人物 :: PERSON

チャールズ・H・ベネット

1943年ニューヨーク市生まれのアメリカの物理学者。 Brandeis 大学で学士、 Harvard 大学で博士を取得し、 1970年代前半に IBM Research へ加わって以来、 50年以上を同社で過ごしている。 1973年に計算の論理的可逆性を示し、 情報を物理量として扱う系譜(Rolf Landauer)を継いだ。 1984年に Gilles Brassard と量子鍵配送プロトコル BB84 を発表、 1993年には量子テレポーテーション、 1996年にはエンタングルメント蒸留の共著者となる。 Wolf 賞(物理学)、 Breakthrough 賞、 Micius 量子賞などを経て、 2026年3月18日に2025年度 ACM A.M. チューリング賞を Brassard と共同受賞した。

IBM フェロー Charles H. Bennett のポートレート
出典IBM Research (Wikimedia Commons) · CC BY-SA 2.0 · Commons で見る

プロフィール

生年
1943
存命
存命
在世
1943–
関連事象
01
名称
ENCharles H. BennettJAチャールズ・H・ベネット

Charles H. Bennett(1943年 ── )は IBM Research の物理学者で、 Gilles Brassard とともに 2025年度の ACM A.M. チューリング賞を受けた。 経歴を一本の線で貫いているのは、 「情報とは物理的な量であって、 抽象物ではない」という主張である。 量子暗号も量子テレポーテーションも、 その主張を突き詰めた先に出てきた。

出発点 ── 化学から計算へ

1943年、 ニューヨーク市の音楽教師の家庭に生まれる。 Brandeis 大学で生化学を学び、 Harvard 大学で博士号を取得した。 IBM のニュースルームによれば、 学部時代に Gödel の不完全性定理に惹かれ、 それを分子の世界に写して「物理と計算の関係、 そして原理的に計算不可能な物理過程がありうるか」を考えるようになったという。

Harvard 時代に二つの出会いがある。 ひとつは研究物理学者 Stephen Wiesner で、 1968年に「偽造できない量子マネー」という構想を持っていたが学界に受け入れられずにいた。 Bennett はその概念を前へ進めるのを助け、 1970年の会話のメモの冒頭に quantum information theory と手書きして下線を引いている。 もうひとつは IBM フェローの物理学者 Rolf Landauer の講演で、 計算の熱力学 ── 情報は抽象物ではなく自然法則に支配される物理量である ── という論点だった。

IBM Research

Landauer に誘われて IBM に入った(ACM は1973年、 IBM 自身が公開する写真の説明文と Wikipedia は1972年としており、 資料により1年の揺れがある)。 以来、 ニューヨーク州ヨークタウンハイツの Thomas J. Watson 研究所を拠点に働き続けている。

1973年、 計算の論理的可逆性に関する論文を書く。 計算は必ずしもエネルギー散逸と結びついていない ── 多くの人が当然としていた前提を崩す結果で、 情報を物理的概念として確立する一歩となった。

本人が IBM を評した言葉はこうである。

IBM was an ideal place to do this kind of research because you had people working on the fundamental physics of computing and hardware, and in the same building people focused on the mathematics of computing. I could wander down the hall and talk to many people about fundamental ideas and in fields that, at that time, scarcely overlapped.

(訳: IBM はこの種の研究をするのに理想的な場所だった。 計算とハードウェアの基礎物理をやっている人がいて、 同じ建物に計算の数学に取り組む人がいる。 廊下を歩いていって、 当時はほとんど重なりのなかった分野の根本的な考えについて、 多くの人と話ができた。)

BB84 とその先

1979年、 プエルトリコで開かれた計算機科学の会議で Brassard と出会う。 1982年に Wiesner を交えて最初の量子暗号論文を共著し、 1984年に BB84 ── 量子鍵配送の最初の実用的プロトコル ── を発表した。 盗聴すれば必ず擾乱が残るという量子情報の性質を根拠に、 計算量の仮定を一切置かずに鍵共有の安全性を保証する。

1989年には、 当時サマースチューデントだった John Smolin とともに Bennett の執務室で長さ2メートルの装置を組み、 Brassard も加わって BB84 の最初の実演を行った。 動かすソフトウェアは Brassard と彼の学生が書いている。

1993年には量子テレポーテーションの論文、 1996年にはエンタングルメント蒸留。 いずれも「もつれは哲学的な珍奇ではなく、 使える資源である」という方向へ理論を押し出した仕事で、 現在の量子ネットワーク構想の土台になっている。

受賞と、 その後

Wolf 賞(物理学)、 Micius 量子賞、 BBVA Frontiers of Knowledge 賞(基礎科学)、 Breakthrough 賞(基礎物理学)。 米国科学アカデミー会員、 王立協会外国人会員。 そして2026年3月18日、 2025年度の A.M. チューリング賞。 IBM 所属の受賞者としては、 Backus・Iverson・Codd・Cocke・Brooks・Allen に続く7人目にあたる。 IBM は、 彼が賞金100万ドルのうち自分の取り分の一部を寄付する意向だとしている。

IBM Research のディレクターである Jay Gambetta の評はこうだ ── 多くの研究者が量子力学を「電子部品を小さくする際に解くべき問題」と見ていた時代に、 Bennett は同じ物理が「情報を処理し伝送する強力な新しい方法」になりうると見抜いた、 と。 40年後、 その見立てのほうが業界の前提になった。

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  1. 量子情報科学にチューリング賞 ── 2025年度を Bennett と Brassard が受賞

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