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Snowflake ステルス解除 ── ストレージとコンピュートの分離が DWH を作り変える

出典Snowflake (Wikimedia Commons) · Public domain · Commons で見る

メタデータ

日付
年代
2010s
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T1
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2014年10月21日、 カリフォルニア州サンマテオのスタートアップ Snowflake Computing がステルス開発を終え、 クラウド データウェアハウス Snowflake Elastic Data Warehouse を発表した。 同時に公表されたのは総額 2600 万ドルの調達 ── Redpoint Ventures がリードし、 シード と Series A を担った Sutter Hill Ventures、 Wing Ventures が続く Series B である。 製品が一般提供(GA)に達するのは、 その 8 ヶ月後、 2015年6月23日だった。

Amazon Redshift(2012 年発表、 2013 年 2 月 GA) が「クラウド DWH」の扉を開いた 2 年後、 Snowflake はその扉の中に 「ストレージとコンピュートを分離する」 という独自設計を持ち込み、 6 年後の IPO で時価総額約 704 億ドル ── 当時史上最大のソフトウェア IPO を打ち立てる。

創業者 ── Oracle と Vectorwise の退役組

Snowflake の創業者 3 人は、 商用 DBMS の歴史の中核にいた研究者・エンジニアたちである。

Benoit Dageville はフランス出身、 元 Oracle のアーキテクトで、 Oracle Database の並列実行やチューニング機構に長く関わった。 Thierry Cruanes も元 Oracle で、 クエリ オプティマイザを担当した。 Marcin Żukowski は CWI の MonetDB/X100 とその商用化版 Vectorwise で「ベクトル化クエリ実行」の研究を主導した人物である。 2016 年の SIGMOD 論文 The Snowflake Elastic Data Warehouse は、 この 3 人を筆頭著者に据えている。

2012 年、 3 人はサンマテオで Snowflake Computing を設立。 クラウド時代のために DWH をゼロから設計し直す ── これがコンセプトだった。 既存の RDB アーキテクチャを引きずらず、 AWS の S3・EC2 を前提に新規設計する。 2014年6月に元 Microsoft 幹部の Bob Muglia が CEO に就き、 その 4 ヶ月後にステルスが解かれる。 2014年10月のプレスリリースで Muglia は、 データウェアハウスの分野ではこの 10 年、 驚くほど革新が起きていない、 という言い方で市場機会を説明している。

設計の核心 ── ストレージ/コンピュートの完全分離

Snowflake の最大の革新は マルチクラスタ・共有データ アーキテクチャ と呼ばれる三層構造である。

ストレージ層: データはすべて Amazon S3(後に Azure Blob、 GCS にも対応) に圧縮列指向で格納される。 計算ノードから切り離された、 ほぼ無限・低価格・耐久性 11 ナインのオブジェクトストレージ。

コンピュート層: クエリを実行する「仮想ウェアハウス(Virtual Warehouse)」が、 ストレージとは独立に起動・停止できる。 サイズを選べるうえ、 同じデータに対して 複数のウェアハウスを同時並列に動かせる ── 例えば BI 用、 ETL 用、 データサイエンス用で別々のコンピュート リソースを割り当て、 互いに性能干渉しない。

クラウドサービス層: 認証、 メタデータ管理、 クエリ最適化、 トランザクション管理を担う共通レイヤー。

この三層分離が決定的だった。 Redshift の初期版は「ノード = ストレージ + コンピュート」の固定比率で、 容量を増やせば計算リソースも増え、 逆も同様。 Snowflake はその制約を取り払い、 「ストレージは S3 で安価に無限に拡張、 計算は必要な時だけ起動して秒単位課金」 という弾力性を実現した。

加えて、 ストレージは複数の仮想ウェアハウス間で 共有データ として参照される ── 異なるユーザ・部門・地域が、 同じ物理データに対して別個のコンピュートでアクセスできる。 ここが「マルチクラスタ・共有データ」と呼ばれる所以である。

2014-2020 ── 静かな急成長

2014年10月のステルス解除の時点では、 Snowflake はまだ知名度の低いスタートアップに過ぎなかった。 発表時のサービスは AWS 上でのみ動き、 プレスリリースはオンプレ DWH に比べて 90% 低コストだと主張していた ── ベンダー自身の主張であって、 第三者の検証ではない。

エンタープライズ採用は 2010 年代後半に厚みを増す。 2020 年の IPO 目論見書に名前が出る顧客には Capital One(契約は 2017年6月30日)、 Adobe、 Sony、 Nielsen、 McKesson、 DoorDash、 Instacart、 Dropbox、 Akamai などが並ぶ。 2020年7月31日時点の顧客数は 3,117 社(前年同期 1,547 社)、 うち Fortune 500 が 146 社、 Fortune 10 が 7 社。 純収益維持率(net revenue retention)は 150% を超えていた。

クラウドの束縛からの脱出も設計上の差別化になった。 Microsoft Azure 版は 2018年7月にプレビュー、 同年9月に GA。 Google Cloud 版は 2019年6月に提携を発表し、 GA は 2020年2月である。 顧客は特定のクラウド プロバイダに縛られない DWH を手にした。

2020 年 IPO ── 当時史上最大のソフトウェア IPO

2020年9月16日、 Snowflake は NYSE に「SNOW」で上場した。 目論見書に記された IPO 価格は 1 株 120 ドル(当初レンジ 75-85 ドル、 直前に 100-110 ドルへ引き上げたうえでのさらなる上振れ)、 売出は Class A 株 2800 万株。 初値 245 ドル、 初日終値 253.93 ドル ── IPO 価格比で 111% 超の上昇、 終値ベースの時価総額は 約 704 億ドルに達し、 CNBC は当時史上最大のソフトウェア IPO と報じた。

FIGSnowflake 上場初日の株価 ── 2020年9月16日[ 1株あたり米ドル ]
Snowflake 上場初日の株価 ── 2020年9月16日
IPO 価格(目論見書)120.00ドル
初値245ドル
初日終値253.93ドル
IPO 価格120ドルは、数日前に設定された100〜110ドルのレンジを上回り、そのレンジ自体が当初の75〜85ドルから引き上げられたものだった。それでも初日終値は IPO 価格を111%超上回っている。引受価格と初値の差は発行体が受け取り損ねた金額でもある。出典: Snowflake の目論見書と上場初日の取引

上場に合わせ、 Salesforce Ventures と Berkshire Hathaway がそれぞれ 2 億 5000 万ドル分の Class A 株を IPO 価格で私募購入する契約を結んでいた(目論見書に明記)。 Berkshire はさらに 404 万株を相対で取得している。

当時の CEO は Frank Slootman(元 ServiceNow CEO)。 2019 年に就任し、 2024年2月に元 Google 幹部の Sridhar Ramaswamy へ交代した。 Slootman は取締役会長、 共同創業者の Dageville は取締役として社に残っている(FY2026 の Form 10-K の署名欄による)。

現在 ── 売上 46.8 億ドル、 AI 時代の DWH

数字は Form 10-K から取る。 FY2024(2024年1月期) の売上は 28.1 億ドル(前年 20.7 億ドルから 36% 増)、 FY2025 は 36.3 億ドル、 FY2026(2026年1月期) は 46.8 億ドル。 このうち製品売上(product revenue) は FY2026 で 44.7 億ドルである。 顧客数は 2026年1月31日時点で 13,328 社(前年 10,996 社)、 直近 12 ヶ月の製品売上が 100 万ドルを超える顧客は 733 社(前年 576 社)、 Forbes Global 2000 のうち 790 社が顧客で、 その 790 社が売上の約 43% を占める。 純収益維持率は 125%。

2023 年以降、 Snowflake は AI 機能の追加を急ぐ ── Snowpark(Python・Scala のデータ処理)、 Snowpark Container Services(任意のコンテナ実行)、 Cortex(LLM 推論を SQL から呼べる)、 Iceberg Tables(オープン テーブル フォーマット対応)。 競合 Databricks との「データウェアハウス vs データレイクハウス」の競争が、 業界最大の戦線となっている。

2014 年 10 月が意味するもの

2014年10月のステルス解除は、 「クラウドネイティブ DWH」という設計様式が世に出た瞬間だった。 Redshift がオンプレ DWH のアーキテクチャをクラウドに移し替えたのに対し、 Snowflake はクラウド前提で再設計したらどうなるかという解を提示した。 ストレージとコンピュートを分離するこの設計思想は、 後の Databricks、 ClickHouse Cloud、 Apache Iceberg を採用した OSS データプラットフォーム、 さらには OLTP 側の Aurora や Neon、 PlanetScale にまで波及している。

DWH を時間借りする形を Redshift が始め、 起動している間だけ計算に課金する形を Snowflake が押し進めた ── データ基盤がハードウェア発注から API 呼び出しに変わった十数年の、 一つの結節点である。

出典

  1. 三次資料Snowflake Inc. — Wikipedia

    取得日: 2026-08-08

最終更新:

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