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フレイ&オズボーン「雇用の未来」── 米国の雇用の47%が「高リスク」とされた論文

「AI に仕事を奪われる」という議論の出発点として最もよく引かれる数字が、米国の雇用の47% である。出どころは、オックスフォード大学の経済学者 Carl Benedikt Frey と機械学習研究者 Michael A. Osborne が2013年9月17日付で発表したワーキングペーパー「The Future of Employment: How Susceptible Are Jobs to Computerisation?」(雇用の未来 ── 仕事はどの程度コンピュータ化されやすいか)だ。論文は米国の702職業について、コンピュータに置き換えられる確率を推計し、雇用の約47%が確率0.7以上の「高リスク」区分に入るとした。
ただし、この数字は「47%の人が失業する」という予測ではない。著者自身が、実際に何件の仕事が自動化されるかは推計しないと本文に書いている。47%は、技術的に自動化されうる職業に就いている人の割合であり、時間軸も「特定しない年数、おそらく10〜20年」とされていた。この区別が、その後10年あまりの議論のほとんどを左右することになる。
論文は何を測ったのか
論文の問いは、どの仕事がどれだけコンピュータ化されやすいか、である。経済学ではそれまで、定型的な作業(ルーティンタスク)ほど機械に置き換えられやすいという見方が主流だった。Frey と Osborne は、機械学習と移動ロボットの進歩によって、パターン認識が可能になれば非定型の作業も自動化の対象になると論じ、その限界を3つの「ボトルネック」で表した。
| ボトルネック | 内容 | O*NET の変数(例) |
|---|---|---|
| 知覚と操作 | 散らかった環境で物を見分け、不規則な物を扱う | 指の器用さ、手の器用さ、窮屈な作業空間 |
| 創造的知性 | 新しく価値のある発想や作品を生む | 独創性、美術 |
| 社会的知性 | 交渉、説得、他者の世話 | 社会的感受性、交渉、説得、他者への援助と世話 |
手順は2段階だった。まず、オックスフォード大学工学部で開いたワークショップを踏まえ、機械学習の研究者たちと70職業を選んで「自動化できる(1)」「できない(0)」の印を手で付けた。印を付けたのは、判断に最も自信のある職業だけだという。次に、米労働省の職業情報データベース O*NET(2010年版)から上の9変数を取り、手作業の印との関係をガウス過程分類器に学ばせて、残りを含む702職業すべての確率を推計した。最後に2010年の米労働統計局の雇用数で重み付けし、確率0.7以上を高リスク、0.3未満を低リスクとして区分した。
47%と、その但し書き
結果として、雇用の約47%が高リスク区分に入った。論文が挙げる確率の両端を見ると、テレマーケター、税務申告代行、図書館技術員などが0.99、最も低いのはレクリエーション療法士の0.0028だった。法律分野では、パラリーガルが高リスクに、弁護士が低リスクに入る。論文はさらに、賃金や学歴が高い職業ほど自動化確率が低いという強い負の関係を示し、低賃金・低学歴の働き手ほど影響を受けやすいと論じた。
一方で、論文は自らの限界を何か所かで明記している。
- 実際に何件の仕事が自動化されるかは推計していない。技術が実際に採用されるかどうかは、安い労働力が得られるか、資本の価格がどうかといった、モデルに入れていない要因に左右される
- 生産性の向上が雇用をどう増減させるかも検討していない
- 職業構成の将来の変化を予測するものでもない
- 手作業の印には主観が入るため、それを「ノイズの入った測定」として扱った
つまり47%は、技術的な可能性の上限に近い数字であり、雇用統計の予測とは性格が違う。論文はのちに学術誌 Technological Forecasting and Social Change の第114巻(2017年)に掲載された。
9%という反論
最も知られた反論は、2016年に OECD のワーキングペーパーとして出た Melanie Arntz、Terry Gregory、Ulrich Zierahn の分析である。彼らの論点は、職業をまるごと自動化の単位にすると過大評価になるというものだった。同じ職業名でも、人によって担っているタスクは違う。高リスクとされた職業にも、自動化しにくいタスクを多く含む人がいる。
そこで彼らは個人単位のタスクのばらつきを考慮して21か国を測り直し、自動化可能な仕事は平均9%だと推計した。国別では韓国の6%からオーストリアの12%まで幅があり、その差は職場の組織のされ方、過去の自動化投資、働き手の教育水準で説明できるとしている。
| 研究 | 対象 | 何を数えたか | 数字 |
|---|---|---|---|
| Frey & Osborne(2013年) | 米国702職業 | 自動化確率0.7以上の職業に就く人の割合 | 47% |
| 野村総合研究所(2015年) | 日本601職業 | 同じ手法で確率66%以上の職業に就く人の割合 | 49% |
| Arntz ほか・OECD(2016年) | 21か国 | タスク単位で測った、自動化可能な仕事の割合(21か国平均) | 9% |
指標が違うため、3つの数字は単純に比べられない。日本の49%については野村総合研究所の推計のページで扱う。
生成 AI のあとで
2013年の論文が想定していたのは、主にロボットとパターン認識だった。2022年に ChatGPT が登場し、文章を書く・要約する・コードを書くといった作業に機械が入り込むと、2013年の区分は改めて問われた。
Frey と Osborne は2023年9月、生成 AI を踏まえた再評価を発表した。オックスフォード・インターネット研究所の紹介によると、2人は、生成 AI が自動化できるタスクの範囲を広げたことを認めつつ、AI のハルシネーションが残る限り企業は人を判断の流れに残すだろうと論じた。Frey は、遠隔でできる仕事は自動化もされうると述べ、対面での長い信頼関係に支えられる仕事は人の領域に残るとした。また、大きな技術的飛躍がない限り、2013年に挙げたボトルネックは当面、自動化の可能性を制約し続けると見込んでいる。47%という数字そのものは改訂していない。
2023年以降には、生成 AI に絞った新しい推計が相次いだ。代表例がゴールドマン・サックスの「3億人分」という推計で、こちらは職業ごとに「仕事量のうち何割が AI にさらされるか」を測っている。実際の雇用データで若い働き手への影響を調べた研究は「炭鉱のカナリア」論文のページにまとめた。
何が残ったのか
この論文の社会的な影響は、数字の正確さよりも、議論の枠組みを作ったことにある。「自動化で何割の仕事が影響を受けるか」という問いが定着し、OECD のような国際機関や、日本の野村総合研究所が独自の推計を出した。同時に、OECD の反論が示したように、「職業が消える」のか「職業の中のタスクが入れ替わる」のかという問いの立て方そのものが、推計値を大きく動かすことも明らかになった。
賃金と学歴が低いほど自動化確率が高いという論文の指摘は、技術変化の負担が誰に偏るかという、より長く続く問いにつながっている。AI と社会の関わりを年代順に追うには AI と社会の年表 を参照してほしい。
よくある質問
- フレイ&オズボーンの論文は「47%の仕事がなくなる」と言ったのですか。
- いいえ。論文は、米国の雇用の約47%が、技術的には自動化されうる確率が高い(0.7以上)職業に就いていると推計したものです。著者は、実際に何件の仕事が自動化されるかは推計していないと明記し、時間軸も特定しない年数、おそらく10〜20年としていました。
- 47%はどうやって計算されたのですか。
- 機械学習の研究者と70職業に自動化できるか否かの印を手で付け、知覚と操作・創造的知性・社会的知性を表す O*NET の9変数との関係をガウス過程分類器に学ばせ、702職業すべての確率を推計しました。確率0.7以上を高リスクとし、2010年の米労働統計局の雇用数で重み付けして47%を出しています。
- 47%への主な反論は何ですか。
- 職業をまるごと自動化される単位として扱った点です。2016年の OECD ワーキングペーパー(Arntz、Gregory、Zierahn)は、同じ職業でも人によって担うタスクが異なることを考慮して測り直し、21か国平均で自動化可能な仕事は9%(韓国6%〜オーストリア12%)だとしました。
- 著者は生成 AI の登場後に見解を変えましたか。
- 2023年9月の再評価で、Frey と Osborne は生成 AI が自動化できる仕事の範囲を広げたと認めつつ、大きな飛躍がない限り2013年に挙げたボトルネックは当面自動化を制約すると論じました。Frey は、遠隔でできる仕事は自動化もされうると述べています。47%という数字自体は改訂していません。
出典
702職業、ガウス過程分類器、70職業の手作業ラベル、O*NET の9変数と3つのボトルネック、0.7と0.3の閾値、47%、10〜20年という時間軸、実際の自動化数は推計しないという但し書き、テレマーケター0.99とレクリエーション療法士0.0028
タスク単位で測ると21か国平均9%、韓国6%〜オーストリア12%、職業単位の推計は過大になりうるという要旨
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