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Winny ── 金子勇のファイル共有ソフトと7年の裁判
メタデータ
- 日付
- 年代
- 2000s
- Tier
- T1
- 参照年表
- インターネットとWebの歴史 · サイバーセキュリティの歴史
- 出典数
- 07
- 関連項目
- 00
- Tags
- #japan#regulation#security
Winny(ウィニー) は、東京大学の助手だった 金子勇 が開発した日本のファイル共有ソフトである。最高裁判所の決定が認定した事実によれば、金子は2002年4月1日に開発に着手し、2002年5月6日、自分で開設したウェブサイトで最初の試用版を公開した。中央のサーバを介さずに利用者のコンピュータ同士がつながる P2P 技術を使い、誰が情報を発信したかを分かりにくくする匿名性を備えていた。Winny は匿名掲示板「2ちゃんねる」から生まれたソフトとして知られ、開発者は掲示板で「47氏」と呼ばれた。
Winny はその後、二つの社会問題の中心になった。映画やゲームの違法な流通と、ウイルスによる大量の情報流出である。金子は2004年に逮捕され、7年あまりの裁判を経て、2011年12月19日に最高裁で無罪が確定した。
開発の経過
| 日付 | 出来事(最高裁の決定の認定事実から) |
|---|---|
| 2002年4月1日 | 開発に着手 |
| 2002年5月6日 | 自分のウェブサイトで最初の試用版を公開 |
| 2002年12月30日 | 正式版 Winny 1.00 を公開 |
| 2003年4月5日 | Winny 1.14 を公開し、ファイル共有ソフトとしての Winny1 に一区切り |
| 2003年4月9日 | P2P による大規模な電子掲示板を目指す Winny2 の開発に着手 |
| 2003年5月5日 | Winny2 の最初の試用版を公開 |
| 2003年9月 | Winny2.0β6.47、β6.6 を公開 |
最高裁は、開発の目的を、匿名性と効率性を兼ね備えた新しいファイル共有ソフトが実際に動くかどうかの技術的な検証だったと認定している。Winny は匿名性機能のほか、クラスタ化、多重ダウンロード、自動ダウンロードといった、ファイルを効率よく探して送受信する機能を持っていた。決定は、Winny それ自体は多様な情報の交換を通信の秘密を保ちながら効率的に行えるソフトで、さまざまな分野に応用できる一方、著作権を侵害する形で使うこともできる、と書いている。
金子は公開にあたり、ウェブサイトに「これらのソフトにより違法なファイルをやり取りしないようお願いします。」という注意書きを付けていた。
逮捕と起訴
2003年9月、2人の利用者が Winny2 を使い、ゲームソフト25本と映画2本を、インターネットの誰もが受け取れる状態に置いた。2人は2003年11月に京都府警に逮捕され、有罪となった。
京都府警は2004年5月10日、Winny の開発者である東京大学の助手を著作権法違反幇助の疑いで逮捕した。府警は、2ちゃんねるなどに書かれていた Winny の開発意図から幇助の疑いを適用したと説明している。利用者が違法に使ったことで、ソフトの開発者まで罰することができるのか ── それがこの裁判の争点になった。
三審の判断
| 裁判所 | 日付 | 判断 |
|---|---|---|
| 京都地方裁判所 | 2006年12月13日 | 有罪、罰金150万円 |
| 大阪高等裁判所 | 2009年10月8日 | 逆転無罪 |
| 最高裁判所第三小法廷 | 2011年12月19日 | 検察の上告を棄却し、無罪が確定 |
一審の京都地裁は、技術そのものは価値中立的だとしつつ、Winny が著作権侵害に広く使われている現実を金子が認識し、それを認容しながら公開したとして、幇助犯の成立を認めた。
二審の大阪高裁は、ソフトの提供者が幇助犯になるには利用状況を認識しているだけでは足りず、ソフトの主な用途として違法行為を勧める形で提供していることが必要だとして、無罪とした。
最高裁は、違法な使用を勧めて提供した場合に限るという大阪高裁の基準を、刑法62条の解釈を誤ったものだと退けた。一方で、ソフトの開発に過度の萎縮効果を生じさせないため、他人の著作権侵害に使われる一般的な可能性を認識していたというだけでは幇助にあたらないとした。そして、入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が著作権侵害に使う蓋然性が高く、提供者もそれを認識・認容していた場合に限って幇助になるという基準を示した。
決定は、Winny のネットワークを流れるファイルの4割程度が許諾のない著作物と推測されるという証拠に触れつつ、金子が注意書きや開発スレッドへの書き込みで常に違法な利用をしないよう警告していたことなどから、そこまでの認識・認容は認められないとして、結論として無罪を維持した。
5人の裁判官のうち、大谷剛彦裁判官は反対意見を書いた。同じ4割程度という数字などから侵害的な利用の高度の蓋然性は認められるとして、幇助犯が成立すると考えたのである。
無罪確定を受けた翌20日の会見で、金子は「私は、今回の事件で開発を躊躇する多くの技術者のために訴訟活動をしてきました。」とする声明を出した。弁護団長の桂充弘弁護士は、2004年の逮捕から7年以上の期間は、金子だけでなく日本のソフトウェア技術者にとって非常に大きな損失だったと述べている。
Antinny と情報流出
裁判と並行して、Winny は別の問題でも知られるようになった。Winny を通じて広がるウイルス「Antinny」による情報流出である。大量の個人情報や企業内の情報が流出し、社会問題になった。
2006年3月15日、安倍晋三官房長官は会見で「情報漏洩を防ぐ最も確実な対策は、PCでWinnyを使わないことです。」と述べ、国民に異例の呼びかけを行った。内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)も、Winny で入手したファイルは誰がいつどこで作ったか分からない信頼できないもので、Antinny を紛れ込ませるのは簡単だと注意を呼びかけた。Antinny の多くは OS の脆弱性と関係なく感染し、最新のウイルス対策ソフトが対応していない亜種も多かったため、NISC は確実に感染していないと言うには OS をクリーンインストールする必要があるとまで書いている。
NISC は、Antinny のようなウイルスは Winny 以外のファイル交換ソフトやメールの添付ファイル、Web サイトの閲覧でも感染しうるとしたうえで、流出事例が多発している Winny について特に警告したと説明している。
その後
金子勇は無罪確定から1年半後の2013年7月6日、急性心筋梗塞のため亡くなった。
開発したソフトが違法に使われたとき、開発者はどこまで責任を問われるのか。INTERNET Watch は、Winny の裁判をその問いに初めて司法の判断が下された事件と位置づけている。ファイル共有の技術的な系譜は インターネットとウェブの年表 に、ウイルスと情報流出の流れは サイバーセキュリティの年表 にある。同じ時期のメール型ワームについては ILOVEYOU を参照。
よくある質問
- Winny とは何ですか。
- 東京大学助手だった金子勇が開発した日本のファイル共有ソフトです。中央のサーバを介さずに利用者のコンピュータ同士がつながる P2P 技術を使い、誰が情報を発信したかを分かりにくくする匿名性を備えていました。最高裁の認定では、2002年5月6日に最初の試用版が公開されました。
- 金子勇はなぜ逮捕され、なぜ無罪になったのですか。
- Winny の利用者がゲームや映画を違法に公開したことについて、2004年5月10日に著作権法違反幇助の疑いで京都府警に逮捕されました。一審は罰金150万円の有罪でしたが、最高裁は、入手者のうち例外的とはいえない範囲の者が侵害に使う蓋然性が高く、提供者もそれを認識・認容していた場合に限り幇助になるとし、利用者に常に警告していた金子にはそこまでの認識は認められないとして、2011年12月19日に無罪を確定させました。
- Antinny とは何ですか。
- Winny を通じて広がったウイルスで、大量の個人情報や企業内の情報の流出を引き起こしました。2006年3月15日には安倍晋三官房長官が、情報漏洩を防ぐ最も確実な対策は Winny を使わないことだと国民に呼びかけています。
出典
一次資料最高裁判所第三小法廷 平成23年12月19日決定 平成21(あ)1900 著作権法違反幇助被告事件 — 裁判所
開発と公開の日付、Winny の機能、正犯者2名の行為、一審・二審の判断、多数意見の基準、4割程度という推測、大谷剛彦裁判官の反対意見
二次資料「Winny」開発者の無罪確定へ、最高裁が検察側の上告を棄却 — INTERNET Watch, 2011年12月20日
2003年11月の利用者逮捕、一審・二審の内容、金子と弁護団の声明
二次資料【今日は何の日】5月10日:Winny開発者が逮捕された日 — INTERNET Watch
2ちゃんねる発祥、「47氏」、2013年7月6日の逝去
最終更新: