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野村総研「日本の労働人口の49%が代替可能」── 日本の「AI に仕事を奪われる」論の出発点

日本で「AI に仕事を奪われる」という言い方が広まるきっかけになった数字が、日本の労働人口の49% である。野村総合研究所(NRI)は2015年12月2日、オックスフォード大学の Michael A. Osborne 准教授と Carl Benedikt Frey 博士との共同研究として、国内601種類の職業について人工知能やロボット等に代替される確率を試算し、10〜20年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業が、技術的には代替可能になるとの推計を発表した。
ただし、49%は「49%の人が職を失う」という予測ではない。NRI 自身が、これはあくまでコンピュータによる技術的な代替可能性であって、実際に代替されるかどうかを左右する社会環境要因は考慮していないと注記している。何を数えた数字なのかを押さえることが、この推計を読むうえでの出発点になる。
何をどう推計したのか
推計の手法は、Frey と Osborne が2013年に米国について行った分析を日本に当てはめたものである。手法の詳細と、その元になった47%という数字はフレイ&オズボーン論文のページにある。ここでは、日本版で何が違ったのかを整理する。
| 項目 | NRI の推計(2015年) |
|---|---|
| 発表日 | 2015年12月2日 |
| 共同研究者 | オックスフォード大学の Osborne 准教授、Frey 博士 |
| 職業データ | 労働政策研究・研修機構(JILPT)「職務構造に関する研究」(2012年)の601職業 |
| 分析手法 | 米国・英国の先行研究と同様の分析アルゴリズム |
| 「代替可能」の基準 | 一人の業務すべてを66%以上の確率でコンピュータが代わりに遂行できる職業 |
| 時間軸 | 10〜20年後 |
| 結果 | 日本49%(比較:英国35%、米国47%) |
職業データは、JILPT がアンケート調査で職業ごとの興味・価値観・仕事環境・スキル・知識などを数量化したもので、職業ごとに30人以上の回答を集められた601職業が対象になった。米国の推計が米労働省の O*NET を使ったのに対し、日本版は日本の職業データに置き換えている。
NRI は試算方法の注記で、次の2点を明記している。
- 実際に代替されるかどうかは、労働需給を含めた社会環境要因の影響も大きいと想定されるが、本試算ではそれらを考慮していない
- 一人の業務の一部分だけをコンピュータが代わりに遂行する確率や可能性は検討していない
代替されやすい職業、されにくい職業
NRI は参考資料として、代替可能性が高い100職業と低い100職業を50音順で並べた。並び順は確率の高さとは無関係である。
| 代替可能性が高いとされた例 | 代替可能性が低いとされた例 |
|---|---|
| 一般事務員、経理事務員、銀行窓口係 | 外科医、内科医、精神科医 |
| レジ係、スーパー店員、データ入力係 | 保育士、小学校教員、幼稚園教員 |
| タクシー運転者、路線バス運転者、電車運転士 | 社会福祉施設介護職員、ケアマネージャー |
| 警備員、ビル清掃員、宅配便配達員 | ゲームクリエーター、マンガ家、美容師 |
NRI はこの傾向を、芸術・歴史学・哲学など抽象的な概念を整理・創出する知識が要る職業や、他者との協調・理解・説得・ネゴシエーション・サービス志向性が求められる職業は代替が難しく、特別な知識・スキルが求められない職業や、データの分析・秩序的で体系的な操作が求められる職業は代替できる可能性が高い、とまとめている。
推計の背景
この推計は、NRI 未来創発センターが「2030年」をテーマに進めていた研究の1つとして発表された。NRI は研究の狙いを、人口減少で労働力の減少が予測される日本において、人工知能やロボット等で労働力を補完した場合の社会的影響を調べることだと説明している。つまり出発点にあったのは「仕事が奪われる」不安よりも、人手不足をどう補うかという問いだった。
発表には職業名を挙げた一覧が付き、2016年1月12日には Osborne 准教授と東京大学の松尾豊准教授を招いた研究報告講演会も予告された。49%という数字は、雇用への脅威としても、労働力不足を補う手段の大きさとしても読める形で世に出たことになる。
数字をどう読むべきか
その後の研究は、この種の推計の読み方に2つの注意を加えている。
第1に、職業をまるごと置き換わる単位として扱うと、影響は大きく見えやすい。2016年の OECD ワーキングペーパー(Arntz、Gregory、Zierahn)は、同じ職業でも人によってタスクが異なることを考慮すると、21か国平均で自動化可能な仕事は9%にとどまると推計した。NRI 自身も、業務の一部だけが代替される場合は検討していないと書いている。
第2に、「代替」と「補完」は実際には截然と分かれない。内閣府の「世界経済の潮流 2024年 I」(2024年7月)は、AI が人の仕事を完全に置き換える「代替型」なのか、人の労働を助けて生産性を上げる「補完型」なのかを分けて考える必要があるとしたうえで、補完される職業でも一部のタスクは効率化されて人手がかからなくなるため、両者には語感ほどの大きな違いはないと整理している。同じ報告は、OpenAI などの研究者による Eloundou ほか(2023年)の推計として、米国の労働者の約80%がタスクの10%以上、約19%がタスクの50%以上を大規模言語モデルによる自動化の対象とされうることも紹介している。
10年後の日本の雇用
推計の時間軸は10〜20年後、つまり2025〜2035年ごろである。その前半が過ぎた2025年について、総務省の労働力調査は、年平均の完全失業率が2.4%で前年と同率、就業者数は6724万人で前年より60万人増えたと報告している。少なくとも雇用全体の数字には、大量の代替を示す動きは表れていない。
ただし、この数字だけで推計が外れたとは言えない。NRI の推計は失業率の予測ではなく、仕事の中身の変化は失業率や就業者数には必ずしも表れない。職業の中でどのタスクが機械に移っているかは、雇用総数とは別のデータで見る必要がある。生成 AI の登場後に出た職業別の推計はゴールドマン・サックスの推計のページに、実際の雇用データで若い働き手への影響を調べた研究は「炭鉱のカナリア」論文のページにまとめた。
AI と雇用・社会をめぐる出来事の流れは AI と社会の年表 で追える。
よくある質問
- 野村総研の「49%」とは何の割合ですか。
- 日本の労働人口のうち、一人の業務すべてを66%以上の確率でコンピュータが代わりに遂行できると推計された職業に就いている人の割合です。10〜20年後に技術的には代替可能になるという意味で、49%の人が失業するという予測ではありません。
- AI に代替されやすい職業・されにくい職業は何ですか。
- NRI は代替可能性の高い100職業に一般事務員、銀行窓口係、レジ係、データ入力係、タクシー運転者などを、低い100職業に外科医、保育士、小学校教員、美容師、ゲームクリエーターなどを挙げました。いずれも50音順の参考一覧で、確率の高さ順ではありません。
- なぜ日本は米国(47%)や英国(35%)より高かったのですか。
- NRI の発表は国ごとの差の理由を説明していません。日本の数字は労働政策研究・研修機構の601職業データ、米英はそれぞれの国の職業データに基づき、職業分類も就業構造も異なるため、3つの数字は厳密には同じ物差しではありません。
- 推計から10年たって、日本の雇用はどうなりましたか。
- 総務省の労働力調査では、2025年平均の完全失業率は2.4%、就業者数は6724万人で前年より60万人増えました。ただし推計の時間軸は10〜20年で、雇用全体の数字だけでは職業の中身の入れ替わりは分かりません。
出典
一次資料日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に ~601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~ — 野村総合研究所 ニュースリリース, 2015年12月2日
49%、601職業、10〜20年後、英国35%・米国47%、66%以上の閾値、社会環境要因と業務の一部代替は考慮しないという但し書き、代替可能性の高い/低い100職業
一次資料世界経済の潮流 2024年 I 第1章第1節 AIによる職業・タスクの補完と代替 — 内閣府 政策統括官(経済財政分析担当), 令和6年7月
代替型と補完型の区別、補完される職業でも一定の代替は起こりうるという整理、Eloundou ほか(2023)の紹介
最終更新: