2014年10月T1

Snowflake GA ── ストレージとコンピュートの分離が DWH を作り変える

Benoit Dageville・Thierry Cruanes・Marcin Żukowski(Oracle・Vectorwise 出身) が 2012 年に設立した Snowflake が、 2014 年 6 月のベータを経て 10 月に正式 GA。 ストレージ(S3 等のオブジェクトストレージ) とコンピュート(仮想ウェアハウス) を完全分離し、 必要な分だけ計算を起動できるクラウドネイティブ DWH を実現した。 Redshift・BigQuery とは異なる「マルチクラウド・マルチクラスター・共有データ」アーキテクチャで急成長、 2020 年 9 月の IPO は初日終値ベースで時価総額約 700 億ドル、 当時史上最大の SaaS IPO となる。 2024 年現在の売上は 30 億ドル超。

Snowflake Inc. の社名ロゴ
出典Snowflake Inc. (Wikimedia Commons) · Public Domain (ineligible for copyright); Snowflake is a trademark · Commons で見る

メタデータ

日付
2014年10月
年代
2010s
Tier
T1
出典数
04
関連項目
00

Snowflake GA ── ストレージとコンピュートの分離が DWH を作り変える

2014年10月、 カリフォルニア州サンマテオのスタートアップ Snowflake Computing が、 同年 6 月のクローズドベータを経て、 クラウド データウェアハウス サービス Snowflake を一般公開(GA) した。

Amazon Redshift(2012 年発表、 2013 年 GA) が「クラウド DWH」の扉を開いた 2 年後、 Snowflake はその扉の中に 「ストレージとコンピュートを完全分離する」 という独自設計を持ち込み、 6 年後の IPO で時価総額 700 億ドルという史上最大の SaaS IPO を打ち立てる。

創業者 ── Oracle と Vectorwise の退役組

Snowflake の創業者 3 人は、 商用 DBMS の歴史の中核にいた研究者・エンジニアたちである。

Benoit Dageville はフランス出身、 元 Oracle のアーキテクトで、 Oracle Database の並列実行エンジン・パーティショニング機能の中心設計者の一人。 Thierry Cruanes も元 Oracle のオプティマイザ チーフ。 Marcin Żukowski は MonetDB/X100 とその商用化版 Vectorwise(オランダの研究系 DWH) で「ベクトル化クエリ実行」の論文を書いた研究者である。

2012 年、 3 人はサンマテオで Snowflake Computing を設立。 「クラウド時代のために、 ゼロから DWH を設計し直す」 ── これがコンセプトだった。 既存の RDB アーキテクチャを引きずらず、 AWS の S3・EC2 を前提に新規設計する。 その代わり 2 年以上の沈黙期間(ステルス開発) を経て、 2014 年に世に出た。

設計の核心 ── ストレージ/コンピュートの完全分離

Snowflake の最大の革新は マルチクラスタ・共有データ アーキテクチャ と呼ばれる三層構造である。

ストレージ層: データはすべて Amazon S3(後に Azure Blob、 GCS にも対応) に圧縮列指向で格納される。 計算ノードから切り離された、 ほぼ無限・低価格・耐久性 11 ナインのオブジェクトストレージ。

コンピュート層: クエリを実行する「仮想ウェアハウス(Virtual Warehouse)」が、 ストレージとは独立に起動・停止できる。 X-Small から 6X-Large までサイズを選べ、 同じデータに対して 複数のウェアハウスを同時並列に動かせる ── 例えば BI 用、 ETL 用、 データサイエンス用で別々のコンピュート リソースを割り当て、 互いに性能干渉しない。

クラウドサービス層: 認証、 メタデータ管理、 クエリ最適化、 トランザクション管理を担う共通レイヤー。

この三層分離が決定的だった。 Redshift の初期版は「ノード = ストレージ + コンピュート」の固定比率で、 容量を増やせば計算リソースも増え、 逆も同様。 Snowflake はその制約を取り払い、 「ストレージは S3 で安価に無限に拡張、 計算は必要な時だけ起動して秒単位課金」 という弾力性を実現した。

加えて、 ストレージは複数の仮想ウェアハウス間で 共有データ として参照される ── 異なるユーザ・部門・地域が、 同じ物理データに対して別個のコンピュートでアクセスできる。 ここが「マルチクラスタ・共有データ」と呼ばれる所以である。

2014-2020 ── 静かな急成長

2014 年 10 月の GA 時点では、 Snowflake はまだ知名度の低いスタートアップに過ぎなかった。 マーケティングは控えめで、 「実際の顧客の苦痛を一つひとつ解決する」というエンジニアリング企業の色が濃かった。

転機は 2016 年、 Capital One・Adobe・Sony Music などのエンタープライズ採用が公表され始めた頃。 「Redshift では複数チームの同時利用で性能が崩れる」「BigQuery は Google エコシステム前提で他社データとの連携が難しい」 ── こうした不満を抱えていた企業群が、 Snowflake のマルチワークロード並列性に乗り換え始めた。

2018 年、 Microsoft Azure 上での提供 を開始(それまで AWS 専用だった)、 翌年に Google Cloud にも対応。 マルチクラウド という設計上の決定的差別化が完成した。 顧客は「特定のクラウド プロバイダにロックインされない DWH」を初めて手にする。

2020 年 IPO ── 史上最大の SaaS IPO

2020 年 9 月 16 日、 Snowflake は NYSE に上場。 IPO 価格 120 ドルに対し初日終値は 253.93 ドル、 時価総額は約 700 億ドル に達した。 当時史上最大のソフトウェア IPO、 そして Berkshire Hathaway(Warren Buffett) と Salesforce Ventures が IPO 前に投資参加したことも話題になった ── 「Buffett はテック株を買わない」というジンクスが破られた。

CEO は Frank Slootman(元 ServiceNow CEO)。 創業者 Dageville は CTO に専念、 Slootman が事業拡大を担うという「設計者と経営者の役割分担」型のリーダーシップが奏功した形である。

2024 年現在 ── 売上 30 億ドル超、 AI 時代の DWH

2024 会計年度(FY2024、 2024 年 1 月期) の Snowflake の売上は約 30 億ドル、 成長率 36%。 顧客数約 1 万社、 売上 100 万ドル以上の顧客が 700 社超。 米国の大企業 Fortune 500 の 6 割超が Snowflake を採用しているとされる。

2023 年以降、 Snowflake は AI 機能の追加を急ぐ ── Snowpark(Python・Scala のデータ処理)、 Snowpark Container Services(任意のコンテナ実行)、 Cortex(LLM 推論を SQL から呼べる)、 Iceberg Tables(オープン テーブル フォーマット対応)。 競合 Databricks との「データウェアハウス vs データレイクハウス」の競争が、 2024-2025 年の業界最大の戦線となっている。

2014 年 10 月が意味するもの

Snowflake の GA は、 「クラウドネイティブ DWH」という設計様式そのものを完成形に持ち込んだ瞬間だった。 Redshift がオンプレ DWH をクラウドに移し替えたのに対し、 Snowflake は 「クラウド前提で再設計したらこうなる」 という解を提示した。 ストレージとコンピュートを完全分離するこの設計思想は、 後の Databricks、 ClickHouse Cloud、 Apache Iceberg を採用した OSS データプラットフォーム、 さらには OLTP 側の Aurora や Neon、 PlanetScale にまで波及している。

「DWH を時間借りする」を Redshift が始め、 「DWH を秒単位で借りる」を Snowflake が完成させた ── データ基盤がハードウェア発注から関数呼び出しに変わった 12 年間の、 一つの結節点である。

出典

  1. 二次資料Snowflake Inc. — Wikipedia

    取得日: 2026-05-25

  2. 一次資料Snowflake Annual Report FY2024 (Form 10-K)

    取得日: 2026-05-25

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