人物 :: PERSON
ブレンダン・アイク
JavaScript の作者(1995年)。Netscape、Mozilla で勤務し、Mozilla の CTO、短期間 CEO(2014年)も務めた。Mozilla 退社後の2016年、プライバシー重視のブラウザ Brave と、それに付随する Basic Attention Token を立ち上げて Brave Software の CEO に就任。

プロフィール
- 生年
- 1961
- 存命
- 存命
- 在世
- 65 年
- 関連事象
- 01
- 名称
- ENBrendan EichJAブレンダン・アイク
ブレンダン・アイク
ブレンダン・アイク(Brendan Eich、 1961年7月4日生)は、 JavaScript を1995年に Netscape で実装した米国の計算機科学者である。 「10日間で書き上げた」 という有名な逸話の通り、 当時 Netscape Navigator 2.0 のリリース納期に追われて極めて短期間で言語の試作を仕上げた。 その後 Mozilla の共同創業者、 同社 CTO、 そして2014年には短期間 CEO を務めたが、 政治献金をめぐる論争の末11日で辞任。 2016年に privacy 重視のブラウザ Brave と Basic Attention Token(BAT)を立ち上げ、 Brave Software の CEO として現在に至る。
経歴
アイクは1961年7月4日、 米国カリフォルニア州ピッツバーグ(東湾の小都市、 ペンシルベニア州の方ではない)に生まれた。 サンタクララ大学で数学と計算機科学を学び(学士、 1983年)、 続いてイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で計算機科学修士号(1986年)を取得した。
修了後 Silicon Graphics(SGI)に7年間在籍し、 IRIX のカーネルとネットワーキング層を担当。 1992年に MicroUnity に移り、 並列マルチメディアプロセッサのコンパイラ作業に従事した。 1995年4月、 Netscape Communications Corporation に入社する。 入社時の正式な肩書は「Server Engineer」 だったが、 数週間後には新興 Web ブラウザ Netscape Navigator のスクリプト言語実装担当に異動になっていた。
主な業績
JavaScript(1995-)
1995年5月、 Netscape の経営陣は「Java の人気に乗るために、 ブラウザに組み込む軽量スクリプト言語が必要だ」 と決定した。 Sun Microsystems と提携して Java を Navigator に組み込む計画と並行して、 Java ではない別の「Scheme のような小さな動的言語」 を試作するよう、 アイクに命じた。
アイクは JavaScript の最初の動作するインタプリタを「Mocha」 のコードネームで10日間で実装した、 と後年繰り返し述べている。 この10日間が、 結果として21世紀の Web プラットフォーム全体に関数オブジェクト、 第一級クロージャ、 プロトタイプベースのオブジェクト指向(Self 由来)、 動的型付け、 そして数々の意図せざる罠(null と undefined の二重存在、 == と === の区別、 typeof null === "object" の歴史的バグなど)を残すことになる。
1995年12月にリリースされた Netscape Navigator 2.0 で LiveScript として、 同月のリリース直後に Java の人気便乗マーケティング上の判断で JavaScript に改名された。 これは Java とは技術的にほぼ無関係であり、 アイク自身も繰り返し「JavaScript と Java は、 Car と Carpet ぐらい関係がない」 と発言している。
1996年から1997年にかけて、 JavaScript は欧州標準化機関 Ecma International の TC39 で標準化作業に入り、 ECMA-262 第1版(1997年)として ECMAScript の名で公式化された。 アイクは TC39 に Mozilla 代表として現在も参加しており、 ECMAScript 6(2015年)以降の毎年版(ES2016 から ES2025)の仕様作成にも関与している。
Mozilla と Firefox(1998-2014年)
1998年、 Netscape はソースコードを mozilla.org として公開し、 翌1999年に AOL に買収された。 アイクは Mozilla プロジェクトの設立者の一人であり、 Mozilla Foundation(2003年設立)の創設メンバー、 そして2005年から Mozilla Corporation の CTO を務めた。
Firefox(当初は Phoenix、 のち Firebird、 2004年に Firefox)は、 Microsoft Internet Explorer の市場独占に対する効果的な対抗ブラウザとして、 2000年代後半に世界シェア30%超まで成長した。 アイクは Firefox の SpiderMonkey JavaScript エンジン、 そして後の TraceMonkey、 IonMonkey、 JägerMonkey といった JIT コンパイラの技術指揮を取った。
Mozilla CEO 就任と即時辞任(2014年)
2014年3月24日、 Mozilla Corporation の取締役会はアイクを CEO に任命した。 直後、 2008年のカリフォルニア州 Proposition 8(同性婚禁止憲法修正案)に対しアイクが1,000ドルを個人献金していた事実が、 LA Times 紙のデータ公開から再注目された。 OkCupid を含む複数のソフトウェア企業、 そして Mozilla 社内の一部スタッフから、 CEO 辞任を求める公開圧力が強まった。
アイクは CEO 就任から11日後の4月3日に辞任。 Mozilla の声明は「我々は包摂と機会の平等を実践しようとしたが、 失敗した」 と表現した。 アイク自身はその後のインタビューで、 「私の私的な政治献金が、 私の技術的・経営的判断と切り離せると見做されなかったことに失望した」 と述べている。 この事件は、 シリコンバレーにおける「社員の私的政治信条と職務の分離」 をめぐる議論のひとつの分岐点として、 今もしばしば参照される。
Brave Software と Basic Attention Token(2016-)
2015年、 アイクは Brian Bondy(元 Mozilla)と共に Brave Software を共同創業。 2016年1月に同名の Chromium ベース・プライバシー重視ブラウザ Brave の最初のベータ版を公開した。 設計上の中核は「デフォルトで広告・トラッカーを遮断する」 ことで、 これは Mozilla 時代のアイクが提唱していた Do Not Track の延長線上にある。
2017年5月、 Brave Software は ICO(Initial Coin Offering)で Basic Attention Token(BAT、 ERC-20 トークン)を3,500万ドル相当発行し、 30秒で完売した。 BAT の構想は、 「広告主はユーザの注意(attention)に対して BAT で支払い、 ユーザは見たい広告を選び、 その対価を直接受け取る」 という、 Google を含む現行のアドテック市場への直接的な対案である。
2024年から2025年にかけて、 Brave は AI アシスタント Leo を本格展開している。 2025年11月には NEAR.AI と Nvidia の Trusted Execution Environment(TEE)を組み合わせた「検証可能なプライバシー」 機能を Brave Nightly 版で公開、 DeepSeek V3.1 をローカル類似環境で実行できる方式を試験している。 また Skills(ユーザ作成のプロンプト・テンプレート)と実験的な agentic AI モード(リサーチや価格比較の自動実行)も2025年に追加された。
受賞・栄誉
アイクは大手の学術賞を受賞していないが、 業界からの評価としては:
- 2018年 ── Web Summit Award for Achievement in Web Technology
- W3C TAG(Technical Architecture Group)メンバー(短期)
ACM チューリング賞は受賞していない。
現在の活動
アイクは現在も Brave Software の CEO 兼共同創業者として、 サンフランシスコを拠点に勤務している。 暗号通貨・Web3 領域では、 2024年に Brave Wallet が Bitcoin、 Ethereum、 Solana、 Avalanche、 Cardano 等の主要チェーンに対応する形に拡張された。 アイク本人は2025年の Blockworks Permissionless カンファレンスで「我々は JavaScript 上で進化した big tech の監視権力に対する、 形而上学的反乱(metaphysical rebellion)にある」 と発言し、 Brave のアイデンティティを Mozilla 後期からのプライバシー擁護の延長として位置付けている。
Twitter / X では @BrendanEich として現在もアクティブで、 暗号通貨・自由主義・Web 標準について発信を続けている。 ECMAScript の TC39 にも継続的に参加している。
影響
アイクの技術的遺産は、 単純である:JavaScript を書いた。 そして JavaScript はその粗雑な初期設計にもかかわらず ── あるいは、 その粗雑さの寛容性ゆえに ── Web の事実上の唯一のクライアント側言語となった。 Node.js(2009年)以降はサーバ側でも、 React、 Electron、 そして WebAssembly のホスト環境としても、 JavaScript/TypeScript の存在感は2026年現在も拡大している。
政治的遺産はより複雑である。 2014年の CEO 辞任は、 IT 業界における「会社の文化的価値観と従業員の私的信条の関係」 という、 答えのない問いを公衆の場に投げ出した最初の大きな事例だった。 アイクはこの経験を通じて「企業に依存しない自律的なプロダクト」 という方向に明確に転じ、 Brave と BAT はその転回の産物である。 結果として、 一人の技術者が同じ Web プラットフォームに対して、 1990年代には基幹技術として、 2010年代以降は批判的代替案として、 二度根本的な影響を与えた稀有な経歴を持つに至っている。
関連する出来事
- 1995年12月JavaScript 公開 ── 10日で設計された言語Netscape の Brendan Eich が、ブラウザ内で動く軽量スクリプト言語を10日で設計した。当初の名前は Mocha、次に LiveScript、最終的に Java の知名度に便乗する形で JavaScript と命名された。皮肉にも、Java とは設計思想がほぼ無関係。長く「玩具」扱いされたが、2009年の V8 エンジン、Node.js による server-side 進出、React/Vue/Angular による UI フレームワーク発展を経て、世界で最も広く書かれる言語の一つになった。