詳述 · 15件の出来事
データベースの歴史
1950年代
1960年代

Warren K. Leffler, U.S. News & World Report Magazine Photograph Collection, Library of Congress (Wikimedia Commons) · Public domain · Commons ↗ General Electric の Charles W. Bachman が、工場の生産管理システム MIACS の土台として Integrated Data Store(IDS)を設計した。1962年1月までに機能仕様がまとまり、1963年初めに試作版が動き、同年夏に実データで試験された。ディスク上の共有ファイルをアプリケーションに直接触らせず、レコードの格納・検索・更新をすべて IDS への呼び出しで行わせ、レコード型とその関係をメタデータとして別に保持した。データベース史家 Thomas Haigh は、「最初のデータベース管理システム」の称号に値するものがあるとすれば IDS だと評している。GE は1964年10月にこれを自社コンピュータ向けのサポート付きパッケージとして発表した。IDS の考え方は CODASYL のデータベース・タスクグループに持ち込まれてネットワーク型データモデルの標準案となり、Bachman は1973年に ACM チューリング賞を受けた。

Living Computers: Museum+Labs (Wikimedia Commons) · CC BY-SA 4.0 · Commons ↗ 1968年8月14日、カリフォルニア州ダウニーの Rockwell 宇宙部門で、IBM 2740 端末に最初の「IMS READY」メッセージが表示された。アポロ宇宙船を製造する North American(1967年に North American Rockwell となる)の膨大な部品表と設計変更を管理するため、IBM と同社、さらに Caterpillar Tractor の技術者が1966年から共同開発した Information Control System(ICS)と Data Language/I(DL/I)である。前身は IBM の Uri Berman らが IBM 7010 上に作り1965年に稼働させた DATE で、データの格納と応用プログラムを切り離す設計はすでに DATE で試されていた。ICS は1969年に Information Management System/360(IMS/360)と改称され、IBM の製品となった。レコードを親子の木構造で持つ階層型 DBMS とトランザクション処理を一体にした IMS は、銀行・保険・製造業の基幹系に広がり、半世紀を超えて使われ続けている。
1970年代

Dicklyon (Wikimedia Commons) · CC BY-SA 4.0 · Commons ↗ IBM サンノゼ研究所の E. F. Codd が、 CACM 13巻6号(377–387ページ) に論文「A Relational Model of Data for Large Shared Data Banks」を発表。 集合論と一階述語論理を土台に n 項関係と5つの演算(置換・射影・結合・合成・制限) を定義し、 アプリケーションがデータの物理的な格納方法に依存しないという「データ独立性」を正面の目標に据えた。 当時主流だった階層型・網型 DBMS(IMS、 IDS) への根本的な対抗案であり、 1980 年代以降の Oracle・DB2・SQL Server・MySQL・PostgreSQL を含むすべての RDBMS の理論的起点となった。 なお「関係代数」「関係計算」という用語自体は、 この論文ではなく1972年の続編 Relational Completeness of Data Base Sublanguages で導入される。 Codd は 1981 年 ACM チューリング賞を受賞。

