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AI 推進法の成立 ── 罰則なき「推進法」と AI 戦略本部

国会議事堂の参議院本会議場。議席と傍聴席、天井の採光窓
出典Kestrel (Wikimedia Commons) · CC BY-SA 4.0 · Commons で見る ↗

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日付
年代
2020s
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T1
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AI 推進法(正式名称「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、令和7年法律第53号)は、日本で初めて AI を正面から扱った法律である。2025年5月28日に参議院本会議で可決・成立し、6月4日に公布・一部施行された。人工知能基本計画と人工知能戦略本部(AI 戦略本部)に関する規定を含めて全面施行されたのは9月1日である。内閣府は「AI 法」と略している。

この法律の特徴は、罰則を持たない推進法であることだ。目的はあくまで研究開発と活用の推進で、リスクへの対応は、国が指針を作り、権利侵害の事案を調べ、事業者に指導・助言する形で行う。違反に制裁金を科す EU の AI Act とは、法の組み立てが根本から違う。

成立までの経過

参議院の議案情報によると、経過は次のとおりである。

日付出来事
2025年2月28日内閣が法律案を国会に提出(閣法第29号)
2025年4月18日衆議院内閣委員会で可決
2025年4月24日衆議院本会議で可決(起立採決・多数)
2025年5月27日参議院内閣委員会で可決
2025年5月28日参議院本会議で可決・成立(押しボタン採決・多数)
2025年6月4日公布・一部施行
2025年9月1日全面施行(基本計画と戦略本部の規定を含む)
2025年9月12日AI 戦略本部が初会合
2025年12月19日AI 戦略本部が「AI 指針」(適正性確保に関する指針)を決定
2025年12月23日初の人工知能基本計画を閣議決定
2026年7月14日第2期の人工知能基本計画を閣議決定

衆参両院の委員会は、法案に附帯決議を付けている。

法律の構成

法律は4章28条と附則からなる。

章条主な内容
第1章 総則第1〜10条目的、定義、基本理念、国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者・国民の責務
第2章 基本的施策第11〜17条研究開発の推進、計算資源やデータセットの整備と共用、適正性の確保、人材、教育、調査研究、国際協力
第3章 人工知能基本計画第18条政府が基本計画を定め、閣議決定する
第4章 人工知能戦略本部第19〜28条内閣に本部を置き、本部長は内閣総理大臣

第1条は、AI 関連技術を「我が国の経済社会の発展の基盤となる技術」と位置づけ、国民生活の向上と国民経済の健全な発展を目的に掲げる。第3条の基本理念は、行政と民間の効率化や新産業の創出に加えて安全保障上の重要性を挙げ、国内で研究開発の能力を保ち、産業の国際競争力を高めることを旨とする。そのうえで同条第4項は、不正な目的や不適切な方法で使われれば、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害などで国民の権利利益が害されるおそれがあるとして、透明性の確保などの施策を講じなければならないとした。

リスクへの対応 ── 指針、調査、指導・助言

法律の中でリスクに対応する手段は、主に2つの条文にある。

  • 第13条(適正性の確保):国は、研究開発と活用の適正な実施のため、「国際的な規範の趣旨に即した指針」の整備などを行う。これに基づき、AI 戦略本部は2025年12月19日に AI 指針を決定した。国際的な規範には、日本が主導した G7 の 広島 AI プロセス の行動規範などが含まれる。
  • 第16条(調査研究等):国は、不正な目的や不適切な方法による AI の研究開発・活用で国民の権利利益の侵害が生じた事案を分析し、その結果に基づいて、研究開発機関や活用事業者に指導、助言、情報提供などを行う。

事業者の側では、AI を事業に使う「活用事業者」が、国と地方公共団体の施策に「協力しなければならない」と定められた。研究開発機関と国民は協力に「努める」ものとされ、書き分けがある。ただし、協力しなかった場合の罰則はない。

AI 戦略本部と基本計画

AI 戦略本部は内閣に置かれ、本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官と AI 戦略担当大臣、本部員は他のすべての国務大臣である。全閣僚が加わる組織にしたことで、AI 政策を省庁ごとではなく政府全体で進める形をとった。

2025年12月23日に閣議決定された初の人工知能基本計画は、信頼できる AI を軸に日本の再起動をめざし、世界で最も AI を開発・活用しやすい国になることを目標に掲げた(英訳では the most AI-friendly country in the world)。3つの原則(リスク対応とイノベーション促進の両立、アジャイルな対応、内外一体の政策)と、4つの基本方針(AI を使う、AI を創る、AI の信頼性を高める、AI と協働する)からなる。安全面では、政府の AI セーフティ・インスティテュート(AISI)の体制を直ちに現在の約2倍に増やし、英国の AI Security Institute(約200人)の規模を目安にするとした。2026年7月14日には第2期の計画が閣議決定されている。

