォンで主流になったアーキテクチャで(Arm アーキテクチャ、ARM と x86)、スーパーコンピュータの頂点に立ったのはこれが最初だった。
共用開始時、理研の松本紘理事長は、世界トップの性能と Arm アーキテクチャによる汎用性を武器に、活躍の場を広げたいと述べている。前世代の「京」が、GPU などの加速器を使わない構成で首位をとったのと同じく、「富岳」も GPU を使わず CPU だけで首位に立った。
完成前からの新型コロナ対策
「富岳」の筐体の搬入が終わったのは2020年5月で、理研は完成前の2020年4月から、新型コロナウイルス対策などのために計算資源を試行的に提供した。そのなかで広く知られたのが、理研計算科学研究センターのチームリーダーで神戸大学教授の坪倉誠らによる「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」である。
PC Watch の2020年8月の報道によると、チームは「富岳」に実装した熱流体解析ソフト CUBE で、咳や会話による飛沫とエアロゾルの広がりをシミュレーションした。
- 市販の不織布マスクは50ミクロンより大きな飛沫を完全に抑え、ポリエステル相当の布マスクは9割以上、綿相当は8割程度を抑えた
- 頬と鼻に隙間があっても、マスクは体積比で8割の飛沫を抑えるとされた
- オフィスのパーティションは、高さ1.2mでは飛沫を防ぐのに不十分で、1.4m以上にすると換気の悪い場所が局所的にできやすくなるとされた
結果は動画で公開され、マスクや換気をめぐる議論に使われた。理研は2021年3月の発表で、この研究などが人々の生活様式の変容を促していると書いている。
完成と共用、そして首位を譲るまで
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2014年 | 理研と富士通が開発に着手(ポスト「京」) |
| 2019年8月30日 | 「京」がシャットダウン |
| 2020年4月 | 新型コロナ対策などで試行的な利用を開始 |
| 2020年5月 | 全筐体の搬入を完了 |
| 2020年6月22日 | 4つのランキングで1位 |
| 2020年11月 | 2期連続で4つのランキングの1位 |
| 2021年3月9日 | 完成し、共用を開始 |
| 2021年11月 | TOP500 で4期連続の首位(442ペタフロップス) |
| 2022年6月 | 米国の Frontier が1.102エクサフロップスで1位に |
| 2025年8月22日 | 後継機「富岳NEXT」の開発体制を発表 |
共用開始の時点で、理研は「富岳」のアプリケーション実効性能を最大で「京」の100倍とし、創薬、気象、地震・津波、材料など幅広い分野での利用を見込んだ。TOP500 の首位は2021年11月まで4期連続で守り、2022年6月に米国オークリッジ国立研究所の Frontier に譲った。Frontier は TOP500 で初めて1エクサフロップスを超えたシステムである。2026年6月のリストで「富岳」は442.01ペタフロップスの9位にいる。
後継の「富岳NEXT」
理研は2025年8月22日、富士通と NVIDIA と組んで「富岳NEXT」(開発コードネーム)の設計・開発を始めると発表した。日本のフラッグシップ機として初めて GPU を加速部に採用し、NVIDIA が GPU 基盤の設計を、富士通が全体システムと CPU の基本設計を担う。2030年ごろの稼働と、「富岳」の5倍以上のハードウェア性能を目指すという。
同じ発表で理研は、「京」から「富岳」への世代交代では、ハードウェア性能が約40倍、アプリケーションの高度化で約3倍となり、一部のアプリケーションで目標の100倍を超えたと振り返っている。一方で、半導体の微細化による性能向上が鈍り、ハードウェアだけで大きく性能を伸ばすのは難しくなっているとも書いた。CPU だけで世界一をとった「富岳」の次の世代は、AI の計算需要を受けて GPU を加えることになった。
同じ時代の計算機の出来事は ハードウェアの年表 にある。
よくある質問
- 富岳が世界1位になったのはいつですか。
- 2020年6月22日(日本時間)に ISC2020 で発表されたランキングです。TOP500・HPCG・HPL-AI・Graph500 のすべてで1位を獲得し、TOP500 の LINPACK 性能は415.5ペタフロップスでした。この時点では共用開始前で、完成は2021年3月9日です。
- 富岳はいつまで世界1位でしたか。
- TOP500 では2020年6月、2020年11月、2021年6月、2021年11月の4期連続で首位でした。2022年6月のリストで、米国オークリッジ国立研究所の Frontier が1.102エクサフロップスで1位になりました。2026年6月のリストでは9位です。
- 富岳のプロセッサは何ですか。
- 富士通が開発した48コアの Arm プロセッサ A64FX(2.2GHz)です。ノード間は富士通の Tofu インターコネクト D で結ばれています。TOP500 は、Arm プロセッサで動く初めての首位システムだとしています。先代の「京」は富士通の SPARC64 VIIIfx を使っていました。
- 富岳の後継機はありますか。
- 理研は2025年8月22日、富士通と NVIDIA と組んで「富岳NEXT」(開発コードネーム)の設計・開発を始めると発表しました。日本のフラッグシップ機として初めて GPU を加速部に採用し、2030年ごろの稼働と、富岳の5倍以上のハードウェア性能を目指すとしています。
出典
一次資料スーパーコンピュータ「富岳」TOP500、HPCG、HPL-AI、Graph500において世界第1位を獲得 — 理化学研究所, 2020年6月23日
4つのランキングでの1位、ISC2020 での6月22日付(日本時間6月22日)の発表、TOP500・HPCG・Graph500 の同時1位は世界初という理研の説明
415.5ペタフロップス、Summit の2.8倍、48コア A64FX、Arm で動く初の首位、7,299,072コア、28,335kW
2020年6月から首位を維持、442ペタフロップス
富岳は9位、442.01ペタフロップス、7,630,848コア
一次資料スーパーコンピュータ「富岳」完成、共用開始 — 理化学研究所・高度情報科学技術研究機構・富士通, 2021年3月9日
2014年からの開発、2020年5月の全筐体搬入、2020年4月からの試行的利用、2期連続4冠、2021年3月9日の完成と共用開始、「京」の最大100倍のアプリケーション実効性能
二次資料理研、スパコン富岳で不織布や手作りマスクの飛沫の差を解析 — PC Watch, 2020年8月25日
坪倉誠チームの「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」、CUBE、マスク素材による差、パーティションの高さ
一次資料理化学研究所、富士通およびNVIDIAとの国際連携による「富岳NEXT」開発体制を始動 — 理化学研究所, 2025年8月22日
GPU 採用、2030年ごろの稼働、富岳比5倍以上のハードウェア性能、「京」から「富岳」でハードウェア約40倍・アプリ約3倍
最終更新: