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Snapchat 公開 ── 「消えるメッセージ」と AR の発火点
メタデータ
- 日付
- 年代
- 2010s
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- T1
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- ソーシャルメディアの歴史
- 出典数
- 13
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2011年9月、 スタンフォード大学のプロダクトデザインクラスの課題から生まれた一本のアプリが、 App Store に Picaboo として登場した。 開発者は学部生の Evan Spiegel、 Bobby Murphy、 そして Reggie Brown。 数ヶ月後に名前を Snapchat に変える ── 送り手が1〜10秒の表示時間を指定し、 閲覧が終われば受信側から消える。 当時の SNS の常識を真逆に行く設計だった。
この「ephemeral(はかない、 消える)」 という発想は、 後の SNS 設計に二つの大転換をもたらした。 ひとつは Stories フォーマット(Instagram、 Facebook、 LinkedIn、 X、 YouTube がすべて模倣)、 もうひとつは 顔認識 AR レンズ という新カテゴリの登場である。
創業 ── スタンフォードの寮の課題から
Snapchat のアイデアは、 スタンフォードの寮 Kimball Hall で Reggie Brown が漏らした一言 ── "I wish I could send disappearing photos"(消える写真を送れたらいいのに) ── から始まる。 Evan Spiegel の返答は "That's a million-dollar idea!" だった。 これは大学生らしい文脈 ── うっかり送った写真や不適切なメッセージが、 スクリーンショットで永続的に残るという不安への直球の解答だった。
三人は Spiegel が受講していたプロダクト設計の授業で試作し、 2011年7月に Picaboo として公開、 9月に Snapchat に改名。 開発が進む過程で、 Reggie Brown はチームを離脱する。 Brown は2013年に提訴し、 2014年9月に和解。 和解額は非公表だったが、 2017年の S-1 が 1億5,750万ドル(2014年に5,000万ドル、 2016年に1億750万ドルを支払い) と開示した。 Spiegel と Murphy は和解時の共同声明で、 Snapchat の創出に対する Brown の貢献を認めている。
公開当初は伸び悩んだが、 ロサンゼルスの高校生コミュニティで爆発的に広がる。 親や教師の監視を逃れた「閉じた会話」を求める十代の需要が、 完璧に噛み合った。 Snap 自身が S-1 に載せた成長曲線は DAU(登録済みユーザのうち24時間に1回以上アプリを開いた人数) で書かれている ── 2011年に1,000人超、 2012年に10万人超から100万人超、 2013〜2014年に5,000万人超。 SNS の常套句である MAU ではなく、 Snap は創業期から一貫して DAU を主要指標にしている。
Facebook の30億ドル買収提案を拒絶(2013年)
2013年11月、 Wall Street Journal が、 Facebook が 30億ドル 前後の現金買収を提示し、 23歳の Spiegel がこれを断ったと報じた。 金額も提示の事実も両社は公式に確認していない ── あくまで報道ベースの数字である。
それでも、 これは Web 史に残る「断った M&A」のひとつとなった。 当時の Snapchat は売上ゼロ、 創業から2年。 Facebook が前年に Instagram を買った額(10億ドル) の3倍、 Yahoo の Tumblr 買収(11億ドル) を上回る規模の提示だった。 WSJ の報道によれば、 Spiegel は売却を少なくとも翌年初まで先送りし、 アプリの成長でより高い値付けを引き出す構えだった。
その後も Spiegel は売らなかった。 Business Insider は2017年8月、 Google が2016年に 300億ドル 規模の買収を非公式に打診していたと報じている(これも当事者の確認は無い)。 結果として2017年の IPO 公開価格ベースの評価額は、 Facebook の提示と報じられた額の 8倍(約240億ドル) に達する。
Stories フォーマットの発明(2013年10月)
Snapchat 単体のメッセージ「消える写真」は、 1対1の閉じた通信に過ぎなかった。 これを拡張したのが Stories 機能だった ── 友達全員に対して、 24時間で消える写真・動画を公開できる「セミパブリック」フォーマット。
Stories は SNS のフィード設計を根本的に変えた ──
- 永続的なフィードに加えて、 「今この瞬間」のレイヤーを持つ
- 写真の品質に対するハードルが下がる(24時間で消えるから)
- 投稿頻度が劇的に上がる
- 縦長フルスクリーンを前提に設計された、 主流としては最初のフォーマット
2016年8月2日に Instagram が Stories をほぼそのまま実装、 2017年3月に Facebook、 続いて LinkedIn、 Twitter(Fleets として2020年11月、 2021年8月に廃止)、 YouTube(Stories として2018年に導入、 2023年6月26日に終了) が追随した。 Snapchat は形式を発明したが、 Instagram のスケールに圧倒され、 「発明者が市場を取れない」典型例となった。
Snap Inc. と Spectacles(2016年)
2016年9月、 Snapchat は社名を Snap Inc. に変更し、 同時にハードウェア製品 Spectacles を発表した ── 動画録画ボタンと無線同期機能を備えたサングラス。 翌年の S-1 の第一行は "Snap Inc. is a camera company." で始まる。
Spectacles の第1世代は需要を読み違え、 2017年Q3 に在庫引当と発注キャンセルで 3,990万ドル を計上した。 売れ残りは30万台規模と報じられている。 だが Spiegel は AR グラスへの投資を続け、 2021年に第4世代 Spectacles として、 レンズに AR を実際に重畳表示する開発者限定モデルを公開。 2024年9月には第5世代を、 やはり開発者向けに出した。
そして2026年、 Snap は消費者向けに踏み出す。 1月28日に AR グラス事業を完全子会社 Specs Inc. として分離し、 6月16日の Augmented World Expo で SPECS を発表 ── 51度の視野角を持つ LCoS ディスプレイ、 Snapdragon 2基(コンピュータビジョン用と Lens 用)、 モーション・トゥ・フォトン遅延7ミリ秒、 47mm 版132g / 52mm 版136g。 価格 2,195ドル、 2026年秋に米国・英国・フランスで出荷予定。 Meta・Google の Android XR と並ぶ AR グラスの主要プレイヤーとして投資を継続している。
2017年 IPO ── 240億ドルの評価
2017年3月1日に公開価格が1株 17ドル に決まり、 この値付けでの評価額が約240億ドル。 翌3月2日、 Snap Inc. はニューヨーク証券取引所で取引を開始し、 初値24ドル、 終値24.48ドル(+44%)。 初値ベースの時価総額は約330億ドルに達した。 26歳の Spiegel は最年少クラスの上場企業 CEO となる。
IPO 後の数年は苦難の時期だった ── 2018年のリデザイン失敗で DAU が落ち、 Kylie Jenner が2月21日に投稿した "sooo does anyone else not open Snapchat anymore? Or is it just me… ugh this is so sad."(もう Snapchat 開かないの私だけ? 悲しい) を受けて翌日 Snap 株は下落し、 報道は時価総額13億ドルが消えたと伝えた。 ただし株価は2日前に Citi がリデザインへの反発を理由に投資判断を引き下げた時点から既に下げており、 ツイートは引き金というより加速装置だった。 2022年8月には社員の20%・1,200人超を削減。 だが2023年から AI 機能(My AI など) に投資し、 2026年に DAU 成長を回復する。
2026年の Snapchat
Snap Inc の2026年Q1(5月6日発表) の指標 ──
- DAU 4.83億人(前年同期比 +5%、 2025年Q1 の4.60億人から +2,300万人)
- MAU 9.56億人(同 +5%、 +4,300万人)
- 地域別 DAU は 北米9,200万人(−7%)・欧州9,700万人(−2%)・その他2.94億人(+12%)。 成長は完全に北米外にある
- 売上15.3億ドル(+12%)、 うち広告12.4億ドル(+3%)。 ARPU は全社3.17ドル、 北米9.23ドル
- Snapchatter の75%超が毎日 AR に触れ、 Lens は1日平均90億回使われている
「Facebook より小さい、 Instagram より小さい、 TikTok より小さい」 が、 Z 世代の友達同士の閉じた通信プラットフォームとしては独自のポジションを維持している。 ただし本国の北米だけは、 直近6四半期すべてで DAU が前年割れしている。
発明はしたが、 広めたのは他社だった
Snapchat が SNS の歴史に刻んだのは、 三つの転換 ──
1. 「永続しない投稿」というメンタルモデル: それまでの SNS(Facebook、 Twitter、 Instagram、 LinkedIn) は「永久に残る」前提だった。 Snapchat は「消える」前提を導入し、 友達間カジュアル投稿の心理的ハードルを劇的に下げた。
2. Stories フォーマット: 24時間で消える縦長フルスクリーンの投稿形式は、 SNS 全体の標準機能となった。 これは Snapchat が発明したが、 受益したのは主に Instagram。 一方で、 これがなければ TikTok の縦長フルスクリーン UI も存在しなかった。
3. 顔認識 AR レンズの大衆化: 2015年9月に Snapchat が1億5,000万ドル(報道ベース) で買収したウクライナ発の Looksery の顔追跡技術を基盤とする AR レンズ(犬の耳、 花冠、 性別交換フィルターなど) は、 AR を億単位の人間が日常使いする最初のインターフェイスとなった。 後の TikTok エフェクト、 Instagram フィルターはすべてこの延長にある。
23歳で30億ドルを断ったと報じられた創業者の物語は、 シリコンバレーの典型的成功譚として残り続けている。
よくある質問
- Snapchat を作ったのは誰ですか。
- スタンフォード大学の Evan Spiegel、Bobby Murphy、Reggie Brown の3人です。2011年7月に Picaboo として公開し、9月に Snapchat へ改名しました。Brown は開発途中にチームを離れ、2014年9月に和解しています。
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