EU AI Act との違い

観点日本の AI 推進法EU AI Act
法の性格推進のための基本法製品安全型の規制法
罰則なし違反に制裁金(詳細は EU AI Act の記事)
リスクへの対応指針、事案の調査、指導・助言リスクの段階に応じた禁止と義務
推進の体制全閣僚の AI 戦略本部と基本計画欧州委員会の AI Office など

賛否

国会審議では、規制が足りないという批判があった。しんぶん赤旗によると、日本共産党の塩川鉄也議員は2025年4月の衆議院内閣委員会で、意識調査では77%が AI に規制が必要と答えているとして、リスクに応じた法規制や権利保護の強化を求めた。

成立後も、罰則のなさは論点として残った。Asia News Network の2026年4月の報道によると、自民党の AI・Web3 小委員会(委員長・平将明元デジタル大臣)は、政府の報告要請に応じない悪質な事業者への罰則を含む措置を検討するよう求める提言案をまとめた。生成 AI による著作権侵害やディープフェイクの被害が顕在化しているとして、現行法では有効な手段が限られていると指摘し、罰則がなければ他国が得られる情報を日本は得られないおそれがあるとも書いた。海外の生成 AI サービスで日本のアニメや漫画のキャラクターに酷似した画像・動画が無断で作られている問題にも触れている。

一方、法律の附則第2条は、国際的な動向や社会経済情勢の変化を踏まえて施行状況を検討し、必要なら措置を講ずると定めており、見直しの余地は条文に組み込まれている。

社会への影響

この法律で最も直接に変わったのは政府の側である。第4条第2項は、国の行政機関で AI を積極的に活用することを国の責務とした。企業にとっては、新たな義務や罰則は生じない代わりに、国の施策への協力義務と、権利侵害の事案で指導・助言を受けうる立場が明文化された。

個人の側から見ると、AI による権利侵害を受けた人が直接使える救済の仕組みは、この法律にはない。対応は、個人情報保護法や著作権法など既存の法律と、第16条に基づく国の調査・指導に委ねられている。働く人については、基本計画が「AI と協働する」を方針の1つに掲げ、産業や雇用構造の転換と人材育成を進めるとしたが、具体策は計画の更新の中で詰められることになる。罰則より推進を先に置いたこの選択が、利用の拡大と被害の抑止を両立できるかは、指針の運用と見直しの議論に懸かっている。

関連する流れは AI の年表 にある。

よくある質問

AI 推進法はいつ成立・施行されたのですか。
2025年5月28日に参議院本会議で可決・成立し、6月4日に公布・一部施行されました。人工知能基本計画と AI 戦略本部に関する規定を含めて全面施行されたのは9月1日です。
AI 推進法に罰則はありますか。
ありません。リスクには、国際的な規範に即した指針の整備(第13条)と、権利侵害が生じた事案の分析に基づく事業者への指導・助言(第16条)で対応します。2026年には与党の小委員会が罰則を含む措置の検討を求める提言案をまとめたと報じられました。
AI 戦略本部とは何ですか。
AI 推進法に基づいて内閣に置かれた組織で、本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官と AI 戦略担当大臣、本部員は他のすべての国務大臣です。人工知能基本計画の案を作ります。初会合は2025年9月12日でした。
EU の AI Act とは何が違うのですか。
EU の AI Act はリスクの段階に応じた禁止と義務を定め、違反に制裁金を科す規制法です。日本の AI 推進法は研究開発と活用を推進する基本法で、罰則を持たず、指針と指導・助言でリスクに対応します。

出典

  1. 一次資料人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和七年法律第五十三号)— e-Gov 法令検索

    法律の全文(第1〜28条と附則)。目的、基本理念第3条第4項、活用事業者の責務、第13条、第16条、戦略本部の構成、施行期日と検討条項

    取得日: 2026-10-17

  2. 一次資料人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案 — 参議院 議案情報(第217回国会 閣法第29号)

    提出2025年2月28日、衆議院本会議4月24日可決、参議院内閣委員会5月27日・本会議5月28日可決、公布6月4日、法律番号53

    取得日: 2026-10-17

  3. 一次資料人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)— 内閣府

    6月4日公布・一部施行、9月1日全面施行

    取得日: 2026-10-17

  4. 一次資料Artificial Intelligence Basic Plan (Provisional translation) — Cabinet Office, Dec 23, 2025

    3つの原則と4つの基本方針、AISI の体制を約2倍に(英国の約200人を目安)

    取得日: 2026-10-17

  5. 一次資料人工知能戦略本部 — 内閣府

    取得日: 2026-10-17

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