Dicklyon (Wikimedia Commons) · CC BY-SA 4.0 · Commons ↗ IBM サンノゼ研究所の Donald Chamberlin と Raymond Boyce が、 1974年5月にミシガン州アナーバーの ACM SIGFIDET ワークショップで論文「SEQUEL: A Structured English Query Language」を発表した。 量化子も束縛変数も使わず、 SELECT-FROM-WHERE の英語キーワードの枠で Codd の関係モデルへ問い合わせる言語で、 一階述語論理と同等の表現力を持つと主張した。 同じ年に始まった System R 計画の Phase Zero で単一ユーザーの試作が作られ、 1976〜77年に多ユーザー版を構築、 1977年6月から実験的に設置された。 名称は1977年、 商標上の問題で SEQUEL から SQL に縮められた。 Boyce は発表の約1か月後、 26歳で急逝している。
1980年代
1986年10月16日、米国規格協会(ANSI)が「Database Language SQL」を米国規格 X3.135-1986 として承認した。起草したのは X3 委員会傘下のデータベース技術委員会 X3H2。スキーマ定義言語、モジュール言語、データ操作言語を定め、完全版の Level 2 とその部分集合の Level 1 の2段階に分け、COBOL・FORTRAN・Pascal・PL/I への埋め込み構文を付属書で規定した。参照整合性は後の追補に回された。国際版の ISO 9075:1987 は1987年6月に発行され、1989年には「integrity enhancement」付きの第2版、1992年には587ページの第3版が続いた。
1990年代
Oracle Corporation (Wikimedia Commons, vectorised by Vulphere) · Public Domain (text logo, ineligible for copyright); MySQL is a trademark of Oracle · Commons ↗ Michael「Monty」Widenius・David Axmark・Allan Larsson がスウェーデンで MySQL AB を興し、 RDBMS「MySQL」の最初のバージョンを社内向けに公開した日。 当初のライセンスは GPL ではなく独自のもの(自由に使えるが商用利用と Windows 版は有償) で、 GPL とのデュアルライセンスに切り替わるのは 2000 年である。 Linux・Apache・MySQL・PHP/Perl/Python の頭文字を取る LAMP スタックの中核として、 2000 年代の Web 隆盛を支えた。 2008 年 Sun Microsystems が約 10 億ドルで MySQL AB を買収、 2010 年 1 月に Oracle が Sun の買収を完了したことで Oracle 傘下へ。 Monty は 2009 年に MariaDB をフォークし、 オープンな後継系統を維持し続けている。
Daniel Lundin (Wikimedia Commons) · BSD · Commons ↗ 1996年7月9日、 Marc Fournier が「Postgres95 1.01 Distribution ── Virgin Sources」を新設のリポジトリへ取り込んだ。 UC Berkeley の Michael Stonebraker が指揮した POSTGRES プロジェクト(1986年開始、 Version 4.2 で終了) の系譜が、 大学の外の開発コミュニティへ移った瞬間である。 同じ 1996 年に名前は PostgreSQL へ改められ、 版番号は Berkeley 時代の続きとして 6.0 に設定された(6.0 の公開は 1997年1月29日)。 ACID 準拠・MVCC・拡張可能性を軸に、 PostGIS・TimescaleDB・pgvector といった拡張を生み、 Stack Overflow Developer Survey では 2023年に最も使われるデータベースの座を MySQL から奪って以降、 最も愛され・最も望まれる部門と合わせて首位を保っている。
2000年代
D. Richard Hipp; SVG conversion by Mwtoews (Wikimedia Commons) · Public domain · Commons ↗ D. Richard Hipp が、アプリケーションのプロセス内で動く SQL データベースエンジン SQLite のバージョン1.0を2000年8月17日に公開した。米海軍の駆逐艦向けソフトウェアの開発で、別プロセスの Informix サーバが落ちるたびに自分たちのアプリケーションがデータベースサーバに接続できないというダイアログを出して止まる、という経験が出発点だった。アルファ版は同年5月29日に公開され、当初は Tcl の拡張として配布された。1.0 の格納層は GDBM で、2001年9月の2.0で独自の B-tree に置き換えられ、同時にコードがパブリックドメインになった。現在 sqlite.org は、すべての Android・iPhone 端末に含まれ、使用中の SQLite データベースは1兆個を超えるとみられると記している。
MongoDB, Inc. (Wikimedia Commons) · Public Domain (ineligible for copyright); MongoDB is a trademark · Commons ↗ Dwight Merriman・Kevin P. Ryan・Eliot Horowitz が設立した 10gen(後の MongoDB Inc.) が、 ドキュメント指向 NoSQL データベース「MongoDB」を初めて公開した日。 行と列の表ではなく BSON 形式の JSON ドキュメントを格納し、 スキーマレスでスケールアウト可能という設計が「NoSQL ムーブメント」の象徴となった。 バージョン 1.0 の出荷は同年 8 月。 2017 年 NASDAQ 上場、 2018 年に Community Server のライセンスを AGPLv3 から SSPL へ変更、 2026 年 1 月期の売上は 24.6 億ドル。 リレーショナルが寡占していた DBMS 市場に「ドキュメントモデル」という有力な選択肢を定着させた。
2010年代
AWS が初開催の re:Invent で Amazon Redshift のリミテッド プレビューを発表(GA は 2013年2月)。 ParAccel からライセンスした MPP・カラム指向技術をベースにしたクラウド ネイティブの分析データウェアハウスで、 プレスリリースは予約インスタンス価格で 1 テラバイトあたり年 1000 ドル未満、 「顧客が現在利用できるほとんどのデータウェアハウス ソリューションの 10 分の 1 の価格」と謳った。 「DWH は専用ハードを買って構築する」という前提を覆し、 BigQuery(2012年5月に一般公開)と並んで「クラウド DWH」というカテゴリを成立させ、 後の Snowflake・Databricks による解体・再構築へと続く流れの起点となる。
Snowflake (Wikimedia Commons) · Public domain · Commons ↗ Benoit Dageville・Thierry Cruanes・Marcin Żukowski(Oracle と Vectorwise 出身) が 2012 年に設立した Snowflake Computing が、 2014年10月21日にステルスを解き、 Snowflake Elastic Data Warehouse と総額 2600 万ドルの調達を発表した。 ストレージ(S3 等のオブジェクトストレージ) とコンピュート(仮想ウェアハウス) を分離し、 必要な分だけ計算を起動できるクラウドネイティブ DWH である。 製品の一般提供(GA)は 2015年6月23日。 マルチクラスタ・共有データ アーキテクチャで急成長し、 2020年9月16日の NYSE 上場は初日終値 253.93 ドル・時価総額約 704 億ドルと、 当時史上最大のソフトウェア IPO となった。 FY2026(2026年1月期) の売上は 46.8 億ドル、 顧客は 13,328 社。
2020年代
Gknor (Wikimedia Commons) · CC BY-SA 4.0 · Commons ↗ 2023年5月3日、 AWS が Amazon RDS for PostgreSQL(15.2 以降) での pgvector サポートを発表した。 4 月の Supabase Launch Week 7、 6月27日の Google Cloud SQL / AlloyDB、 7月の Amazon Aurora と続き、 主要マネージド PostgreSQL がこの拡張を公式機能として揃えていく。 pgvector は embedding(テキストや画像を高次元ベクトルに変換した表現) を PostgreSQL のテーブルに格納し、 L2 距離・内積・コサイン距離で近傍検索する拡張で、 2021年4月の v0.1.0 の時点で IVFFlat インデックスを備えていた。 専用ベクトル DB のデファクトである HNSW インデックスは 2023年8月28日の v0.5.0 で入る。 ChatGPT 公開(2022年11月) で急増した RAG 需要に対し、 Pinecone・Weaviate・Chroma などの専用品と「既存の PostgreSQL に拡張を入れる」アプローチが正面から競合する構図を作った。

