2020年11月10日T1
Xbox Series X/S 発売
Microsoft が高性能版 Xbox Series X(499ドル)と廉価デジタル版 Xbox Series S(299ドル)の二機種同時発売。 AMD Zen 2 / RDNA 2 ベースの設計は PS5 と類似。 Quick Resume(複数ゲーム同時サスペンド)、 Smart Delivery(世代間の自動最適化)などを差別化。 サブスクリプション Game Pass(クラウドゲーミング含む)を主軸戦略に置き、 「ハード本体ではなくサービスで囲い込む」構造を強化。 2023年の Activision Blizzard 買収(687億ドル)と合わせ、 ハード販売台数では PS5 に遅れつつ、 IP とサブスクリプションで対抗する路線が定着した。

メタデータ
- 日付
- 2020年11月10日
- 年代
- 2020s
- Tier
- T1
- 参照年表
- ゲーム機・ゲーム技術の歴史
- 出典数
- 06
- 関連項目
- 01
Xbox Series X/S 発売 ── 二機種戦略から「ハードを売らない Xbox」へ
2020年11月10日、 Microsoft は Xbox Series X(499ドル)と Xbox Series S(299ドル)を世界同時発売した。 高性能版と廉価デジタル版の二機種同時投入は家庭用機の歴史で初めての試みで、 PS5 発売の2日前という日程設定にも勝負の意思が表れていた。
しかしこの世代の Xbox の物語は、 ハード販売台数で敗れたあとに、 「Xbox という概念」自体を再定義することで続いていく。
二機種戦略と Game Pass
Xbox Series X は AMD Zen 2 / RDNA 2 ベース、 GPU 12 TFLOPS、 内蔵 NVMe SSD 1TB ── 数字の上では PS5 を上回るスペックだった。 一方の Series S は GPU 4 TFLOPS、 内蔵 512GB、 1440p ターゲットの廉価モデル。 「予算別に入口を二つ用意する」という戦略。
両機種を貫いていたのが Game Pass(月額サブスクで100本超の作品が遊び放題)。 ハード本体はサービスへの入口にすぎず、 利益は月額課金から取る ── Spotify や Netflix の論理を家庭用機に持ち込んだ最初の本格的試みだった。 Quick Resume(複数ゲームを同時にサスペンド可能)、 Smart Delivery(世代間で最適バイナリを自動配信)、 そして xCloud によるクラウド配信。 ハードに縛られないゲーム体験を目指していた。
Activision Blizzard 買収 ── 687億ドルの賭け
2022年1月、 Microsoft は Activision Blizzard を 687億ドルで買収すると発表。 テック史上最大級の M&A は、 米 FTC・英 CMA・EU の競争当局による厳しい審査を受け、 21ヶ月の係争を経て 2023年10月13日に最終クローズ。 Call of Duty、 World of Warcraft、 Diablo、 Overwatch、 Candy Crush ── Microsoft は IP 帝国を獲得した。
この買収を Phil Spencer(Microsoft Gaming CEO) は「ハードで勝てない以上、 IP とサブスクリプションで勝つ」という戦略の決定打と位置づけた。 だが買収のクロージング直後から、 別の事実が業界に走った ── Microsoft は、 これらの IP を Xbox の独占に縛るつもりがなかった。
2024年のマルチプラットフォーム転換
2024年2月、 Phil Spencer は記者会見で **「Hi-Fi Rush、 Pentiment、 Sea of Thieves、 Grounded を PS5 と Switch に移植する」**と発表した。 ファーストパーティ独占主義からの公式撤退。
理由は明白だった。 業界推計で Xbox Series X/S 累計2800万台に対し、 PS5 約6000万台 ── ハード設置数で2倍以上の差をつけられた以上、 IP 収益を最大化するなら他社プラットフォームを無視できない。
結果は割れた。 Sea of Thieves は PS5 で100万本以上を売り上げ、 大手ライブサービスとして第二の春を迎えた。 一方の Hi-Fi Rush は批評的成功にもかかわらず PS5 での販売は限定的(推定13万本)に終わり、 開発元 Tango Gameworks は2024年5月に閉鎖された(後に Krafton が IP 取得・スタジオ復活)。 続く Indiana Jones and the Great Circle、 Forza Horizon 5、 Doom: The Dark Ages も PS5 リリースが既定路線となった。
「Xbox はハードではない」── 2025年のシフト
2025年、 Microsoft は決定的な一歩を踏み出した。 ASUS ROG Xbox Ally ── ASUS 製のポータブル PC に「Xbox」ブランドを冠した携帯機。 Ally が599ドル、 上位の Ally X が 999ドル。 これは Xbox 自家製ハードではなく、 ASUS の OEM 製品に Xbox ソフトウェア層を載せた構成。
Phil Spencer は「次世代 Xbox 本体はファーストパーティ製を出す」と明言しつつも、 「Xbox とはすべてのデバイスを一つに繋ぐソフトウェアプラットフォームだ」と再定義した。 Xbox は箱の名前ではなく、 サブスクリプション・クラウド・OS レイヤーの総称になりつつある。
社内のリーダーシップも変動した。 Phil Spencer(Microsoft Gaming CEO)、 Sarah Bond(Xbox President)、 Matt Booty(Game Content & Studios 担当)の三人体制が継続するも、 Spencer の2025年内の退任観測(後に本人が否定)、 Xbox スタジオの相次ぐ閉鎖(Tango、 Arkane Austin)、 大規模レイオフ ── 「Xbox という組織」自体が緊張下にある。
第9世代を振り返って
2026年時点、 Xbox Series X/S 累計販売は推定2800〜3000万台で停滞。 PS5 の3分の1。 単純なハード戦争という指標では Microsoft は敗北した。
しかし Game Pass の有料加入者は3400万を超え、 Activision Blizzard 買収による IP 収益は年間100億ドル規模、 自社 IP を競合プラットフォームに出す異例の路線で売上を拡大している ── ハード負け × ソフトウェア&サービス勝ち、 という不均衡な勝敗表が成立しつつある。
Xbox が示したのは、 家庭用ゲーム機を 「箱を売って成り立つ事業」から「サービスを売る事業」へと脱皮させる試みだった。 その試みが完全に成功したとは言えないが、 業界の他のプレイヤー(Sony 自身を含む)がその方向に流されているのも事実である。 第9世代で Xbox が失ったのはハード設置数で、 得たのは「家庭用機ビジネスのルールを書き換える権利」だったかもしれない。