T1#market#regulation#security#energy

ビットコイン ── 「Satoshi Nakamoto」の論文と、信頼できる第三者のいない電子現金

ビットコインのロゴ ── オレンジの円に白い「B」の記号
出典Grayliptrot (Wikimedia Commons) · Public domain · Commons で見る ↗

メタデータ

日付
年代
2000s
Tier
T1
出典数
18
関連項目
01
Tags
#market#regulation#security#energy#japan

ビットコイン(Bitcoin) は、銀行などの仲介者を通さずに、オンラインの支払いを当事者どうしで直接やり取りするための電子現金の仕組みである。始まりは 2008年10月31日(米国東部時間)、「Satoshi Nakamoto」を名乗る人物が暗号技術のメーリングリストに投稿した論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」だった。Nakamoto の正体は今も分かっていない。

投稿の書き出しは "I've been working on a new electronic cash system that's fully peer-to-peer, with no trusted third party." である。信頼できる第三者を置かずに、完全に利用者どうし(P2P)で動く電子現金 ── それが論文の主張のすべてだった。

この記事は投資判断の材料を提供しない。価格の予想もしない。ここでは、論文が何を提案し、その後どんな出来事と制度がそれに続いたかを、出典の日付とともに並べる。

論文が解いた問題 ── 二重支払い

デジタルのデータは複製できる。電子現金で最も厄介なのは、同じお金を二度使う 二重支払い をどう防ぐかで、従来は銀行やカード会社といった中央の管理者がその役を担ってきた。論文は、ここに第三者を置く限り電子現金の主な利点は失われると書き、別の解き方を示した。

要素論文の説明
コインデジタル署名の連なりとして定義する。持ち主は、前の取引のハッシュと次の持ち主の公開鍵に署名して渡す
タイムスタンプ取引をまとめたブロックのハッシュを公開し、各ブロックが前のブロックのハッシュを含むことで鎖をつくる
proof-of-workハッシュが所定の数のゼロビットで始まる値になるまで、ブロック内の数(nonce)を変えて計算を繰り返す
最長の鎖最も多くの計算が投じられた鎖を正しい記録とみなす。正直なノードが計算能力の過半を握る限り、攻撃者は追いつけない
報酬ブロックの最初の取引で新しいコインを作り、ブロックを作った者のものにする

コインの署名には 公開鍵暗号 が使われる。その考え方の源流は1976年の New Directions in Cryptography にある。新しいコインを作る報酬について、論文は金の採掘者が資源を費やして金を流通に加えることになぞらえ、ビットコインの場合に費やされるのは CPU の時間と電力だと書いている。後に電力消費が論争になる種は、最初の論文の中にすでにあった。

2009年1月3日 ── 最初のブロック

ブロックチェーンの最初のブロック(ジェネシスブロック、高さ0)のタイムスタンプは、協定世界時で 2009年1月3日18時15分05秒 を指す。このブロックの最初の取引には、50ビットコインの報酬とともに、次の文字列が埋め込まれている。

"The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks"

英紙 The Times のその日の日付と見出しで、財務相が銀行への2度目の救済に踏み切る寸前だと伝えている。銀行に頼らない電子現金を掲げた仕組みの最初のブロックに、銀行救済の見出しが刻まれた。

2010年5月 ── ピザ2枚と1万ビットコイン

ビットコインが現実のものと交換された例として知られるのが、ピザである。2010年5月18日、ビットコインのフォーラムで利用者の laszlo が、大きなピザ2枚ほどに1万ビットコインを払うと書き込んだ。同じスレッドの別の利用者は、1万ビットコインはその時点で41ドルで売れると返している。4日後の5月22日、laszlo は "I just want to report that I successfully traded 10,000 bitcoins for pizza." と報告した。この日はのちに「ビットコイン・ピザ・デー」と呼ばれるようになった。

2014年 ── 東京の交換所 Mt. Gox

ビットコインを円やドルと交換する交換所は、利用者の資産を預かる。その預かり資産が失われた最大級の事件が、東京・渋谷に本社を置いた Mt. Gox(MtGox Co., Ltd.)である。

日付出来事(同社と管財人の発表から)
2014年2月上旬ビットコインのシステムのバグを悪用した不正アクセスで、不完全な送金取引が増加
2014年2月25日正午にサイトを閉鎖
2014年2月28日東京地裁に民事再生手続の開始を申し立て、同日受理。利用者分約75万、自社分約10万のビットコインが消えたと発表
2014年3月20日2011年6月以前に使っていた旧形式のウォレットに約20万ビットコインが残っていたと発表
2014年4月24日東京地裁が破産手続の開始を決定
2018年6月22日東京地裁が民事再生手続の開始を決定し、破産手続は中止

2月28日の発表で同社は、金融機関に預けている現金と利用者の預かり金にも約28億円の食い違いがあると述べ、第三者によるハッキングを含むさまざまな原因が考えられると書いた。民事再生ではその後、再生計画が認可され、弁済の手続が進んでいる。管財人のサイトは、弁済の期限を2026年10月31日から2027年10月31日に延ばしたと告知している。

日本の制度 ── 2017年4月の登録制

日本はこの事件の後、交換所を法律の枠に入れた。「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」は2016年5月25日に成立し、改正資金決済法のもとで、関係する政令・内閣府令とともに 2017年4月1日 に施行された。金融庁は、この日から国内で仮想通貨と法定通貨を交換するサービスを営むには登録が必要になったと説明している。2020年5月1日施行の改正で、法令上の呼び名は「仮想通貨」から「暗号資産」に変わった。

犯罪と破綻

ビットコインの取引記録は公開されているが、アドレスは実名と結びついていない。この性質は犯罪にも使われてきた。2017年のランサムウェア WannaCry は、身代金をビットコインで要求した。

交換所の破綻は Mt. Gox で終わらなかった。米国の証券取引委員会(SEC)は2022年12月13日、暗号資産交換所 FTX の CEO だった Samuel Bankman-Fried を、顧客の資金を自身の取引会社 Alameda Research に流用していたことを投資家に隠していたとして訴えた。SEC によれば、FTX は投資家から18億ドル超を調達していた。FTX はこれに先立つ2022年11月に破産を申し立て、Bankman-Fried は2023年11月2日に詐欺などで有罪となり、2024年3月に禁錮25年を言い渡された。

2024年1月 ── 米国の現物 ETP

2024年1月10日、SEC は現物のビットコインを保有する上場投資商品(ETP)の上場と売買を承認した。Gary Gensler 委員長の声明によれば、SEC は2018年から2023年3月までに同種の申請を20件以上退けてきたが、Grayscale の申請を退けた決定を連邦控訴裁判所が取り消したことなどを受けて、承認が最も持続可能な道だと判断した。声明はまた、ビットコインを主に投機的で変動の大きい資産だとし、"we did not approve or endorse bitcoin." と書いている。承認したのは商品の上場であって、ビットコインそのものではない、ということである。

エルサルバドル ── 法定通貨の実験

中米のエルサルバドルは2021年9月7日にビットコイン法を施行し、ビットコインを法定通貨とした。民間の事業者には受け入れを義務づけた。その後、国際通貨基金(IMF)は2024年12月18日、エルサルバドルと約14億ドル・40か月の拡大信用供与措置について事務レベルで合意したと発表した。発表は "Legal reforms will make acceptance of Bitcoin by the private sector voluntary." と書き、税金の支払いは米ドルに限り、政府の暗号資産ウォレット Chivo への関与を段階的に解消するとしている。Wikipedia は、2025年に法定通貨としての扱いが取り消されたと記述している。

電力消費

proof-of-work は計算に電力を使う。その量の推計を続けてきたのがケンブリッジ大学のオルタナティブ・ファイナンス・センター(CCAF)である。CCAF が2025年4月28日に公表した報告の数字は次のとおり。

項目推計値(CCAF、2025年4月28日)
年間電力消費約138TWh(世界の電力消費の約0.5%)
年間排出量3,980万トン(CO2換算)
持続可能なエネルギーの比率52.4%(原子力9.8%、再生可能エネルギー42.6%)
最大の単一エネルギー源天然ガス38.2%(石炭は8.9%)
国別の採掘シェア米国75.4%、カナダ7.1%

この推計は、採掘事業者49社への調査で報告された、世界の採掘活動の48%にあたるデータに基づく。電力の量と環境への影響は同じではなく、どの電源を使うかで排出量は変わる。

その後に残したもの

ビットコインの論文が示した、計算量で守られた公開の記録という仕組みは、通貨以外にも使えると考える人々を生んだ。そのひとつが、プログラムを記録の上で動かすことを目指した イーサリアム である。ネットの上で価値をやり取りする仕組みの流れは インターネットとWebの年表 にある。

よくある質問

ビットコインはいつ、誰が作ったのですか。
2008年10月31日、「Satoshi Nakamoto」を名乗る人物が暗号技術のメーリングリストに論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」を投稿したのが始まりです。最初のブロックは2009年1月3日に生成されました。Nakamoto の正体は分かっていません。
ビットコイン・ピザ・デーとは何ですか。
2010年5月22日、フォーラム利用者の Laszlo が、1万ビットコインとピザを交換できたと報告した日です。彼は5月18日に、ピザ2枚に1万ビットコインを払うと書き込んでいました。
Mt. Gox 事件とは何ですか。
東京・渋谷のビットコイン交換所 Mt. Gox が、2014年2月28日に東京地裁へ民事再生を申し立てた事件です。同社は利用者分約75万、自社分約10万のビットコインが消えたと発表しました。4月24日に破産手続が始まり、2018年6月22日に民事再生手続へ移っています。
ビットコインはどれくらい電力を使っているのですか。
ケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンス・センターが2025年4月28日に公表した報告は、年間約138TWh、世界の電力消費の約0.5%と推計しています。採掘事業者49社への調査に基づき、持続可能なエネルギーの比率は52.4%でした。

出典

  1. 一次資料Block 0 (genesis block), raw block data — Blockchain.com

    タイムスタンプ 1231006505(2009年1月3日 18:15:05 UTC)、高さ0、コインベースの文字列と報酬50 BTC

    取得日: 2026-10-24

  2. 一次資料MTGOX 再生管財人 ホームページ(民事再生手続開始決定のお知らせ、弁済期限日の変更に関するお知らせ ほか)

    2018年6月22日の民事再生手続開始決定、弁済期限日を2026年10月31日から2027年10月31日へ変更

    取得日: 2026-10-24

  3. 三次資料Bitcoin — Wikipedia

    取得日: 2026-10-24

  4. 三次資料Bitcoin in El Salvador — Wikipedia

    取得日: 2026-10-24

  5. 三次資料Bankruptcy of FTX — Wikipedia

    取得日: 2026-10-24

最終更新:

共有